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ホームレスのおじさん
25年ほど前の話。
実家に帰ったら、リビングに見知らぬおじさんが3人いた。
「こんにちは、、、、」と挨拶したら母が
「この方達にね、今うちのお風呂入ってもらってるの。」
と、おじさん達を私に紹介してきた。
ああ、そう言うことか。
両親はホームレスの方達に、おにぎりを配る活動をしていた。
当時、市内に100人を超えるホームレスの方がおり、炊き出しをすると長い行列ができていたらしい。中にはまだ40代くらいの若い男性やスーツを着ている人もいたり、いわゆるイメージとは違う方も多かったようだ。
クリスチャンである両親は、教会内で仲間を募り、炊き出しではなく毎日続けられるようにおにぎり配りを始めた。毎日、全部で百数十人分。
信者の皆さんから寄付してもらったお米を、仲間がそれぞれ自宅で炊き、10人分のおにぎりとおかずを使い捨ての容器に詰める。おかずは、卵焼きやほうれん草の胡麻和えなど。決して豪華ではないが、おにぎりだけよりは食事を楽しめる。ただ強制ではなく、おにぎりだけの日があっても良い。
このおにぎりを毎日教会に持ちより、来てくれたホームレスの方々に配る。これを毎日続けた。当然、教会内でも色々な意見が出る。
ホームレスを増やしたいのか。危険ではないか。ホームレスではない人がもらいに来たら?
そんな意見を右から左に受け流し、毎日続けていく。すると「私も一緒に活動します」という仲間が増えてきた。活動仲間が増えてきたので、配るところは持ち回りになった。教会まで持っていかなくても、近所の仲間の家までおにぎりを届ければ良い日も増えてきた。
私が実家に行く日は、夜は10食のおにぎり作りを手伝った。母は毎日作るからもう手慣れたもので、はかりでご飯の量を測りながらパッパと作り容器を輪ゴムでパチンと止めて割り箸を差し込み、保冷バッグに入れる。それを父が車で持っていくという役割分担ができていた。
先のホームレスのおじさん達は、そんな活動の中で知り合った方達だった。
住居と仕事が探せたら一番良いわけで、母は市役所と一緒になって、生活保護の手続きや、住む場所を決めたり、自立に向けての手伝いもしていた。その過程で「うちでお風呂に入ったらどう?」と言う話になったのだと思う。
両親も80歳を超え、ついに昨年、おにぎり作りからは引退したようだ。
なんと継続30年。
毎日欠かさず10食のおにぎりを30年間、全部で109,500食を作り、届け続けた。
休んだのは数日だけだったと聞いている。
そして私がすごいと思ったのは、そのことについて「だから、何?」という感じのところ。確かに「30年続けたんだからすごいわよね」とは言っていたが、本人達はすでに次の活動をそれぞれしている。
ホームレスもだいぶ減り、活動は若い仲間が続けている。一度は仕事、家族、住まいを失い、失望のどん底にいた人たちが少しでも生きる希望を持って再起できたらいいなと思う。うちにお風呂に入りにきたあのおじさん達はどうしただろうか。たまに思い出す。