ますく堂「おっさんずラブ」放談① 『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ 』の巻(『「おっさんずラブ」という未来予想図 ~革命の、その先へ~』より、冒頭部を抜粋)
※本稿は、『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ 』をネタバレ前提で語りあった座談会レポートの冒頭部を抜粋したものです。閲覧時はご留意いただければ幸いです。
「おっさんずラブ」革命後の大展開! 劇場公開は待望? それとも拙速?
益岡 本日は「『劇場版おっさんずラブ~LOVE or DEAD~』をみんなで観て、そのままの勢いで語る会」にお越しいただきありがとうございます(笑)
「おっさんずラブ」(二〇一八年、テレビ朝日)は、田中圭演じる春田創一(通称はるたん、三十三歳)を取り合う形で展開する、吉田鋼太郎演じる春田の上司、黒澤武蔵(五十五歳)、林遣都演じる春田とルームシェアをしている後輩でエリート社員の牧凌太(二十五歳)の三角関係を描いた連続テレビドラマです。
この三人の関係を軸に、牧の元カレで現在、春田と牧の上司でもある武川政宗(眞島秀和・演)、春田にひそかに恋心を寄せる幼馴染の荒井ちづ(内田理央・演)、武蔵の妻で離婚を受け入れた後、元夫の恋を応援する側に回る黒澤蝶子(大塚寧々・演)、その蝶子に好意を寄せる春田たちの後輩、モンスター新入社員の栗林歌麻呂(通称マロ、金子大地・演)らが絡むこのドラマは、「男同士の恋愛を描いたドラマ」という枠だけにはとどまらない、「みんなが自分の好きを貫く、愉しく切ない恋愛劇」を描き切り、人気沸騰となりました。
そんな素敵なドラマに心奪われた人たちに声をかけて、「ますく堂なまけもの叢書」は、二〇一八年末に「おっさんずラブ」座談会を古書ますく堂で開催。さらにその模様を『ますく堂なまけもの叢書⑤「おっさんずラブ」という革命』として二〇一九年五月に刊行したのですが、そのときにはもう「劇場版をやる」という情報が流れていまして、「劇場版をやるなら、ちゃんと語り合わなければならない!」という声が大きかったものですから、「では、やってみましょうか」と。しかも「なんならみんなで映画を観たあとにそのままお話ししたい」というご要望がございましたので、今日、参加者の皆様には、この埼玉県川口市にわざわざ来ていただいて、川口市唯一のシネコン「MOVIX川口」で映画をご鑑賞いただいた足で、お集りいただいております(笑)
なお、この企画が進んでいるさなかにも、「おっさんずラブ」には新たな展開がございまして、なんとテレビドラマの第二シーズンが決まった、と。そこで、この第二シーズンが終わった後にもまた集まって、みんなで話して、二つの座談会を収録した「おっさんずラブ本・第二弾」を出そうという話に、つい先ほどまとまりました。
そういうこともお含みおきを頂きながら、本日は語り合っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
それでは、お集りの皆様一人ひとりに、まずは映画を観ての簡単な感想を、自己紹介を交えながらお話していただきたいと思います。
森の風 森の風です。今回の感想なんですけど、私は武川主任がすごく好きなんですが……記憶を失くしてしまった黒澤部長と一緒に花火を見るというシーンがあって、そこで武川さんが「私の好きな人は、いつも違う人を好きになってしまうので……」と口にするシーンで、少し涙が流れました。映画全体としても、結構泣けました。以上です(笑)
柳ヶ瀬 柳ヶ瀬舞です。若干、私は「おっさんずラブ」に批判的なんです。こんなこというと、針の筵になるかもしれないけど……
益岡 いやいや、大丈夫ですよ(笑)
