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政府の言う「1200兆円の国債は国民の借金である」ということが大嘘であることを暴露した小説が出てきた!!

「国家の借金は国民の借金ではない」ということを小説のテーマとした 誉田哲也の新刊『首木の民』は、国家のウソを暴いたとても素晴らしい作品と言えよう。その証拠を本文中から引用するので、みなさんよく考えてください。

誉田哲也 『首木の民』より 

p214~p222

「これは私が説明しなくても、佐久間さん(冤罪の久和を取り調べている刑事)ならいずれ、ご自分で計算できるようになります。そんなに難しい話ではありませんから。それよりも、財務省はなぜ国債を忌み嫌うのか、という話です」
 今、ちょっと褒められたように感じたのは気のせいか。
 まあいい。
「はい、財務省は……でも、 いま伺った限り、国債って物凄く便利そうですよね」
「ある面では、仰る通りです。ところが財政法は、国の歳出は国債以外の歳入で賄うべし、としている。国の歳入とは何かというと、本当に大雑把にですが、税収が大体六割くらい、国債による借金が三割強、残りの数パーセントは雑収人です。雑収入とは、税以外の収入や、前年度剰余金の繰り越しです。なのでやはり、主たるは税収と国債ということになります」
 ふう、と久和(政府の内閣府参与に就任予定の元財務官僚)がひと息つく。
「……先の『ワニの口』理論において、財務省は歳人と歳出を比べるのではなく、税収と歳出を比べて、大変だ大変だ、日本は国家破綻にまっしぐぁだ、と騒いでいるわけですが、その発想のネタ元は、 この財政法第四条なのです。国の財政は税収で賄われるべきであって、国債なんぞに頼ってはならない、よしんば頼るにしても、建設国債なら百歩譲って許すが、赤字国債は断じてならん、というのが、財務省の基本姿勢です
 ほほう。
「財務省の言い分にも、 一埋あったわけですね」
「そう思わされた時点で、佐久間さんは騙されています」
いやいや。
「でも、根拠は法律だったわけでしょう?」
「法律の全てが正しいとは限りません。そんなことは、警察官である佐久間さんなら、よくお分かりなのではありませんか? かつて殺人罪には時効がありました。25年経ったら、いくら人殺しでも反省し、改心しているだろう、という性善説に基づいたものだったのでしょう。しかし現在、殺人罪に時効はありません。逃げた人殺しは25年くらいで改心なんぞしない、死ぬまで追い回して、必ず罰を受けさせてやる、というのが現代の考え方です。厳しい言い方をすれば、25年経てば人殺しも改心するだろう、だったら見逃してやろうじゃないか、なんて考えは甘かった、間違っていた、とも言えるわけです」
「それは、 正しいとか間違いとか……」
「いいえ、全ての法律が正しいのなら、法改正なんて一文字も必要ないはずです。しかし、現実はそうではないっあくまでも人が作ったものですから、ある時代の人たちが、そのときは良かれと思って作ったのだとしても、時代を経て、社会構造が変わってしまったら、前言を撤回してでも、法律は作り直さなければならないのです」
 これか、と感じるものが、久和の表情にあった。
 今までの、 マネタリーベースがどうとか、国債の仕組みを説明しているときとは、明らかに目の色が違う。
 久和は、まさに自分が主張したいこと、その核心に今、近づきつつあるのではないか。
 いいだろう。拝聴しよう、その主張を。
「……つまり、財政法を改正しなければならない、と?」

「いえ、重要なのは法改正ではありません。その法律を盾にとって、一言ったら悪用して、税収のみで国費を賄うのを是とする、そう国民に刷り込もうとする、財務省の『企み』自体を暴かねばなりません」

