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[感想] Next to Normal:みんな辛いし時間もかかるというリアリティ
シアタークリエの公演のリセールチケットを入手できたもの。退団されてからはるかにパワーアップされた望海風斗さんのパフォーマンスとスマートな脚本が、本当に本当に素晴らしくて涙が止まらなかったという話です。
ネタばれします。おすすめです。
概要
精神疾患を抱える主人公ダイアナとその家族を中心としたそれぞれの苦悩と治療のプロセスを描いた、キャスト6人で約3時間みっちり詰めこまれたストーリー。幻覚とその要因となった過去の喪失を受け入れるまでのダイアナの辛く長い道のり、間近に見てきた母親の状態を将来の自分に重ねずにいられない不安と寂しさを抱えた娘ナタリー、自分の喪失を主人公を支える中で脇に置かざるを得なかった夫ダン、この3人に次々に感情移入してしまう。いくら頼るまいと思っていても、誰もが支える人がいてこそ何とか生きていけるんだよ、一人で生きていけるなんて全てがうまくいっているときだけなんだよ、と思わずにいられない。
感想
退団公演以来の生望海さんに惚れ直しました。歌も演技も格段に違って、リアルに舞台のキャラクターが生きていて、繊細で、どんな小さな声でも染み渡るような力があって。男役時代も、ちょっと子供っぽい頑固さや純粋さを残したようなキャラクターが多かったイメージもあり、それがはまってらしたのも、何とも言えない線の細さというか、脆さのようなところが表現できる方だったからなんだろうな、そこがあの頃の雪組全体のお芝居のバランスの核となってたんだろうなと思い出される。特に、これまたお芝居の細かい彩凪翔さんとの2人だけでいるときの、舞台の雰囲気の緊張感というか完成度の高さが大好物だったのです。なつかしい。。
それと、当時から大好きだった望海さんのエネルギーは健在で、さらにパワーアップした形で爆発していたし、舞台を支配していたように感じてとにかく嬉しかった。最高。今回のストーリーであれば、調子が悪く、感情が爆発している時のその異常さや、夫や娘が自分を殺してきたと繰り返し言うほどそれに必死で支えてきた、その苦労を察することができるような、まさに全身からのエネルギーの爆発で。また、そのエネルギーも少し調子が良くなった時の生きる力とか治療を続ける決意とかモチベーション、そういったものが少しずつ取り戻していっていることが目に見えるようだった。もちろんほかの役者さんとの化学反応もあるとはいえ、主人公があれくらいのパワーを放って初めて全体の説得力が出てくるところがあるだろうなとも。
気になるところといえば、演出が少し。古い作品をあまりにそのまま持ってきすぎではないか、というもやもや。9to5ほどではないけれど、現代かつ日本という文脈のために多少調整したほうが観やすいはず。具体的には、マリファナとかコカインを使用する表現がごりごり出てくる点(と、9to5はセクハラ表現の一部)。作品の文化的背景は大事とはいえ、タバコや酒への置き換えで対応できそうにもかかわらず、これがあることでストーリーに没入しているところ急に「ひと昔前のアメリカの作品をもってきた作品です」という表示が現れたような感覚に陥る。自分が過敏すぎるのかもとはいえ、本場で10作品以上観てても滅多にこういう表現が出てこなかったにもかかわらず、帰国後の2作品でがっつりシーンとして出てくるのにギャップを感じずにいられない。もう1作品みてまたそんな感じだったら、いよいよ心の準備がいる作品の演出家、と構えないといけないかもなと。
ともあれ脚本が本当に素晴らしいのだと思う。重たいテーマで長い作品にもかかわらず、セリフに一切冗長なところも湿っぽすぎるところも暗すぎることもなく、よってエネルギーを吸われないのでとても観やすいと思います。台本がめちゃくちゃほしい。
また機会があれば観に行きたいし、全力でおすすめします。