離婚後の共同親権について― 離婚後の子の養育の現状と共同親権に関する議論 ―
この記事は、参議院事務局企画調整室編集・発行の『立法と調査』に掲載された下記の論文を、参議院事務局企画調整室の許諾を頂いた上で、転載したものです。
掲載誌:『立法と調査』第427号(令和2年9月11日発行)pp.187-199
論文名:「離婚後の共同親権について― 離婚後の子の養育の現状と共同親権に関する議論 ―」
執筆者:石塚 理沙
離婚後の共同親権について
― 離婚後の子の養育の現状と共同親権に関する議論 ―
石塚 理沙
(法務委員会調査室)
はじめに
我が国の親権制度
離婚後の子の養育の現状
離婚後共同親権制度の導入をめぐる主な動き
諸外国の親権制度
主な論点
おわりに
1.はじめに
我が国では、子が未成年の場合、婚姻中は父母が共同して親権を行使するが、離婚したときは、父母どちらかの単独親権となる¹ 。離婚後も父母双方が子育てに適切に関わることが子の利益の観点から重要であるとされているが² 、現状では、面会交流³の実施状況や養育費⁴の支払率は低調である⁵ 。また、単独親権は子育ての意思決定はしやすいが、親権を失った親が養育に関わりにくく、子との交流が絶たれるケースも少なくないとの指摘もされている⁶。離婚後も父母双方が子の親権を持つ共同親権であれば、離婚後も父母双方 に子の養育責任があることが明確になり、円滑な面会交流や養育費の支払確保が期待されることなどから、近年、離婚後の共同親権の法制化を求める声が高まっている⁷。
本稿では、我が国における親権制度と離婚後の子の養育の現状、離婚後共同親権制度の導入をめぐる動き、諸外国の親権制度を概観した上で、離婚後の共同親権に関する論点を整理する。
2.我が国の親権制度
(1)親権とは
親権は、親が未成年の子を健全な一人前の社会人として育成すべく養育保護する権利義務であり、その内容は、大別して子の監護及び教育に関する親の権利義務(身上監護権)と子の財産管理や法定代理に関する権利義務(財産管理権)とされる⁸。婚姻中の父母は未成年の子に対して共同して親権を行使するが(民法第818条第1項、第3項)、離婚後は父母のどちらか一方が親権を行使することとなる(民法第819条第1項)。
(2)離婚後の親権者の指定
離婚後、父母のどちらが親権者となるかは協議で決めるが⁹、協議が調わないときは、家庭裁判所で定める(民法第819条第5項)。裁判上の離婚の場合は、家庭裁判所が離婚の認容と同時に職権で親権者を指定する(民法第819条第2項)。
親権者を指定するときは、「子の利益」が判断の基準となる。何が子の利益であるかは、親子を取り巻く様々な事情を総合的に比較衡量して判断される¹⁰。なお、平成30年では、離婚後に父親が親権者となったのは11.9%、母親が親権者となったのは84.5%である¹¹。
父母双方が子の親権者でありたいと思った場合には、互いの監護能力の優劣を争うこととなり、過去の言動を事細かに指摘して相手方の人格を誹謗中傷する、監護実績を作るために子との同居を確保し、別居親に会わせない、実力行使で子を連れ去るといった事態が生じることがあり、親権者になれないと子と会うことができなくなるのではないかという不安が、親権争いを熾烈にさせるとの指摘がある¹²。
3.離婚後の子の養育の現状
父母が離婚をするときは、面会交流や養育費など子の監護に関する事項について協議で定めることとなっており、その取決めは子の利益を最も優先して考慮しなければならないとされている(民法第766条第1項)。この規定は、平成23年の民法改正¹³により明文化された。これに伴い、平成24年4月から離婚届の右下欄に、未成年の子がいる場合などの面会交流と養育費の分担について取決めの有無をチェックする欄が設けられた¹⁴。また、法務省では、平成28年10月から、面会交流と養育費に関するパンフレットを作成し、全国の市町村等において離婚届の用紙と同時に配付している¹⁵。さらに、養育費相談支援センターや母子家庭等就業・自立支援センター等において面会交流や養育費についての相談に応じている¹⁶。
しかし、面会交流の実施状況や養育費の支払率は低調であり(図表1)、その理由として、協議離婚の場合には必ずしも法律の専門家等の関与がないことから、離婚当事者が面会交流や養育費の重要性について十分に認識することがないまま離婚に至っている可能性があると指摘されている¹⁷。