柳ヶ瀬 私は二〇〇〇年前後からさかんに公開されるようになった実写BL映画がすごく好きで、そういう流れの中で「おっさんずラブ」がどう捉えられるのかということを、お話ししたいと思って来ました。どうぞよろしくお願いします。
トット トットです。劇場版は、志尊淳くん、沢村一樹さんの参戦でどうなるか不安だったんですが、その点は満足しました。よろしくお願いします。
ティーヌ ティーヌです。セクシュアルマイノリティが登場する小説を読む「読書サロン」を主催しています。私は良いBLの条件として常に「恋に落ちる過程がしっかりと書いてある」ということと「イイ女が登場する」ということを挙げているのですが、その点においては満点かな、と思いました。おさえておくべき映画だと思っていたので、こういう形で観られて良かったです。
益岡 あらためまして、益岡です。いや……良かったんじゃないですか(笑)
美夜日 なんですか、その煮え切らない感じは(笑)
益岡 僕はあの立ち上がり……アクションのくだりね。「ちょっと、これ、はしゃぎすぎじゃないですか?」と思ったりもしたんですが……あの一幕もラストに至ってしっかりと伏線として機能していることがわかる展開だったので結果的には良かったですし、やっぱり吉田鋼太郎が田中圭とベタベタし始める志尊くんをかなり強い調子で突き飛ばして喧嘩が始まったりすると、「お、来た来た来た!」と、すでに「おっさんずラブ」パターンがこちらの身体にも沁みついているから、テンションが自然にあがる。だからまあ、だまされちゃうんだよね。なにやられても。こっちはもう、「おっさんずラブ」を楽しむための身体になっているから。なんでも褒めたくなっちゃう。
ただ……僕は概ね〈踊る大捜査線〉シリーズ(一九九七年~)みたいな映画だなと思ったんですよ。爆破シーンとかね、火薬の量とか。エンタメなんだからなんでもありな感じが実に娯楽映画らしい。でもその一方で、やっぱり「ジェンダー」という問題を扱うことの重みも感じた。この問題を扱う限り、ただ軽やかにエンタメは出来ないんだなと思わされたところもある。繊細なつくりを要求されるという宿命が「おっさんずラブ」にはあって、その繊細さはそのまま、観客に対してリテラシーを要求する構造があるのかな、と。一部報道では期待されていたほどの興行収入はあげられないんじゃないか。配給会社は五十億程度を期待していたけれども、今、二十億くらいで最終的に三十億くらいに留まるのではないかというような見立てがある。それはよくも悪くも、この作品が「ジェンダー」という概念と切り結んでいる結果なのかな、と個人的には受け止めている。そのあたりのことをお話しできたらいいな、と思っております。
美夜日 興行収入の問題は簡単ですよ。益岡さんが一度だけじゃなく、何度も観ればいいんです。
益岡 え? ああ、僕が頑張って何度も観て、五十億まで持っていけ、と(笑)
トット あと三十億ね(笑)
美夜日 あらためまして美夜日です。前号の『「おっさんずラブ」という革命』から参加しております。よろしくお願いします。
私は一回目は公開初日に母と観に行ったんですが、益岡さんが「はしゃぎすぎ」といっていた冒頭は、母は「香港映画みたいで凄く好き」と言っていました。ちゃんとパロられている、と。
森の風 なるほど、パロディなんだ。
美夜日 二回目は、腐女子友達と観に行ったんですが、観終わった後、その友達は号泣してました。
益岡 私も基本、全編、泣きながら観てましたよ。
美夜日 え? ずっと?(笑)
森の風 うん、泣いてたー(笑)
益岡 いや、ずっと泣いてましたよ、泣いてましたけど、「だからなんなんですか?」ってことですよ。泣かされたら満点つけなきゃいけないんですか?(笑)
美夜日 その友達はラストシーンのはるたんと牧くんの姿を観て涙腺が崩壊し、「うわー」っと。「まさか泣かされるとは思わなかった」と言いながら泣きながら劇場を出ました(笑)
