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上野先生の最新刊を読んだ。『こんな世の中に誰がした』を読む 1
上野千鶴子著 『こんな世の中に誰がした』を読んだ。とてもまっとうな発言なので、なるべく多くを紹介したい。
日本女性は働き者なのに貧乏
世界的に見て日本の女性はよく働いています。2022年の国際比較データによると五歳から六四歳までの就業率は74,3%で、OECD諸国の平均65,8%よりも、 アメリカの69,0%よりも高いのです。日本がサラリーマンと専業主婦の社会だという思いこみは、すでに過去のものになりました。
けれど、大きな問題があります。働いている女性の収入が低いことです。日本では男女の賃金格差が大きいからです。正社員であっても女性の給与水準は男性の77,6%で、OECD諸国の平均を大きく下回り、韓国、イスラエルに次いて下から二番目、これでも徐々によくなってきているのですが、その変化が遅いので格差はなかなか埋まりません。
それだけではなく、もっと大きな原因は、働いている女性の半数以上が非正規労働だということです。非正規で働く女性の約六割は年収200万円未満しか稼げません。これでは経済的に自立するのは難しいでしょうし、スキルを十分に磨くことができずキャリアアップも難しいでしょう。
非正規労働は、正規労働と比べて、同じ仕事をしていても半分から三分の二ぐらいしか賃金の支払われない、とても不利な労働ですが、さらに彼女たちのなかで結婚している女性の多くは、 一定の収入を超えないよう働く時間を抑えています。
既婚女性が労働を一定の枠に抑えるように誘導する税制や社会保障制度があります。いわゆる「103万円の壁」「130万円の壁」と呼ばれるものです。この「壁」を超えると夫が雇用者の妻は、被扶養者からはずれて自分で税金を払ったり社会保険に加入しなければなりません。そのためかえって所得が減少するという「逆ぎや」が起きるため、多くの女性はこの「壁」を超えないよう、就労調整をする傾向があります。つまり日本では税制・社会保障制度が既婚女性の就労を抑制してきたのです。
それだけではありません。彼女の夫たちのなかには、妻が働きたいと言うと、「ボクの迷惑にならない範囲なら許可する」と言う者もいます。「許可する」とは、それまで妻の就労は「禁止」されていたのでしょうか。夫ひとりが「禁止」していたというより、夫だけでなく制度や社会がよってたかって妻の就労を「禁止」してきたと言うべきでしょう。
「ボクの迷惑にならない範囲なら」働いてもよい、とは、妻が働いても自分の生活をこれっぽっちも変える気がない、宣言しているようなものです。結果、夫は仕事オンリー、妻はかつての家事育児オンリーに代わって、家事育児はあいかわらず妻のワンオペのまま、外に出て働く負担も増えるという「新・性別役割分担」が拡がりました。女性は家の中でも家の外でも働くようになり、合計すれば労働時間がますます長くなりました。
妻の就労がマストになったのは、妻の家計補助収入がなければ家計を維持できないようになるほど、男性の賃金が低下してきたからです。他方妻たちの労働は、家計補助だからこの程度でいいだろうと、低賃金に抑えられてきました。これでは経済的自立など果たせませんし、離婚すればただちに困窮します。
90年代以降の変化は、この非正規労働にシングルマザーやシングル女性が家計補助ではなく家計支持のために、すなわち自分の稼ぎで家計を支える女性も就くようになったことです。非正規労働に就く男性も増えてきました。現在非正規労働率は全労働者の4割台、男性は3割台ですが、女性は半数以上、非正規労働者全体のおよそ7割は女性です。日本の多くの女性が働いているといっても、著しく不利な条件のもと働いていることがおわかりでしょう。