また、令和2年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大により、子への感染を恐れた面会拒否や、政府の緊急事態宣言を受けた家庭裁判所の調停期日取消の影響で、面会交流ができなかったり、回数が減ったりするケースが増えていると報じられている¹⁸。これに対して、法務省は、子の安全の確保や感染拡大防止の観点から、事前に取り決められていた条件での面会交流を実施することが困難な状況が生じた場合、父母間で話合いが可能であれば、ビデオ電話や電話等の代替的な交流方法を検討し、話合いが困難であれば弁護士等の専門家に相談するよう促している¹⁹。
4.離婚後共同親権制度の導入をめぐる主な動き
平成23年の民法改正の際、衆参両院の法務委員会で、親権制度については、離婚後の共同親権・共同監護の可能性など、多様な家族像を見据えた制度全般にわたる検討をする旨の附帯決議が付された²⁰。その後の政府の対応や離婚後共同親権制度の導入を求める動きを紹介する。
(1)政府の対応
ア 諸外国の親権制度の調査研究
法務省は、日本における離婚後の親権制度の在り方について、法整備の必要性等を検討するため、一般財団法人比較法研究センターに委託するなどして、諸外国の親権制度の調査研究等を行ってきた²¹。
平成31年3月には、法務省から外務省に対し、24か国を対象として離婚後の親権制度や子の養育の在り方等についての調査を依頼し²²、令和2年4月に結果を公表した²³。
イ 家族法研究会
令和元年11月より、法務省の担当者も参加する公益社団法人商事法務研究会主催の家族法研究会²⁴(以下「研究会」という。)において、父母が離婚をした後の子の養育の在り方、離婚後共同親権制度の導入の是非、面会交流の促進を図る方策等が検討されている。1年以上かけて議論し、法改正が必要との結論に至れば、法制審議会に諮問するとしている²⁵。
(2)議員連盟の対応
平成26年3月に超党派の親子断絶防止議員連盟(平成30年2月に「共同養育支援議員連盟」に改称。)が発足し、平成28年12月の議員連盟総会において、「父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案」が承認された²⁶。本法律案は、父母の離婚等の後も子が父母と親子としての継続的な関係を持つことは原則として子の最善の利益に資するものであり、父母がその実現についての責任を有するという基 本的認識の下、その実現が図られなければならない等の基本理念に基づき、①離婚時に面会交流及び養育費の分担に関して、書面により取決めを行うよう努める、②定期的な面会交流を安定的に実施できるよう努める、③国は離婚後の父母と子の継続的な関係維持を促すため必要な啓発活動及び援助を行う、④児童虐待、DVその他の事情がある場合には、面会交流を行わないことを含め、特別の配慮をすること等が盛り込まれている²⁷。また、附則において、離婚後共同親権制度の導入について検討を加え、必要があればその結果に基づいて所要の措置を講ずるものとしている²⁸。なお、本法律案は、現時点において国会提出には至っていない。
(3)海外からの勧告等
ア 児童の権利委員会による勧告
2019(平成31)年2月、国連の「児童の権利委員会」が、日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見において、「児童の最善の利益である場合に、外国籍の親も含めて児童の共同養育を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正し、また、非同居親との人的な関係及び直接の接触を維持するための児童の権利が定期的に行使できることを確保する」ため、十分な人的資源、技術的資源及び財源に裏付けられたあらゆる必要な措置をとるよう日本に勧告した²⁹。これに対し政府は、勧告については真摯 に受け止めているとしている³⁰。
イ 欧州議会の決議
2020(令和2)年7月、欧州議会は、加盟国の国籍をもつ人と日本人の結婚が破綻した場合などに、日本人の親が日本国内で子を一方的に連れ去るケースが相次いでいる³¹として、連れ去りを禁止する措置や共同親権を認める法整備などを求める決議を採択した³²。これに対し森法務大臣は、離婚に伴う子の連れ去りや親権制度をどうするかとい う問題は複雑だが、子の利益を最優先として、様々な意見に耳を傾けながら検討を進める旨発言している³³ 。