ということで、私はまだ2DEADしかしていないので、愛好家のみなさんは6DEADしたとか10DEADしたとかネットで話題にしているので、これから頑張ってDEADを重ねていこうと思っております。
ヘイデン ヘイデンです。私は、今日まで我慢しようと思っていたんですけど、ツイッターで美夜日さんが観てきたと報告しているのを見て、我慢できなくなって観に行ってしまったので、本日で2DEAD目です。
私にとってはテレビドラマ版があまりにも良すぎたので、しかもそのあと、ものすごく盛り上がったじゃないですか……なんだか、「インディーズバンドがメジャーに行っちゃったからもういいや」みたいな気持ちになってしまって、ちょっと距離を置いていました。
だから、劇場版は、実は「おっさんずラブ」というよりは、金子大地を観に行ったという気持ちの方が大きい。つい先日までNHKで放送していた「腐女子、うっかりゲイに告る」に金子大地が主演していて、それがあまりにも素晴らしかったので……今回の映画は、マロくんを応援するために観に行ったという感じ。
美夜日 完全にマロと武川さんのカップリング……
ヘイデン そう。武マロ武ぐらいしか、今は興味がない。
益岡 ほぼ絡んでないよね、その二人(笑)
ヘイデン いやいやいや。
益岡 そりゃあまあ、同じ画面には映っていますけど(笑)
ヘイデン そのカップルだけで、今は生きている感じですね。
美夜日 創作の方も……
ヘイデン 武川さんとマロくんで幸せになってほしいな、と。蝶子さんはカムフラージュ。
益岡 カムフラージュばっかりじゃん。こないだ、小泉進次郎と滝川クリステルもカムフラージュだって言ってたじゃん。お互いに妥協した、とか。
一同 (笑)
柳ヶ瀬 ヘテロカップルを見るとカムフラージュと言いたくなる(笑)
美夜日 腐女子はくじけないんです。熱愛報道が出ても結婚報道が出ても「カムフラージュ」で乗り切る。
ヘイデン 映画の話に戻ると、これだけイケメンぞろいでも田中圭の演技はやっぱりすごいなと思っているので、興行収入アップに向けてDEADを重ねていきたいな、と思っています。よろしくお願いします。
「おっさんずラブ」が歩む「王道」
益岡 ということで、本日はこのメンバーで語り合っていきたいと思いますが、まずは柳ヶ瀬さんから、納得がいかなかったところというか、この映画の問題点について……いや、問題点はいくらでもあるんだよね。突っ込みどころ満載だから(笑)
柳ヶ瀬 出来はしっかりしていると思うんです。美夜日さんのお母さんが仰る「香港映画のパロディだ」という点もそうなのですが、他には、サウナで乱闘するシーンで、武蔵が春田の好きな俳優としてあげる「斎藤工」は、実写BL映画の王子様だったんですよね。そういう意味で先行作へのオマージュというかリスペクトは感じられる。
一方で、エンタメに徹した、娯楽に徹した映画という印象が私にはあって、面白いんですけど、面白いだけというか……それ以上の発見は私の中にはなかったというのが……それが悪いわけではないけど……「特盛で楽しませてくれてありがとう。ディズニーランド行ってきた! 楽しかった! 終わり」というような印象でした。
もうひとつは、「女性はロマンチックを求め、男性はロマンを求める」という言説。これは、「攪乱、横断、ボーダレス、揺らぐセクシュアリティ 「少女革命ウテナ」が生まれる場所」(「武蔵野美術」一一五号所収)という、幾原邦彦監督とSF評論家の小谷真理さんの対談の中で話されている内容なのですが、その中で幾原監督は、「ロマンチック」は「やってくるもの」だけれど、「ロマン」は「受け身では手に入らないもの」であると語っています。「ロマンチック」は君をお姫様にしてあげるとか、すばらしいところで結婚式を挙げようとか、王子様が来て召還されるような世界、「ロマン」は何もない未踏の荒野に挑むとか、そういう世界だ、と。
