第3章:別居後の子育て-子どもに焦点を当てる 養育計画の作成~別離後の子育ての取決めガイド~
カナダ司法省のウエブサイトに掲載されている
Making Plans
A guide to parenting arrangements after separation or divorce
How to put your children first
という冊子の「第3章」を翻訳・紹介します。
あなたと一方の親が夫婦であったとき、夫婦として、また親としての交流は結びついていました。別居や離婚をすると、それまでの夫婦関係から離れ、共同子育てをする新しい関係を築く必要があります。
共同子育ての関係の大きな特徴は、子どもにとって何が最善かを考えることです。共同子育ての関係には様々な種類があります。共同子育ての内容は、あなたと一方の親がどの程度仲良くするかなど、様々な要因によって決まります。例えば、顔を合わせて子どものことを話し合える親がいます。一方で、それが難しく、メールや文章で、必要なときにだけコミュニケーションをとりたいと考える人もいます。
共同子育ての関係がぎくしゃくしていると感じたら、以下のルールを守ってみてください。
・口頭または書面で合意したことしか、お互いに期待してはいけません。
・あなたと一方の親とのミーティングは比較的フォーマルなものにする。中立的な場所(例えば、喫茶店)で、時間を決めて行い、話し合うべき問題をリストアップしておく。
・お互いに感情的にならないようにする。
・子育てに関連すること以外、個人的な情報を共有しない。
・メールや文章を深読みしない。怒りや皮肉のこもったメールを送った本人にそのつもりはないかもしれません。
・二人にとって支障がないコミュニケーションの方法を見つける。妥当な回答期限を定める。
夫婦の関係から共同子育ての関係には、直ぐに変わりません。努力する必要があります。あなたと一方の親が共同子育てを実践する親としてのコミュニケーションを身に着けるまでには、暫く時間がかかるかもしれません。
別居している親が子どものことで口論しても、実際に口論している原因は子どものことではないことがあります。二人の言い争いは、本当は夫婦だった頃に起こったことが原因かもしれません。子どもを通してお互いを支配しようとしているのかもしれません。一方の親に対する気持ちと、子どもに対する気持ちを切り離す努力が必要です。
自分の身の安全が心配な場合は、一方の親と密接に協力しなければならないような共同子育ての関係は適切ではないかもしれません。
第6章「特別な問題」では、安全面での懸念が継続している場合の養育時間のスケジュールや、意思決定方法に関する提案が掲載されています。
共同で子育てをするための幾つかのヒント
共同子育てを身に着ける際には、以下のことを忘れないでください。
・怒りを脇に置き、子どものニーズを優先して協力する。
・礼儀正しく、一方の親に敬意を持って接する。
・皮肉、無礼、侮辱を避ける。
・コミュニケーションは簡潔に、要点だけを伝える
特に、一方の親に対して強い否定的な感情を抱いている場合には、難しいことかもしれません。しかし、一方の親に敬意を持って接することで、あなたの話に耳を傾けてくれる可能性が高くなります。
一方の親と友達になる必要はありません。しかし、子どもの利益のために親として協力する方法を見つける必要があるのです。
子どもに関して一方の親と正直に話し合う準備をしておきましょう。夫婦だった頃は一緒に暮らしていたので、ある種のやり方が当たり前になっていました。共同子育ての関係では、何を期待し、誰が何をするのかを明確にしておく必要があります。
例えば、どのくらいの頻度でお互いに連絡を取り合うのか。電話、メール、テキストメッセージ、それとも直接会って話すのでしょうか?緊急の場合を除いて、夜は電話をしないなど、連絡を取る時間帯にルールを設けるべきでしょうか。子どもを送り出すときに、お互いの家に入った方が良いのか、それとも外で待つ方が良いのか。
誕生日、学校の休日、宗教上の休日(クリスマス、ハヌカ、イード・エル・フィトルなど)、文化的なイベント(パウワウやフェスティバルなど)、卒業式など、子どもの将来の特別な日について考えてみてください。両親が喧嘩をしたり、一方の親と一緒に過ごすことに罪悪感を覚えたりすることを心配していたら、子どもは楽しめるでしょうか。それとも、あなたと一方の親が意見の違いを脇に置いて、子どもを最優先する計画を立てた方が、このような場面が子どもにとってより有意義なものにならないでしょうか。
共同子育ての関係の構築を手助けしてくれる専門家はたくさんいます。法的助言者、カウンセラー、メディエーター、養育コーディネーター、子育てコーチなどが、一緒に子育てをする新しい方法を見つける手助けをしてくれます。