5.諸外国の親権制度
(1)離婚後の親権について
ア 離婚後の親権行使の態様
法務省の調査によると、インド及びトルコでは離婚後は単独親権のみが認められているが、その他の多くの国では単独親権だけでなく共同親権も認められている(図表2)。
共同親権を認めている国の中でも国によって差異があり、例えば、ドイツ、オーストラリア等は裁判所の判断等がない限り原則として共同親権としているが、カナダ(ブリティッシュコロンビア州)、スペイン等は父母の協議により単独親権とすることもできるとしている³⁴。また、インドネシアでは多くの場合、養育している親が子に関する事項を決定し、共同で親権を行使することはまれである³⁵ 。
なお、イギリス(イングランド及びウェールズ)及び南アフリカでは、父母のいずれもが、それぞれの親権を単独で行使することができるとしている³⁶。
イ 離婚後に父母が共同して行使する親権の内容
離婚後の共同親権を認めている国の中には、離婚後に父母が共同して行使する親権の内容を限定している国もあり、例えば、ドイツでは子にとって著しく重要な事柄の決定には父母の合意が必要であるが、子の日常生活に関する事柄については、同居親が単独で決定する権限を有するとしている³⁷。また、メキシコでは、離婚後も父母共に親権を有するが、双方が共同で行使することとしているのは財産管理権のみで、監護権については父母の一方が行使することとしている³⁸。
ウ 離婚後の共同親権の行使について父母の意見が対立する場合の対応
離婚後の共同親権の行使について父母が対立した場合は、最終的に裁判所が判断する国が多い³⁹。裁判所の判断に当たり、外部の専門家や関係機関の関与が認められている国もある。例えば、オーストラリアでは、裁判所は、子にとって最も適切な判断をするために、子及び家族についての専門性及び経験を有するソーシャルワーカーや心理学者を、家族コンサルタントとして指名することができ、家族コンサルタントから裁判所へ報告書が提出される⁴⁰。裁判所における判断以外の対応として、韓国では離婚時にあらかじめ紛争解決方法を決定している場合には当該決定に従って解決するとしている⁴¹。また、タイでは、児童 の保護に関して権限を有する社会開発・人間の安全保障省が、両親の一方の通告を受けて、子に対する非合法な取扱いをしていると疑われる親に対して助言や警告をすること ができる⁴²。
(2)離婚後の子の養育の在り方
ア 面会交流及び養育費の取決め
面会交流及び養育費について、離婚時に取決めをすることが法的義務とはされていない国が多いが、韓国、オーストラリア、オランダ等では法的義務とされている⁴³。法的義務とされていない場合でも、離婚のために裁判手続を経る過程で、離婚を認める条件や共同親権に関わる内容として取決めがされている例がある⁴⁴。
イ 公的機関による面会交流及び養育費の支払についての支援
面会交流について、支援制度がある国が多く、父母の教育、カウンセリング、面会交流が適切に行われるよう監督する機関の設置等の支援が行われている⁴⁵。例えば、アメリカ(ワシントンDC)では、子の監護に関する裁判所の手続において、全ての親に子育てに関するクラスの受講を義務付けており、ドイツやスウェーデンでは、行政機関による面会交流の取決め支援が行われている⁴⁶。
養育費の支払については、例えば、アメリカ(ワシントンDC)では、コロンビア特別区政府の司法長官室養育費支援部門において、親の所在の特定、養育費を求める親を代理し裁判所の支払命令の取得、支払命令の執行(給与差押え、自動車運転免許・車両登録・パスポートの停止による間接強制等)といった支援を提供している⁴⁷。また、スウェーデンでは、両親の一方が養育費を支払わない場合に、同居親が低所得である場合には国から保護費が支払われることがあり、国が養育費を支払わない非同居親に対し、保護費分を求償することができる制度がある⁴⁸。
6.主な論点
(1)離婚後共同親権制度導入の是非
ア 離婚に伴う配偶者間紛争の深刻化の防止との関係
共働き世帯や育児参加する父親の増加、少子化などを背景に、子と親の結びつきが強くなっており、離婚に際して子をめぐる争いが増えている⁴⁹。子の親権を得るために、子を相手親に知らせず連れ去ったり、相手親による虚偽のDVを訴えるなど配偶者間の紛争が深刻化しており、このような親権をめぐる紛争を防ぐためにも離婚後共同親権制度の導入が望ましいとの意見がある⁵⁰ 。
