見出し画像

奥深きテープ起こしの世界 Part.1

先日、若柳宮音筆の会 特別講に参加して「サクラバ姉妹」というテープ起こしを生業にされている方の貴重なお話を聞いた。「テープ起こし」はインタビューや取材時の音声データを元にテキストデータを作り出すお仕事である。お話がとても面白かったし、創作や仕事の姿勢にも繋がる話が多かったので記録として。

目次

・私と字起こし
・議事録というお仕事
・先を聞きながら手前を起こす…?
・驚異のテープ起こしを支えるツール
・文章構成(テープ起こし)はある意味0→1だ

私と字起こし

はじめに私とテープ起こしの関係性について書いてみようと思う。私は大学時代、スポーツ新聞サークルに所属していた。記事を書くにあたり試合後の選手にインタビューをさせてもらう。頂いたコメントの字起こしをし、それを基に記事を執筆する。コメントの全文掲載をサークルが大切にしていたこともあって

「取材」→「字起こし」→「整文」→「記事執筆」→「校正」

このワークフローを当たり前の事として行っていた。即日で記事をアップする事も往々にしてあって、記事執筆者に早くコメントを送るために会場からの帰りのバスや電車内でスマホのフリック入力を駆使して皆やっていた。5〜10分ぐらいのコメントが大体。Web掲載なので<br>などのHTMLタグもその場でつけたりしていた。

大きい試合やリーグ戦の前は特集記事なんかも書いていて、そういうのは対談で1時間とか長尺の字起こしをした上で整文して伝えたい事が伝わるように組み替えたり、カットしたりとかもやっていた。

少なくとも自分はこれが「編集のスタート」であるということを全く意識していなかった。自分の声や稚拙な質問を聞き返すことは最悪である。嫌々ながらもアウトプットを出すためのステップとして自然に取り組んでいた。

議事録というお仕事

社会人になってからは「議事録」というタスクで同じようなことをしている。役員がいるような大事な会議では録音をして後から聞き起こしたり。
とはいえ、意思決定までのプロセスやネクストアクションが残っていればOKなのでその場で要点をタイピングすることの方が多い。

IT企業という組織に入って思ったのは「ヤバい匂いのする議事録」の多さ。

・全文書き起こし
・一文が長文ツイートばりに長い
・改行が無く画面いっぱいに文字が広がる
・明らかに口調が話し言葉のまま

こういった議事録がメールで送られてくる。コメントを整文することに慣れていた自分にとっては衝撃的だった。

結局は受け取る側、すなわち読み手のことをどこまで考えるかという感覚の差が生むものなのだと思う。

今回のサクラバ姉妹のお話を通じてより強く感じたのは
議事録も議論とアクションをつなぐプロセスの一つであるということ。
アウトプットの場を活かすも殺すも作り手次第だなと思った。

先を聞きながら手前を起こす…?

少し前置きが長くなってしまったがここからは「テープ起こし」の奥義としてお二人から学んだことを書いていきたい。

まず気になっていたのは作業にかかる時間。自分は細かい「てにをは」や句読点の位置まで気になってしまうのでかなり時間がかかってしまう。
正直「クッソ遅いのでは…」と感じていた。プロはというと、、

サクラバ姉妹も音声データの3倍の時間をかけて字起こしをする

これは安心した。私も大体3倍程度はかかっていた。実際のお二人の作業は分業制を敷いているという。タイピングの速い妹さんが一気に起こして整文し、お姉さんがそれを1.5倍速とかで聞き流して内容チェックをするという形式だという。いやぁ、面白い。

次にテープ起こしの精度を上げるために必要なスキルについて。
姉妹が挙げていたのはこの2点。

・ブラインドタッチが圧倒的に早い
・1文の頭脳内への保有量が多い

1つ目はわかる。2つ目については「?」だったが次の一言で理解した。

タイピングが追いつかなくなるので先を聞きながら前を起こす

確かに聞きながらタイピングが追いつかないことはあるし、その先を少し聞いて一旦記憶するのもわかる。とはいえ5秒ほどでキャパオーバーになって一時停止して戻すのが普通だ。

サクラバ姉妹はこの脳内保有量が凄く長いらしい。先を聞きながら今タイピングしている文の構成も組み立て直すことができるということだ…!

これは話し手の文章構成を把握しながら同時に整文するということになる。全文起こした後に読み直して整文する時間が短縮できる並外れた技術だ。
凄い、凄すぎる。

驚異のテープ起こしを支えるツール

マルチタスクで複数のテープ起こしを同時並行的に進めているというサクラバ姉妹。そんなお二人に「使っているソフトとキーボードを教えて欲しい」という質問が出ていた。さすが編集者の皆さんは視点が実務的。

サクラバ姉妹が使っているツールは「okoshiyasu 2」というフリーソフト。残念ながらMacは非対応のよう。「CasualTranscriber」というツールで同じような機能を再現できるという記事を見つけた。

キーボードは「リアルフォースの静音タイプというのを使っています」とサクラバ姉妹。「東プレ」「吸音スポンジのやつですね!」と聴衆のお詳しい方が補足コメントを加える。

これかなぁ。結構なお値段でした…。

文章構成(テープ起こし)はある意味0→1だ

タイトルは若林さんの言葉をお借りした。テープ起こしは「創作のプロセス」だしすごくクリエイティブで繊細な作業なのだ。それはビジネスマンにとっての議事録にも言えることで、「仕事のゴール」をどこに設定しているかという話なんだと思う。

サクラバ姉妹が心がけている事の中で印象的だったのが

・編集者が見たときにどれだけスッと入ってくるか
・編集者がどう感じるかを原稿を作る側に立って考える

この2つを意識しているという事。
見せていただいた納品物には「読みやすさと美しさ」があった。
ひらがなと漢字のバランス。改行の使い方や文章の崩し方。その場の温度感や話している人の顔が浮かぶような語尾の使い方。

聞き手でも話し手でもない「起こし手」が、コンテキストをどう読み取った上でどうロジカルに組み直すか。テープ起こしの世界はまだまだ奥深い。

参考文献
読みやすい文章は「デザイン」が優れている/竹村俊助さん


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?