一方の親とのコミュニケーション能力を高める方法
積極的なコミュニケーションスキルに取り組むことで、子育ての問題を解決することができます。以下に、コミュニケーションに役立つ提案をご紹介します。
準備
悩みやストレスを抱えていると、言いたいことを全て思い出すのは難しいものです。一方の親に話したい重要なことがある場合は、あなたの考えをポイント形式で書き出してみましょう。考えを書き出すことで、問題点をよく考えることもできます。
聞く
聞くことは簡単なようですが、相手の話を聞く前に話し始めてしまいがちです。これでは、相手は自分の話を聞いてもらえなかったと感じてしまいます。また、誤解を招くこともあります。
カップルだったときは、相手との過去の経験に基づいて、相手が何かを言おうとしていることの結論に一足飛びするのは非常に簡単な場合があります。また、「神経を逆撫でする」ことも簡単です。一歩下がって、思い込みを脇に置くことが重要です。一方の親が何を言おうとしているかではなく、一方の親が実際に言っていることを客観的に聞くようにしましょう。
一方の親の話を全て聞いてから、以下の行為をしましょう。
・自分がどう答えるかを決める
・話を始める
「私は」で始まる発言の使用
問題に対する自分のニーズや感情を表現するために、「私は」で始まる発言を使うことができます。一方の親を責めるのではなく、自分がどう見ているのかに焦点を当てることができます。「私は」で始まる発言は、次のようなものです。
「(僕は)サラが僕に会いたいと言うのを聞いて、とても悲しい気持ちになってるんだ。(僕は)水曜日に一緒に過ごす予定になってはいるけど、ここのところ仕事をしていることが多いんだよ。(僕は)二人で協力して、この問題の解決策を見出したいんだけど」
一方の親が悪いと思っていることに焦点を当てた「あなたは」で始まる発言は避けましょう。
「あなたは、私が会いたいときにサラに会わせてくれない」
「あなたは」で始まる発言をすると、一方の親は身構えて、解決策を見つけるのが難しくなります。
復唱
一方の親が言ったと思われることを言い直したり、繰り返したりすることは、コミュニケーションの助けになります。復唱は、あなたが耳を傾けていることを示します。また、一方の親が言ったことを理解していることを示すこともできます。復唱は、一方の親が言っていることに同意しているとは限りません。ただ、相手の話を聞いたということを意味します。復唱とは、次のようなものです。
「あなたが言っていることは、サラともっと一緒にいたいけど、水曜日は仕事をしていることが多くて難しい。だから、あなたの仕事のスケジュールに合った解決策を二人で見つけようってことよね」。
子どもに焦点を当てる
全員の話を聞き、問題点を明らかにしたら、二人で協力して解決策を見つけることが大切です。
話し合いの焦点は、子どもが何を必要としているのか、子どもにとって何が最善なのか、という点に当てるべきです。どうすれば子どものニーズを満たすことができるでしょうか。また、実践的かつ現実的である必要があります。例えば、養育時間のスケジュールを話し合う際には、交通手段は勿論のこと、それぞれの親の仕事のスケジュールなどの問題を考慮する必要があります。
子どものニーズに焦点を当てれば、それぞれの親が「望んでいること」や「諦めていること」から注意をそらすことができます。結果的に親にとって都合が悪くなるかもしれませんが、子どもにとって最善の方法をとることが大切です。子どもに焦点を当てるというのは、次のようなことです。
「サラがあなたに会いたがっているのは分かっているわ。サラの行動予定表を見て、もっと頻繁に会える方法がないか考えてみましょうよ」。
あなたと一方の親がお互いに解決策を提案するように促せれば効果的です。二人が積極的に関与した決定には、二人とも同意しやすくなります。複数の解決策を奨励するとは、次のようなことです。
「サラがもっとあなたに会えるようにするには、私たちはどうしたらいいと思う?」
「僕がサラともっと一緒に過ごすためには、どんな選択肢があると思う?」
直接のコミュニケーションが取れない場合
あなたと一方の親との間にまだ多くの葛藤がある場合や、過去に虐待があったために安全上の問題がある場合は、問題を直接話し合うことができないかもしれません。その代わりに、以下のような方法でコミュニケーションを図ることができます。
・メールやテキストメッセージを利用する:この方法では、自分の返事を送信する前に考えることができます。口論になりそうな問題を話し合っている場合は、メッセージを下書きして、しばらく放置してから送信するとよいでしょう。電子メールやある程度のテキストメッセージは、議論の記録として必要に応じて参照することができます。また、全ての書面によるコミュニケーションは、良い行動と悪い行動の両方を記録することができることを覚えておいてください。電子メールやテキストメッセージを使ったコミュニケーションのヒントは、「付録A:電子コミュニケーションの利用に関するアドバイス」を参照してください。