一方、離婚後共同親権制度を導入した場合でも、親権をめぐる争いが主たる監護親をめぐる争いに形を代えるだけで、父母間の対立は緩和されないとの意見がある⁵¹。さらに、協議困難な父母間では、重要事項の取決めや共同での決定も容易ではなく、紛争の長期化や紛争の再発が懸念されている⁵²。
イ 離婚後の共同養育による子の健全な人格形成との関係
欧米諸国では、離婚後も子が両方の親との関係を維持することが、子の健全な人格形成に資するとの実証的知見を蓄積しており、例えば、親の紛争に巻き込まれた子の調査において、面会交流をしなかった子は、自己肯定感の低下、社会的不適応、抑うつ等で苦しむことが分かっている⁵³。欧米での共同親権は、子は両親からの愛情を受ける方が心身ともに健康に育つとの科学的知見に基づいているとされる⁵⁴。
一方、離婚は、両親の不和を見なくてすむ、緊張感のある生活から解放されるなど、子にとってプラスな面もあり、共同親権によって離婚したことのプラス面が損なわれるとの意見がある⁵⁵。また、両親の関係が良好でない場合、共同親権では親権の行使をめぐって双方が激しく対立し、子の利益を害することもあるとの指摘⁵⁶や、離婚後も共同親権を維持することで、子の福祉を害する親にまで権利が残ることになるとの指摘もされている⁵⁷。
ウ 円滑な面会交流及び養育費支払確保との関係
離婚後共同親権制度が導入されれば、離婚後も両方の親に子の養育責任があることが明確になり、別居親も子の養育に関わることができるので、円滑な面会交流や養育費の支払の確保が期待される。
これに対して、現行法でも面会交流や養育費の取決めは行うべきとされており、それが適切にされていないのは単独親権制度が理由ではなく、別途の制度的手当で解決すべ きとの意見がある⁵⁸。
エ DVや児童虐待との関係
離婚後共同親権制度の導入については、DVや児童虐待があった場合、被害の継続や拡大になるのではないかとの懸念がされている⁵⁹。共同親権の場合、子の重要事項について協議し、共同決定しなければならないので、協議の場面でDVが再燃する危険があることやストレスにより被害者の心身の回復が妨げられるとの指摘がされている⁶⁰。
これに対して、DVや児童虐待等を背景に親権喪失に相当する親など、共同親権者にすべきではない親については除外することが相当との意見がある⁶¹。その場合は、虚偽DVの存在等も考慮し、共同親権を認めない場合のガイドラインと一定の公的機関の認定などの手続保証が必須であると考えられている⁶²。
オ 家庭裁判所の過剰負担と体制整備の必要性
共同親権を設定する場合、裁判所は、父母の間で、強要や親の都合ではなく子の福祉を目的とした合意があるか、共同養育の計画は具体的か等を事案に即して検討する必要があり、共同親権設定後も、一方の親が親権を濫用する場合は、共同親権者の同意に代わる裁判所の許可や、単独親権への移行の是非を検討し続けなくてはならないため、現在の家庭裁判所では負担に耐えられないとの指摘がされている⁶³。離婚後共同親権制度を導入するためには、家庭裁判所の人員や予算の拡充が必要であり、体制整備を怠れば子の福祉が大きく害されるとの意見がある⁶⁴ 。
カ 子連れ再婚家庭への影響
離婚後共同親権制度を導入した場合、養子縁組の代諾に関する民法の規定⁶⁵を前提とすると、連れ子と再婚相手の養子縁組をする際に、再婚する親だけでなく、共同親権者であるもう一方の親の承諾も必要となる⁶⁶。承諾が得られず養子縁組ができない場合、子の進路決定や重大な医療方針の決定の際に、同居している再婚相手は関わることができず、同居していない親が親権者として関わることになり、再婚家庭の人間関係が安定せず、子の生活の安定も遠のくとの意見がある⁶⁷。
(2)離婚後共同親権制度を導入する場合の検討課題
ア 父母が共同で決定しなければならないことの具体的内容
離婚後共同親権制度を導入する場合には、父母が離れて暮らしている以上、通常は、子の主たる監護者を父母のいずれか一方に定めることとなるから、監護者が単独で決められることと、共同でなければ決められないことの区別が問題となる⁶⁸。