それを読んで私が思ったのが、BLというのは「女性にとってのロマン」にあたる表現なんじゃないかということなんですね。従来の恋愛ものが「ロマンチック」だとすれば、BLは「ロマン」なんじゃないか。そういう意味でいうと「おっさんずラブ」は「おっさん同士のロマンチック」を描いている。きんぴらごぼうが髪についているみたいな、ちょっと笑えるかたちだけれど、描いているのは恋愛ものの王道を体現した「ロマンチック」で、でも、男同士の恋愛を描いたBLでもあるから、最終的には「ロマン」を感じさせるという構造がこのドラマにはある。だからある意味、BLの王道でもあるのだけれど……よくも悪くも「王道」すぎる感じがする。
もっとも、実写BLの流れで言えば、「おっさん」が主人公になるというものはほとんどなかったので、そういう意味では革命的といえるかもしれないけれど……
ヘイデン 今の話は、あんまり批判している感じはしなかった。しっくりこなかったところがどんなところなのか、もうちょっと聞きたい。
柳ヶ瀬 うーん。結局、「王道」にとどまっていて発展がないというところですかね。
ヘイデン あー。
柳ヶ瀬 何も新しいところがない。これなら、BLコミックを読んだ方が、いくらでも尖ったもの、先鋭的なものにはぶつかる。
ヘイデン やばいのいっぱいあるよね。
柳ヶ瀬 うん。やばいのいっぱいあるから、そっちを読んでいた方が楽しいかな、と思ってしまう。
森の風 たしかにストーリーの面での物凄いどんでん返しとか、驚くような展開というよりも、今回の映画には「安定」を感じたのは事実なんですけれど……前回が「革命」だったのに、もう、それが「王道」になってしまったのかな……
益岡 確かに、このわずかな期間で「おっさんずラブ」はある意味で、「スタンダード」になってしまったような気もするんですよ。BLドラマ、あるいはLGBTQAドラマをエンターテインメントとして描くという「枠」をつくってしまったような感がある。だから、今回の本のタイトルも考えちゃいますよね。僕はすでに「おっさんずラブ」は「浸透と拡散」の領域に入ったのかな、と思うんですけど。SFみたいに(笑)
柳ヶ瀬 「おっさんずラブ」という王道、でいいんじゃないですか?
美夜日 でも「LOVE or DEAD」ですよ。
森の風 「愛か死か」だもんね。
美夜日 私は激しい作品だったと思います。
益岡 たしかに激しい映画ではあった(笑)
ティーヌ でもDEAD感はあんまりないんじゃない?
森の風 でも、ほら、最後!
美夜日 死にそうになってますよ、爆発で。最後、最後!
ティーヌ え! あれがDEADなの?
益岡 たしかに死闘というか……クライマックスだよね。それぞれにいいシーンつくって盛り上げるという……ただまあ、「死に向き合う」というようなストーリーラインではないわね。
森の風 私は「王道をやった」ということ自体が革命だったと思うんです。「おっさんずラブ」を観たことによって、自分のセクシュアリティを見つめるような作品を発表しようと思ったという方がネット上でもたくさんいらっしゃるじゃないですか。作品の中で革命的なことが起こっていなくても、やっていることは王道でも、それを演じているキャラクターの違いというのは大きな影響力を持っている。「ロミオとジュリエット」ではなく、「ロミオとロミオ」でも、「王道」は成立するんだということを示すことは、作品の外において、男性同士というか、「ヘテロではない恋愛」に対する受け止め方を変える可能性がある。そういう点でこの作品が果たしている役割というのは、まだ古びていないというか、「新しいもの」ととらえられることが出来ると思う。
柳ヶ瀬 でも、その「男同士の恋愛」を可視化するという試みは実写BLの時点でもなされていたことなんですよね。
美夜日 ただ、私も実写BL好きで観に行ってたんですけど……ます、上映館が少ないんですよね。しかも、モーニングショーやレイトショーで一日一回というような公開の仕方が多くて、観るためのハードルがとても高い。
柳ヶ瀬 渋谷とか池袋とかの小さな映画館でね。