 そっちか。
「ズバリ、その財務省の企みとは」
 久和が、 ニヤリと左頼を持ち上げる。
「佐久問さんだって、ご存じのことですよ。ただ、そこまで怖ろしいことだとは、お気づきになっていないだけです」
 また、よく分からなくなってきた。
 だが、今回は安易に解答を求めまい。
 おそらく、 ヒントはそこかしこに撒かれている。よく考えれば、佐久間にも答えが分かるように。
 久和が、ぐっと覗き込むように佐久間を見る。
「……先ほど私は、法律は、ある時代の人たちが、そのときは良かれと思って作ったのたとしても、と申し上げました。どんな法律も、誰かが、いつかの時点で、作ったのです」
 なるほど、そういう話か。
「財政法とは、いつ、できた法律なのですか」
 久和が、視線を佐久間に固定したまま、頷いてみせる。
「1947、昭和22年の、3月31日です」
 終戦の、2年後――。
 太平洋戦争に敗れた日本が主権を回復したのが、確か終戦の7年後。だから、
1952年。戦後7年間、日本は連合回軍の占領下にあり、主権を失った状態だった。
 財政法とは、その連合国占領下で作られた法律だったのか。
「ということは、財政法には連合国側の、 つまりはアメリカの意向が、色濃く反映されていると一
反映というか、憲法同様、アメリカ様に作ってもらった法律と言った方が正しいでしょう。でもそう考えると、いろいろなことに納得がいくのではありませんか?……戦時中、日本は戦費を調達するために国債を乱発した。それを『戦時国債』などと呼びますが、要は、湯水のようにお金を生み出し、そのお金で国民を動かし、戦争を続けたわけです。ただ、そんなことはどこの国でもやることなので、別に当時の大日本帝国政府が悪いとか、そんなことは、私は言いません。むしろ、問題はそのあとです……憲法9条で戦力の不保持を義務付けたのと同様に、アメリカは財政法によって、日本に、国債による戦費の調達をできなくしたのです。それくらい、アメリカは日本軍の復活を、心底恐れていたのです
 後ろから、バンドか何かで頭部を殴られた気分だった。
 事の始まりはあの、昭和20年の敗戦だったというのか。
 久和は続ける。
「だからといって、 アメリカが悪いとも、私は思わない。なぜなら、法律なんて変えれはいいのだし、むしろその時代、その社会にフィットするように変えていく方が健全なのです。日本国民には、その権利も自由もある。むしろ問題なのは……憲法もそうですが、日本人には、なんでも『キンカギョクジョウ』として守り通そぅとする、おかしな癖がある、という点です」
 よく分からない熟語みたいなのが聞こえたが、尋ねる暇もない。
「遵法精神と言ったら聞こえはいいですが、要は、 一度決めたら変えたがらない、変えようとしない、怠惰で愚かな民族なのです」
 また出た。怠惰で愚か。
「そんなに、我々は愚かですか」
「はい。世界を知らない、自分で考えようとしない、という点においては愚かです……が、先を続けます。アメリカが、戦時国債を打てないように仕込んでいった財政法を、いま最も有効活用しているのは、財務省ですり政府が国債を適切に発行し、日銀がそれを引き受けて現金化すれば、政府は毎年50兆円でも、100兆円でも、国家予算を多く得ることができます。その、政府が得たプラス50兆、100兆というお金は、主に公共投資に回されます。橋を造ったりダムを造ったり、新規に高速鉄道を通したっていい。そぅすれば雇用が生まれ、何万人、何十万人、何百万人かも分からない人々が収入を得ます。一雇用された人々は家賃を払い、食料品や衣料品を購入し、車やガソリンを買う『消費者』でもあります。そうやって、政府が発行した国債は現金となり、公共、投資を通じて社会に……社会を、潤すのです」
 そういうことか。
「つまり、それが・・・・プールの水」
「その通りです。日本社会はこの三十年余り、経済成長が停滞したままだった。原因は多々あります。企業が安価な労働力を求めて、海外にごっそり生産拠点を持っていってしまったのも、原因の一つでしょう。日本で作ればいいものを、海外で作るようになる。雇用されるのはその国の現地民であり、日本人ではない。その給料も現地で使われる。日本国内には国らない……むろんバブルの崩壊もありましたでたびたび大きな災害にも見舞われた。様々な悪条件が日本の国力を削いできたわけですが、そんなときは本来、緊縮財政などと言っていてはいけないのです……国債なんてのは借金です、子々孫々まで地獄の苦しみを味わうことになります、それは避けなければなりません、なのでまずは無駄遣いを徹底的になくします、それでも足らないときは増税させていただきます、プライマリーバランスの黒字化こそが国を救うのです……などと、そんな絵空事を言っていては駄日なんです」

