あげる

あなたは何をあげたいですか?

上間陽子氏の『海をあげる』を読了。著者の沖縄における日常生活やフィールドワークの風景、話、そこから想起された感情などが綴られた内容となっている。歴史、格差、偏見、市場、マイノリティーなど、数多くの社会問題が複雑に絡まる中、それでも日常を生きていかなければならない人間模様が描かれているように感じた一冊だった。

話の中の一つ大きなキーワードが、話を聞く(聴く)ことであったように思う。フィールドワークで出会った様々な方の話を聞くことが大事である反面、その話を当人が簡単にはできない社会状況の難しさが記載されている。一方で、思ったことを素直に話す娘との対話、親子の大切な関係性が対比のように描かれているようにも感じた。

コーチングにしてもカウンセリングにしても、何よりも大切なのは相手の話を聴くことだ。そのために心理的安全な場を作っていくことが社会にも組織にも求められている。一方で、市場経済の中で競争を求められ、利害関係や自己責任ばかりが肥大していく世の中では、心を開くこと自体が難しいケースも多い。相互扶助と勝ち負けは、完全なトレードオフではないものの、相応の人間性を双方が有していないと成り立つのも難しい。だけど、そのような大切なことを学ぶ機会は、都市化、核家族化で益々減ってきている。学校や塾も受験勉強にフォーカスされることも多く、人間関係を学ぶことは簡単ではない。

自分自身は、コーチングセッションや会社の面談などを通じて、様々な人の話を聴く機会に恵まれたが、人の話を聴くことこそが学びに繋がっている。多様な考え方や視点、価値観・理想像、悩みや問題。こういったことを、自分とも対比することで、自分自身が初めて見えてくることもあるし、そこから修正することも出来るようになってきたと実感している。結局のところ、ヒトが社会性を持った生命体で、関係性の中で生きていかざるを得ない以上は、他者のことを学びながら自分自身について学んでいくしかないのだろう。量子科学のようなミクロな世界ですら関係性で成り立っている訳だし、関係性について常に学び続けることが、豊かな人生に繋がるように思う。

そして、学んだことをアウトプットとして自分の仲間に伝えていく。そこから、どんな小さなことでも良いので行動に繋がれば、声が届いたことになるのだろう。その声の中身は自分のものだけではなく、これまで出会った人や、読んだ本の著者など、様々な方の声が含まれ、融合されているはずだ。だから私は、私という存在を通して、私の関わる世界の声をあげたい。

そんなことを考えるキッカケになった本著との出会いや関わりに感謝しつつ、平日の休みを満喫する一日だった。


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