美夜日 「おっさんずラブ」の意義は、大きな映画館で昼間から、何度も何度も上映しているというところなのかな、と思うんです。一般層へのアピールとしては、それまでの実写BLとは比べ物にならないほど大きなものがある。玄人が楽しむにはちょっと……みたいなところはあると思いますけど。
一同 (笑)
美夜日 玄人にはね、物足りないところはあると思います。
柳ヶ瀬 確かに、「おっさんずラブ」で驚いたのは劇場に足を運んだ人の客層なんですよね。実写BLの観客はほぼ女性でしたけど、この映画は男性のグループとか、男性ひとりとか、男性客の姿が目立つ。
森の風 老夫婦とかもね。
ヘイデン いたね。今日もね。
柳ヶ瀬 客層が本当にバリエーション豊かだったのには驚きました。お茶の間に「おっさんずラブ」というドラマが広く届いたんだというのが感じられて、そういう面では確かに革命だったんだろうとは思いますね。
美夜日 私は初日、母とペアシートで観たんですけど(笑)、後ろの席がヘテロカップルというか、ご夫婦だったんですよ。私の後ろで旦那が爆笑してるんですよ。めっちゃ、旦那楽しんでる、と(笑)
柳ヶ瀬 それはやっぱり、普通の恋愛ものとして見えているんでしょうね。実写BL的な観方はしていないと思う。
益岡 シンプルにラブコメの文脈で観て楽しんでいるという可能性はありますね。
美夜日 いや、腐女子の奥様のBL教育が行き届いていて、すべて理解したうえで爆笑しているのかもしれない。
ティーヌ 恋愛映画は女性のためのものと思われがちですけど、男性も意外にしっかり観ているジャンルなんですよ。彼女に連れられてデートで観たりとかしているうちに、俳優の演技自体に興味を持ったり、恋愛ドラマの文法を覚えたりする。たとえその恋愛が終わっても、その教養は生きていて、ひとりで映画を観にいくときにも恋愛ものを選ぶことというのが珍しくない。ヘテロ男性はそれなりに恋愛映画に関して免疫があると思います。
そういう人なら「おっさんずラブ」を見て楽しむことは自然にできることだと思う。この作品は、実は、かなり普通というか、王道のラブコメですから。
柳ヶ瀬 そうですね。恋愛映画としてのコードは多くの人が持っているわけですもんね。
ティーヌ 私がこの作品ですごくよかったと思ったのは、最後の最後で春田が、「男同士は結婚が出来ない」と気づくじゃないですか。もう少しはやく気づいても良かったと思うけど。
一同 (笑)
美夜日 気づかずプロポーズしてしまった! 指輪も買ってるのに!
ティーヌ 他のセクシュアルマイノリティ作品が、この「制度的に結婚できない」という壁にぶつかって悩むというストーリーラインに囚われている中で、「おっさんずラブ」はそこを描かなかった。描かず指輪を買わせるという、この描写は「ホモフォビア」からの脱却を示していると思えたんです。二〇一六年版では目立った同性愛を嘲笑するような空気が、劇場版に至って完全に払拭されたように思えて、すごいな、と感じました。前号で益岡さんが「祈りのようなドラマだ」と表現していましたけれど、本当にその通りの作品になってきたんじゃないかと感動した。
森の風 私は、子どもも喜ぶ映画なんじゃないかな、と思いました。冒頭のアクションシーンは、まさに子どもが喜びそうな、アニメや特撮のリズムに近いと感じられたし、BL映画だとR15がついていてレイトショーだったりするわけですけど、それだと当然、子どもには見せられない。男性同士の恋愛を描いた作品がアニメや特撮の映画と同じように、子どもに受け入れられる可能性があるというのは凄いことだと思う。
柳ヶ瀬 多分私はラブコメというのが苦手なんですよね。ラブとコメディが。
ティーヌ みんな恋愛体質すぎるよね。
美夜日 めっちゃ恋愛してますよね。オフィスで(笑)
柳ヶ瀬 あとはやっぱりDEAD感を押してほしかったですね。
ティーヌ いいの。DEADは爆発したんだから!