・メディエーターやカウンセラーなどの専門家の助けを借りる
離婚法に基づく義務
紛争から子どもを守る
あなたが子どものためにできる最も重要なことの一つは、あなたと一方の親との間の争いから子どもを守ることです。離婚法に基づき、親はこの義務を負います。両親間の争いが少ないことは、別居や離婚後の子どものウェルビーイングにとって重要であることが、調査により明らかになっています。紛争は、子どもにとって有害な緊張感のある環境を作り出します。これは、肉体的虐待や精神的な虐待がなくても同じです。
つまり、あなたと一方の親は、子どもの前ではお互いに敬意を持って接するべきなのです。
争いが長く続くと、子どもにストレスや恐怖心を与え、感情や行動の問題を引き起こす可能性があります。例えば、研究によると、親同士の対立は以下の事項に影響を与えると言われています。
・子どもの身体的、心理的、感情的な健康状態
・子どもの社会的交流-交流相手は、あなたや他の家族、友人、さらには将来における自分の配偶者や自分の子ども
・子どもの学校での成績
両親同士の対立が続くと、子どもの悪い手本となります。健全な方法で意見の相違を解決する方法を示すことができないからです。争いから子どもを守るために気をつけたいことを幾つか紹介します。
・子どもの目の前で口論しない。
・子どもに聞こえる場所で口論しない。
・子どもに自分と一方の親との間の伝言を頼まない。
・一方の親を懲罰するために、以下のようなことはしない。
〇子どもを一方の親に会わせない
〇子どもを一方の親の家族や親戚に会わせない
〇養育費を支払わない
・子どもに一方の親を敵視して自分の味方をするように求めない。
・子どもの目の届くところに法的な書類を置いておかない。
・子どもに一方の親やその法的助言者との問題を話さない。
・子どもを自分の精神的なサポートに使用しない。
・子どもの不作法を罰するのに、一方の親と会わせない、話をさせないという手段を用いない。
・子どもが両方の親や親戚に興味を持つのを阻止しない。
・一方の親の悪口を子どもに言ったり、子どもが聞いてしまうような場所で言わない。
・他の人(友人、あなたの両親や親戚、新しいパートナーなど)にも、上述したことをさせない。例えば、子どもの休暇スケジュールなどについて一方の親と意見が合わない場合、子どもの前でその話をしてはいけません。代わりに、あなたと一方の親が電話で会話する時間を計画するか、電子メールやテキストメッセージでコミュニケーションをとることに同意してください。この方法でも紛争を解決できない場合は、カウンセラー、メディエーター、年配者、宗教的助言者、法的助言者などの人々に助けを求めることをお勧めします。
親がときどき行うゲーム
親が気づかないうちに、子どもを対立の渦中に巻き込んでしまうことがあります。別居中の親が子どもをお互いに対して利用しているという話を聞いたことがあるかもしれません。
子どもは既に多くの変化や感情に対処しなければなりません。親がいつも意図している訳ではありませんが、親の対立の渦中に子どもを入れる必要はありません。このような行動をとる親は、たいてい怒っているか、一方の親とコミュニケーションが取れないと感じています。その理由が何であれ、子どもに悪影響を与えることになります。
争いの渦中に子どもを入れたくはありませんよね。そこで、どのような行動を避けるべきか、幾つかの例をご紹介します。
子どもを「賞品」にする
両親が対立しているとき、どちらかの親が子どもを「味方」につけて「勝とう」とすることがあります。子どもに、自分が「正しく」、一方の親が「間違っている」と信じさせることが「賞品」なのです。一方の親は、子どもに離婚の原因を話しすぎるかもしれません。あるいは、一方の親がもう一方の親について否定的なことを言うかもしれません。
子どもが傷ついては元も子もありません。時間が経つにつれ、子どもは最初に「勝った」親に腹を立てるようになるかもしれません。子どもが大きくなり、何が起こったかをより理解するようになると、自分が利用されたと感じるかもしれません。
「交渉の切り札」としての子ども
一方の親がもう一方の親を脅して、自分の思い通りに行動させることがあるかもしれません。
「養育費を払わないなら、子どもに会わせない」とか
「渡したお金の使い道を言わないなら、養育費の支払いをやめる」
「新しいパートナーとの付き合いをやめないなら、子どもにはあまり会わせない」
