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140字小説コンテスト 秋の星々「長」 時計・最新式・前髪

140字小説コンテスト、秋の星々2024 テーマ「長」に応募した作品です。3編!

彼の家に行くと必ず柱時計の鐘の音を耳にする。その時計が鳴らす音は女性の声に似ていた。
ぽん、ぽん、ぽん……
今日も鐘が時を告げた。その間だけは、どれだけ話しかけても彼から返事はない。彼と過ごす時間が長くなるほど鐘の音は数を増す。どうすれば、この音から彼の心を奪えるのだろうか。

魔王討伐隊の旅は長く険しい。魔国に入ってからは暗闇が続いていて、俺たちの体は疲弊していた。足取りが重くなってきたところに勇者が喝を入れる。
「何を悠長にしてるんだ!」
「だって……」
「はやく! この伝説の剣はソーラー充電式なんだぞ!」
「だから乾電池式にしようって言ったじゃん」

彼女の長い前髪を梳いてやるのが好きだ。その美しい瞳を覆うベールに触れられることが幸せだった。
しかしある日、彼女はその髪をばっさり切ってしまった。呆然とする俺に、彼女は目を輝かせていつもの櫛を握らせる。「私の髪を梳いてるときの、あなたの顔をしっかり見たくなったの」と言いながら。



以前応募した作品も投稿しています。


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