 小さな机に載せた、久和の両拳に力がこもる。

「本当は、こういうとき(筆者駐 今年1月1日に起きた能登半島地震の復興が求められている今こそ)こそ国債をガンガン発行して、公共事業を通じて雇用を生み出し、世の中にお金を回すのです。そうすれば、増税なんてしなくても税収は自然と上がってきます。政府が需要を作り出せば、日本国民はそれに応え、期待以上の製品を、サービスを、必ず供給してくれますから。そうしたら、GDPだってぐいぐい上がってきます。こういうのを『積極的財政出動』と言いますが、悲しいかなこれが、財務省では一番嫌われるロジックです」


 目の前を、幾重にも覆っていた幕が取り払われるような、そんな感覚があった。
 政治家でもない久和に、しかも警察署の取調室で、この国はこうすれば必すよくなると言われ、なぜか興奮している自分がいる。
 ただ一つ、分からないこともある。
「でも、千二百兆円の国債を発行して、現金化してしまったら、円が暴落するんですよね」
「その可能性は多分にありますし、そもそも無制限に国債を発行するべきだなどとは、私は一度も言っていませんし、思ったこともありませんで国債をどれくらい発行すべきかというのには、それなりの指針があります」
 んんっ、と久和が咳払いを挟む。
「……これは『リフレ派』と呼ばれる経済学派の人たちが言っていたり、よく『MMT』と略される『現代貨幣理論』を唱える人たちも言っていることですが、今の日本のように、デフレーション、 いわゆる『デフレ』状態にあるときは、思いきって国債を発行し続け、積極的財政出動によって、インフレーション、『インフレ』状態に経済を誘導していく……お分かりとは思いますが、デフレとは、物価の下落が続いて経済が縮小した状態、インフレとは、物価が上昇して経済が膨張していく状態です。財政出動によってインフレ傾向に経済が振れてきたら、今度は国債の発行は控えめにしてぃきます。金融政策も引き締め方向に転換します具体的には…」
 久和が右手で「V」サインを作る。
「失業率が2パーセントまで下がるのが理想です。失業率というのは、2パーセントより下にはなかなか下がらないという統計結果があります。それはそうですよね。人気の職業、不人気の職業、個人的な向き不向き、倒産ゃ固有の産業の衰退など、失業者が全くいない社会というのは、ちょっと現実的には考えづらい,。労働人口の2パーセントくらいは、失業者が随時いても仕方がない。そう考える方が現実的です。なので、失業率2パーセントというのを、一つの目標とする。
 あとは『インフレターゲット」です。物価上昇率が、これまた概ね2パーセント程度になるように、中央銀行が金融政策を打つことが重要です。緩やかに物価が上昇し続ける、そういう状態をキープすることが、経済的には理想であると、近年では考えられています」
 しかし、ということか。
「それなのに、財務省は国債を忌み嫌い、遠ざけてきたと」
「はい。実際には、いわゆる『赤字国債』の発行はゼロではありませんが、財務省はとにかくこれを嫌います。低く低く抑えようと、あの手この手を使って政治家を懐柔します。あるときは地元への利益誘導を餌に、あるときは握った弱みをチラつかせて脅し、なんなぬ書類を改ざんしてでも、とにかく政府の国債発行を、削って削って、事実上なきものにしようとします。それが国民のためである、国のためである……というのは、真っ赤な嘘です」
 その理由を、尋ねるタイミングではないと、佐久間自身が思ってしまった。
 それくらい、久和の日は焦点を失っている。
 違うか。円の前にいる佐人間ではない、もっともっと大きな敵を睨んでいる、ということか。

「……財務官僚は、分かってないんじゃないんですよ。分かってるんです。『ワニの口』理論なんてデタラメだって、『ワニ』なんてそもそもいない、財政法第四条なんて国益を損ねる駄文に過ぎないと、分かってるんです。分かっているのに、でもそれを否定できない」



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