親がこのような行動をとるときは、子どものことではなく、お互いの関係を重視しているのでしょう。
メッセンジャーとしての子ども
時には、親同士が直接会話をしないこともあります。その代わりに、子どもをメッセージャーとして利用することがあります。
「お父さんに、お父さんの家にいるときは宿題をしなければならないと言いなさい」。
「お母さんに、弁護士が私に電話してくるのをやめさせろと言いなさい
「お母さんに、買ってあげた服を返してくれと言いなさい」
これでは、子どもが対立の渦中に置かれてしまいます。これでは、子どもはストレスや不安を感じてしまいます。そうではなく、子育ての問題について、一方の親と直接コミュニケーションをとる必要があります。子どもを仲介役にしないようにしましょう。
スパイとしての子ども
一方の親が、もう一方の親について子どもにたくさんの質問をすることがあります。
「ママにはボーイフレンドがいるの?一晩中泊まっているの?」
「お父さんは新しい車を買ったの?"」
「ママは仕事を見つけたの?」
このような質問は子どもを困った立場に置くことになります。子どもは、自分が親のことを密告しているように感じたくないのです。また、このような質問は子どもを混乱させます。親が何か悪いことを本当にしているのではないかと、子どもを不安にさせてしまいます。その上、親がこのようにして得た情報は信頼性に欠けることが多いのです。
元パートナーのことを知りたいと思うのは当然のことですが、子どもがもう一方の親のことを「告げ口している」と感じないようにしなければなりません。
ディズニーランド・ペアレント
親は子どもが別居や離婚から受ける影響をもちろん心配します。時には親が離婚を贖ったり、子どもを愛していることを示すために、例えば、次のようなことをするかもしれません。
・高価なプレゼントを贈る
・休暇や外出に連れて行く
・家事を免除する
・門限など、年齢に応じた制限や責任を免除する。
これらは、短期的には子どもを幸せにするように見えるかもしれませんが、悪い結果を招くこともあります。一方の親は、そんな高価なものを買う余裕がなく、罪悪感を覚えるかもしれません。プレゼントを贈る側も余裕がないことがあります。
子どもにプレゼントを買ってあげても、離婚したことに対する埋め合わせにはなりません。また、どちらかの親が離れている時間の埋め合わせにもなりません。
更にまた、子どもの家事や責任を免除しても、子どものためにはなりません。子どもには、あなたが仕組みやルールを与え、責任を持つことを学ばせる必要があります。子どもはあなたにそれを期待していますし、あなたの親としての仕事の一部は、子どもが最終的に責任ある大人になるのを助けることです。
貶し合い
子どもの前で、あなたや一方の親がお互いを貶めることがあります。
「お父さんは頼りにならないわね」
「お母さんは決められないだ」
「どうしてお父さんはあなたをホッケーの試合に連れて行ったの?ホッケーなんてつまらないのに」
一方の親について良いことが思いつかなくても、ネガティブなことは言わないようにしましょう。あなたが一方の親を批判しているのを聞くと、子どもは一方の親に対して悪い印象を持ってしまいます。また、子ども自身も批判されているように感じてしまうこともあります。
子どもに金銭的な話をする
両親が一緒にいる家庭でも、家族が好きなものを全て買うことができないことはよくあります。別居すると、1つの世帯を支えていた収入が2つの世帯に分けられます。そのため、どちらかの世帯が好きなものに使えるお金が減ってしまうことがあります。
子どもが物を欲しがったり、活動に参加したがったりしたときには、その余裕がないことを説明しても問題ありません。例えば、「今はそんな余裕はないのよ」といったように。
お金の問題を子どもに話したり、その問題を一方の親のせいにしたりしないように気をつけましょう。こう言ってはいけません。「お父さんが家を出て養育費を払ってくれないから、あなたをホッケーキャンプに行かせる余裕がないのよ」といったことは言わないようにしましょう。
金銭的な問題は大人の問題であり、お金の問題を話すことは子どもに負担を感じさせます。お金の話をすると、子どもは親の対立の渦中に巻き込まれてしまいます。
自分への問いかけ:私たちの共同子育て関係はどうなっているか
1.これまで紹介した「ゲーム」に自分が当てはまっていませんか?
2.共同子育ての関係を改善するために、一方の親との遣り取りにどのような変更を加えたいと思いますか?
3.一方の親と話し合う必要がある具体的な問題を特定してください。本章の前半にある「共同で子育てをするための幾つかのヒント」で紹介されているコミュニケーションのヒントを使って、どのように問題を話し合いますか?どのようにしてコミュニケーションを改善できますか?
(了)