【本の感想】薬物ダメ!絶対。な小説の金字塔『スキャナー・ダークリー』が凄い!
フィリップ・K・ディックといえば映画『ブレードランナー』の原作になった『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』で有名な大人気SF作家ですよね。私は長らく「このタイトルからしてややこしそうだな」と思って避けていた作家のひとりです。ところが!この『スキャナー・ダークリー』はめちゃくちゃ面白い!という評判を聞き、表紙のカッコよさにも惹かれて読んでみました。……これは!確かに凄い!!
読後の興奮のままにPOPを作ってみました↓
舞台はたぶん近未来のアメリカのオレンジ州というところ(なのですがほぼ60年代のアメリカのような雰囲気)。麻薬おとり捜査官が人波に溶け込む特殊なスーツを着て任務にあたっています。ヤク好きの友だちと付き合いヤク中のふりをして下っぱ売人からヤクを買い、そこから大物のしっぽを掴もうとしているわけです。つまり登場人物のほとんどがラリっています。
冒頭いきなり主人公の仲間が完全に壊れて病院送りになります。その後も出てくる人物達がとにかくみんな壊れていく。
あとがきによると著者は60年代の薬物大流行の時代を過ごしており、ここで薬物にハマった友人達は身体を壊したり亡くなったり。たぶんご自身も当時はたしなんでおられたのでしょう。そういう体験をベースに書かれているので、とにかくリアルです。しかし体験者そしてサバイバーの話なので、偉いセンセーが上から目線で「クスリはダメでしょ!」的な浅い説教をカマすのとは説得力が全く違う。やめろと言うのでなく、ただただ脳が壊れていくさまが淡々と丹念に描かれていきます。それでいて先の見えないストーリーが気になって面白くて、薬物使用者達の狂った言動がつらくなってきても続きが気になって読み進めてしまう。読むのを止めたくならないギリギリのところに劇的な展開を持ってくるディックの巧さを感じます。
そしてこの物語に登場する奴らは、ラリっていても魅力的ないいやつらなんです。友だち同士でダラダラいかれた会話をしているだけでも、なんだかこいついいなぁと思う(唯一バリスは微妙ですが)。で、主人公は友だちを大事にするヤツなんですね。クスリでイカれて廃人同様になってもそれだけは変わらない。
そんな主人公がラストシーンでする行動がグッとくるのですが……とてもさりげないので、ちゃんと最初から最後まで読まないとその意味が分からない。いきなりラストから読んでも凄さが分からないうえに最初から読んで後半でネタバレに気づいて台無しになるので、お読みの際にはそれだけお気をつけ頂きたいです。通読して最後の一文にグググッとくるあの感じをぜひ味わって頂きたい!
ドラッグのヤバさも、長編小説を読む醍醐味も、同時に教えてくれる作品でした!