吉祥寺で、津軽弁
怒涛の年末年始が終わった。
私の仕事は、年末年始が1年で1番忙しい。
1月も半ば、やっと穏やかさを取り戻しつつある日常に、ほっと一息ついた。
頑張ったご褒美として、ありがたいことに職員には4連休が与えられる。
とはいえ少人数なので、みんなで良い具合に休日をズラしながらとる。
私はありがたいことにトップバッターで休ませてもらえることになり、1月14日からの4日間、仕事を忘れて休暇を楽しむ権利を得た。
改めて、とてもよく頑張りました、私。
連休は、東京に行くと決めていた。
12月に入って、じわじわと仕事が忙しくなり始めた頃、私は東京にいる、とある人に連絡をした。
それは、昨年青森で開催された古本市で出会った女性である。
青森出身で、現在は東京で暮らしている方だ。
古本市でZINEを販売していた彼女に話しかけ、意気投合(したと思っている)し、それからずっとSNSでの繋がりが続いていた。
彼女に東京のお勧めスポットを尋ねたところ、私(文乃)は吉祥寺が楽しめそうだと、そう返ってきた。
よし、吉祥寺に行こう!そう決めた。
そして令和7年1月14日、青森を朝早くに出発し、電車に乗り間違えながらもなんとか吉祥寺駅へと降り立った。
少し遅めのランチを食べに、彼女にお勧めしてもらった食堂へと足を運んだ。
何も言わずとも写真を見ればわかるだろう、美味しいということが。
チキン南蛮やえびマヨなど魅力的なメニューが並ぶ中で、直感的に味噌カツが食べたいと思った。
つい口が滑ってビールまで注文し、昼からアルコールを摂取してしまう。
座っているだけの新幹線移動でも、腹は減る。
甘くてコクのある濃いめの味噌が、サクサクな揚げたてのカツに合わないわけがなかった。
多すぎない米の量とやさしい味わいの味噌汁、定食に付いてくる4種類の小鉢もまた、良い。
女性1人でも入りやすいのも、ポイント高しなお店であった。
ランチの後は、吉祥寺駅付近を散歩した。
晴れていたし、青森とは比べ物にならないくらい過ごしやすい気温だった。
青森では超極暖ヒートテックにダウン、マフラーに手袋が手放せないのに、東京ではマフラーなんていらなかった。
荷物になるので、そそくさとリュックにしまう。
ぷらぷらと散歩しながら、オヤツにたい焼きを食べた。
このたい焼き屋さんも、彼女にお勧めのしてもらったところだ。
店員さんに「すぐ食べますか?」と聞かれ「はい」と即答。
手渡された、ほかほかと温かいたい焼き。
周りの皮はサクサクしていて香ばしい。
鯛の部分に齧り付くと、中には熱々ふわふわのあんこがぎゅぎゅっと詰まっていた。
今まであまりたい焼きを食べてこなかったので、たい焼きってこんなに美味しいものだったんだ…と感動してしまった。
その後もふらふら歩いていたら、ふと、猫カフェの看板を発見した。
私は吸い寄せられるように店に入り、気がついたら猫を愛でていた。
東京まで来て、猫カフェである。
それが私なのだ。
家に遊びに来ていた野良猫は、雪が降り始めた頃から来なくなった。
それゆえに私はひどく猫ロス状態に陥っていて、猫を供給しないとどうにかなりそうだったのだ。(大げさ)
元々ここに来る予定はなかったので仕方ないが、ふわふわしたスカートは、猫カフェにふさわしくない格好だったかもしれない。
しかし、猫たちは私のスカートに興味津々で、股の間に入ってきてじゃれてくるではないか。
スカートは猫毛まみれになったけれど、あまりの多福感で私は大満足し、ニコニコ笑顔で再び吉祥寺の街へと繰り出していった。
早めにホテルにチェックインしてごろごろし、仕事終わりの彼女に会えるのを待った。
複数人でも1人でも、やはり旅行は途中でエネルギー不足になりがちだ。
前半はアドレナリンが出て無敵状態というか、何故か疲れを感じない。
けれどじわじわと、足の疲れや、目や耳や鼻から入ってくる情報量の多さ、その他諸々の疲れが誤魔化せなくなってくる。
だから私は、早めにホテルにチェックインして、小休憩を挟むようにしている。
これをすると、夜もしっかりと楽しめるのである。
吉祥寺駅で、彼女と古本市以来2度目の再会を果たした。