柳ヶ瀬 それはエクスキューズですよ(笑)
森の風 確かに、あまり悩んでないよね。
柳ヶ瀬 もちろん、それが良さなんだとは思うんです。その軽さが、ラブコメのラブコメたるゆえんだから
美夜日 ライトだからね。
柳ヶ瀬 結果、最大公約数としてのBLが出来上がった……そこが食い足りないといえば食い足りない。
ティーヌ でも、設定はわりと重かったりもするじゃない。志尊くん演じるジャスティスの家族が亡くなっている話とか、急に出てきちゃう。そこは「こんな設定持ってきて!」と驚いちゃった。
柳ヶ瀬 でも、そこもオマージュなのかな、と。BLだと割合、登場人物が重い設定を背負っているというのはありきたりというか……あえて、そういうお約束に合わせてきているような印象も受けました。
美夜日 ジャスティスは、お兄ちゃんを亡くしているからはるたんにお兄ちゃんを投影して「お兄ちゃんみたいですね」というわけですけど、なんか、そのとき、残念そうな顔してません?「モテ」じゃないのかよ、みたいな。
森の風 私はあそこは喜んでる感じがした。
益岡 僕もそう思った。はるたんは一人っ子だから、「お兄ちゃん」と呼ばれることが新鮮で嬉しい、みたいな気持ちなのかな、と。
美夜日 あそこは微妙な表情してますよね。解釈の余地があるというか。
益岡 そこは田中圭のうまさですよね。この劇場版、田中圭は「やりたい放題やっている」というようなイメージもあるけれど、一方で、相当繊細な仕事もしている。
美夜日 その代表的なシーンですね、ここは。がっかりしているようでもあり、喜んでいるようでもある。
ティーヌ はるたんとジャスの関係性で言うと、花火大会で牧と喧嘩した後、突然現れたジャスにはるたんが怒られるじゃないですか。
柳ヶ瀬 すごくブラザーフッドですよね。
美夜日 弟に怒られるという。
ティーヌ まさか怒られると思っていないはるたんの表情とか、すごくいいと思いました。
益岡 観客の方も、ここでまさかはるたんが怒られるとは思ってないですよね。僕はこの局面でジャスが出てきたとき、「なんてあざといことをするんだ!」と(笑)
一同 (笑)
益岡 正直、ちょっと激怒しかけましたけど(笑)
でもね……今回、本当に脚本は大変だったと思いますよ。展開の意外性と、それをなんとか「ふざけんなよ!」と観客に言わせないための説得力というか、リカバリーの工夫と……このシーンも「いくらなんでもあざといだろ! ふざけんな!」と拳を振り上げかけたと思ったら、ジャスが急に重たい話をし出して……
一同 (笑)
益岡 あ、そうなの、そういうことだったのね……あ、むしろ、こっちがすみませんでした。私がテーブルたたくような話じゃなかったです、みたいな(笑)
柳ヶ瀬 この緩急に皆さん、完全にはまってますよね。
益岡 まあ、そうだよね(笑)
ヘイデン ただ、突っ込みどころはありすぎなんだよ。もうね、この内容を二時間くらいにおさめるのは無理なんだよ。ちゃんとやろうと思ったら連続ドラマ作れるくらいの内容だよ。
美夜日 しかも、劇場版ならではのアクションとスペクタクルを入れちゃったから……いや、これ、不動産屋の話だよね、みたいな(笑)
ティーヌ ただ、そういういろいろな要素を圧縮するテクニックとしては非常に優れていたと思うんですよ。日本の伝統的なジェンダー観を体現している牧のお父さんのキャラクターを、牧の実家の古風な門構えであるとか、庭を映すことによって説明していくわけですよね。これだけいろいろなシーンを入れこまなきゃいけない中で、それでもこのシーンを残したというのは、しっかりとしたつくりを守っているといえるのではないかと思う。詰め込みすぎは詰め込みすぎなんだけど……
柳ヶ瀬 ただまあ、潤沢な資金で撮られたんだな、と……
ヘイデン そりゃあそうだろうね。
柳ヶ瀬 実写BLって本当にお金がないんですよ。
森の風 この映画って実写BLの流れの中でとらえられる映画なのかな。
柳ヶ瀬 私は、そう捉えています。〈タクミくんシリーズ〉(二〇〇七~二〇一二年)とか、すごくお金がなくてロケは一か所だけだったりしていた。
森の風 この映画を〈踊る大走査線〉のようなテレビドラマから劇場進出を果たしたメジャー映画として捉えるのか、実写BLのようなマイナー映画からの流れとして整理するのかによってだいぶ評価は変わってくるような気がする。
続きが気になる方は、是非、本誌をご用命ください。
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