研究会においては、子の養育上決定を要する事項は重要性や緊急性等の要素で分類できるのではないかとの観点から、①父母の双方を決定に関与させるべき事項(進学先の選択、宗教の選択、生命に関わる医療行為の決定等)、②現に子を監護している者が即時に判断すべき事項(日々の服装や食事の決定、子の生命に関わり時間的猶予がない医療行為の決定等)、③これらの中間に位置付けられる事項(子の習い事の選択、生命に関わらない医療行為の決定等)に分類することが検討されている⁶⁹。
一方、子の養育上決定を要する事項を、(α)子の人生に広範かつ重大な影響を与え得る事項と、(β)それ以外の事項に分類するということも考えられている⁷⁰。どちらの分類方法であっても、実際に全ての事項をリスト化することは不可能であるから、一方をある程度リスト化し、それ以外のものを他方に分類するやり方しかできないとの指摘 もされている⁷¹。
イ 離婚後の子の養育上の決定への関与態様とその選択の在り方
父母の双方が子の養育上の決定に関与するとした場合、どのように関与するかが問題となる。研究会では、①常に双方の事前の合意を必要とする制度、②単独で決定することができるとし、他方の親は決定に対する異議申立てにより関与する制度が考えられるとしている⁷² 。 また、離婚後も父母が共に子の養育上の決定に関与できるとする場合、決定への関与態様について様々なものが考えられることから、個々の親子関係に適当なものを個々の父母が選択するという制度や、選択時における公的機関の関与の必要性について検討が必要であるとされている⁷³。
ウ 適時適切な合意形成を可能とするための方策
父母の双方が決定に関与すべき事項について、常に双方の事前合意を必要とした場合、父母が合意を成立させることができず、子に関する決定を適時適切に行えなくなることで、子の利益を害するおそれがあると懸念されている⁷⁴。このような状況を防ぐため、父母間で合意が成立しない場合にどちらが決定権を有するかを離婚時にあらかじめ定めることや、公的機関が父母に代わって決定することが考えられている⁷⁵。
公的機関の介入については、例えば、子の進学先や医療方針の選択等は、親の価値観、人生観に関わる問題ともいえ、優劣をつけることができず、このような判断は裁判所の能力を超えるとの意見がある⁷⁶。また、司法の判断には時間がかかり、事態の進展に追いつかないとの指摘や⁷⁷、協議が調わないたびに弁護士に依頼して調停等を申立て裁判所を利用することによる当事者の経済的負担が大きいとの指摘もされている⁷⁸。
一方、父母それぞれが単独で子の養育上の決定をすることができるとした上で、他方の親が異議申立てをすることができるとした場合は、子の養育上の決定が暫定的とはいえ適時にされることとなるが、医療行為等、一旦行われたら原状に戻すことが不可能ないし困難な事項との関係で検討の必要があるとされている⁷⁹。
7.おわりに
児童の権利に関する条約が1989(平成元)年に国連総会で採択されてから、離婚後も父母双方と関わりを持ち続けることを子の権利として尊重する風潮が世界的に広まり⁸⁰、国によって具体的な内容は異なるものの、離婚後の共同親権を認めている国が多い。我が国においても、離婚後も父母双方が面会交流の実施や養育費の支払等を通じて子育てに関わるよう促しているが、現行制度の下での運用では十分でないとの指摘がされており⁸¹、離婚後の子の養育の在り方について検討が進められている。
離婚後の共同親権については、法制化を求める動きがある一方、DV被害の継続等を懸念し、慎重な検討を求める意見がある⁸²。政府においても、「父母が離婚後も子の養育に積極的に関わるようになることが期待される一方で、子の養育について適時に適切な合意を形成することができないときは子の利益を害するおそれがある」としている⁸³。離婚後共同親権制度の導入の是非に関して、様々な意見があることから、法律の専門家だけでなく、 離婚を経験した当事者等の意見も踏まえて十分に議論する必要があるだろう⁸⁴。また、諸外国では、面会交流や養育費の取立ての支援体制等を整えた上で離婚後の共同養育を推進してきたとの指摘もされており⁸⁵、離婚後の親権制度だけでなく、面会交流の実施や養育費の支払確保に対する公的支援の在り方等についても十分な検討が望まれる⁸⁶。
子の利益を害することなく、離婚後も父母が適切な形で子の養育に関わることができるようにするためにどのような方策が示されるのか、今後の議論を注視したい。
(いしづか りさ)
(了)