SNSでちょこちょこやりとりしていたからかもしれないが、会うのが2回目という感じがしなかった。
また会えたことが嬉しくて、テンションが上がり、口数が増え、寒いのに汗までかいている私。
仕事終わりで、しかも時間がないというのに気さくに長話に付き合ってくれた彼女に感謝したい。
私が有給を取れるようになったら、彼女の仕事休みの土日に合わせてまた東京へ遊びに行こう、そう思った。
吉祥寺で話す津軽弁は、さぞかし浮いていたことだろう。
それでも彼女に再び会えて、話して、直接ZINEを受け取って、また会いましょうと約束して…とても幸せだと思った。
夜ご飯も、例によって彼女お勧めのカレー屋さんである。
昨晩からすでにチーズナンの口になっていて、とても楽しみにしていたお店だった。
エビマサラカレーとチーズナン、マンゴーラッシーを注文して、カウンター席で大人しく待つ。
スパイス香る店内で、ナンを焼いてカレーを煮込む音が聞こえてくる。
青森でたまに行くカレー屋さんとはまた違った、美味しいカレーだった。
デカすぎるぷりぷりのエビが入った、辛くなくて味わい深いカレー。
ずっしりと重たくて、とろけるチーズのナン。
濃厚で、かなり甘めのマンゴーラッシー。
そして陽気すぎる店員と、雰囲気の良い店内。
彼女のお勧めのお店は、どうやらハズレがないみたいだ。
東京2日目の朝は、パン屋さんのパンで始める。
吉祥寺PARCOの中にある、お高〜いパン屋のパン。
東京価格だ…と思わず身を引いてしまいそうになる。
しかしながら予算には余裕を持たせてきたし、私は旅行だからと言って爆買いするタイプではないので、想定よりも使っていなかった。
使うべき時に使う。
ここだ!と思った時に使う。
それが1番良いのではないかと、私は思う。
というわけで、贅沢に食べたいパンを2つ選んで、翌朝の楽しみにしていたのである。
店舗で食べても良かったが、私は早起きなので、8時開店だとそれまでにお腹が空いてしまう。
6時に起床して準備を整え、7時、ホテルの部屋にていよいよ待ちに待ったパンのお時間である。
大きくて、ザックザクのクロワッサン。
むっちりとした、クリームチーズのベーグル。
どちらも朝食にぴったりだと思い、これに決めた。
帰り道にあった成城石井でちょっといい牛乳を買っておいたので、一瞬で最高の朝ごはんが完成した。
あまりの美味しさに感動しながら、ゆっくりと食べ進めた。
最近はたくさん食べることよりも、ゆっくりと味わって食べることの良さを再確認した。
香りや食感、その食べ物の魅力を余すところなくいただけたら、それはそれは最高の体験だろう。
吉祥寺から、新幹線の駅のある東京まで乗らずに、阿佐ヶ谷で降りた。
阿佐ヶ谷神明宮で参拝するためだ。
昨晩、なんとなく行ってみようと思い立ったのだ。
職場で阿佐ヶ谷に良い神社があると聞いたので、せっかくなので参拝することにした。
どっしりと立派な拝殿に、感嘆の声が漏れる。
朝早かったのでお守りは選べなかったけれど、参拝しておみくじを引いて、なんだか良い朝を迎えられた気がした。
失礼だけれど、東京は空気が汚いと思っていた。
しかしきっとそれは場所によりけりで、神社の周りの空気は澄んでいて気持ちよかった。
東京駅でお昼ごはんを済ませ、お土産を選ぶ。
平日だとか、連休や冬休み明けだとか関係なしに、東京駅はいつ来ても人でごった返している。
店も多く迷路みたいだし、いつも迷ってしまう。
人とぶつかるし、泣く子供の声はうるさいし、私は耐えられなくて耳栓が欠かせない。
ホテルで睡眠をとるときや、新幹線の中も、私は絶対にイヤホンか耳栓をする。
そうして休み休み落ち着きを取り戻しながら、自分のペースでお土産を選んだ。
お土産を選んだら、あとは新幹線に乗り込むだけだ。
新幹線が動き出したら、あとは無事に青森まで着くことを祈るのみ。
過ごしやすい東京から、真冬の青森へ。
標準語から、津軽弁へ。
私は自分の居るべき場所へ、帰るのだ。
また彼女に会いに来よう。
友達や家族とも来よう。
やっぱり遠出するのは楽しい。
明日も明後日も休みという嬉しさを噛み締めながら、私は新幹線に乗り込む。