『喧嘩別れ』 春風亭貫いち
これは田舎に住むおじいさんの家でのお話――
おじいさんは野菜を作ることが仕事です。おじいさんの家の裏には畑があって、ジャガイモやニンジン、ニンジン、タマネギ、ナス、ゴーヤ、キュウリ、カボチャなどたくさんの野菜が育てられています。おじいさんは毎日毎日、水をあげたり、草を取ったり、一生懸命に働いています。
ある日のこと……
カボチャ「ねぇねぇ~」
ナス「何だよ?」
カボチャ「ねぇってば!」
ナス「何って言ってるだろ!」
カボチャ「僕ら隣の畑同士なんだから遊ぼうよ~」
ナス「今はダメ」
カボチャ「どうしてさ?チョウチョさんもミツバチさんもいつもみたいに遊びに来てくれてるよ。みんなで遊ぼうよ」
ナス「あとで遊ぼう。今はダメ」
カボチャ「どうして?」
ナス「どうしてって……カボチャ君も分かるだろ?僕たちは太陽の光をいっぱい浴びないと美味しい野菜になれないんだよ」
カボチャ「別に美味しい野菜になんかならなくていいもん!」
ナス「そんなこと言っちゃダメだよ。折角おじいさんが僕たちのこと育ててくれてるんだよ」
カボチャ「ふーんだっ!もう知らない」
カボチャ君はへそを曲げてしまいました
カボチャ「そんなに遊んでくれないなら……こうだっ!!」
カボチャ君は蔓をスルスルスルッと伸ばし、ナス君の木に絡みつきました。
ナス「な、何するんだよ!?」
カボチャ「へへへっ!これで遊ぶ気になった?」
ナス「いつもみんなに嫌がらせばっかりして……だからカボチャ君は友だち少ないんじゃないの?」
カボチャ「そ、それは今関係ないだろ」
ナス「関係あるよ!いつもみんなにいたずらしてるから段々相手にしてもらえなくなって、それで唯一無視しない僕に構うんだろ?」
カボチャ「か、勘違いするな!僕は寂しそうにしてる君の相手をわざわざしてあげてるんだよ。むしろ感謝してよね、この真っ黒さんめ!」
ナス「真っ黒ってーー僕が一番気にしてること言って……だから友だちいないんだよ、このチービ!」
カボチャ「何だとっ!!」
ナス「やるかっ!!」
カボチャ君とナス君は喧嘩を始めてしまいました。
これを止めに入ってきたのがユウガオさんーー
ユウガオ「ちょっと!2人とも止めて」
ナス「でもカボチャ君がーー」
カボチャ「ナス君だって悪口言ってきただろ」
ユウガオ「2人とも喧嘩はもう止めなさい。おじいさんが何で一生懸命に私たちを育ててくれるか分かる?」
ナス・カボ「「?」」
ユウガオ「それはね美味しいカレーを作るためよ。おじいさんには都会から毎年夏になると遊びに来る孫がいるの…この子は元々野菜が苦手だったんだけど、おじいさんが畑で採れた私たちたちを使って特性夏野菜カレーを作ってあげたら、野菜が食べられるようになったの。お孫さんもカレーを楽しみにくるのに、あなた達2人が喧嘩してたら美味しいカレーにならないでしょ?だからおじいさん達のためにも喧嘩はもう止めなさい!分かった?」
ナス・カボ「「は~い」」
ユウガオ「じゃあ2人ともお互いに謝りなさい」
カボチャ「意地悪してごめんね……本当は君と仲良くしたかっただけなんだ」
ナス「僕の方こそカボチャの嫌なこと言ってごめんね」
こうして無事にナスとカボチャは仲直りすることがーー
ナス「出来るわけないでしょ!カボチャの奴いつも謝るけど、次の日には同じこと何度も繰り返すんだぜ。カボチャのせいで何度も垣根が壊れて、その度におじいさんが大工呼んで……おじいさん修繕費払えなくて泣いてたよ。カボチャの奴なんてこの畑にはもういない方がいいんだ」
次の日、おじいさんがナスの傍を通った時にこっそり話しかけました。
ナス「おじいさん、おじいさん」
おじいさん「おぉ、ナス君か。どうしたんだい?」
ナス「おじいさん知ってる?カボチャ君って美味しい野菜になんかならなくてもいいって言ってるんだよ」
おじいさん「えっ!?そうなのかい?」
ナス「本当だよ。それに垣根壊したことも全然反省してないよ」
おじいさん「う~ん…」
ナス「ざまぁみろとか言ってたよ」
おじいさん「…………」
ナス「おじいさん、ここまで言われて悔しくない?」
おじいさん「流石に…悔しいな」
ナス「ねぇ…2人で復讐しようよ」
おじいさん「復讐じゃと?」
ナス「うん!どうせ言うこと聞かないカボチャだよ。枯らしちゃおうよ」
おじいさん「そ、それはいくら何でもーー」
ナス「おじいさんは甘いなぁ…そんなこと言ってたら、これからもあいつに定期的に垣根壊され続けて、その度に大工さん呼んで修理してもらって、修繕費用を払い続けるんだよ?それでいいの?」
おじいさん「それは……困るが……」
ナス「そうでしょ!なら今のうちに手を打とうよ。下手に引っこ抜いたりしようとすると、土の中に根が残ったりしてまだ生えてきちゃうかもしれないから、水やりの時に除草剤を混ぜて、その量を毎日少しずつ増やしていけば、誰もおじいさんがカボチャを枯らしたなんて思わないよ。自然に枯れた程度にしかみんな思わないから…ね、やってやろう」
これからおじいさんは毎日少しずつ量を増やしながら、カボチャに除草剤を与えていきます。そんなことはこれっぽっちも知らないカボチャは日に日に衰弱していきます。
カボチャ「おじいさん…最近何だか調子が悪いんだ」
おじいさん「……そうなのかい?」
ナス「ならさ、もっと水を飲んで元気になるといいよ」
おじいさん「…………」
カボチャ「おじいさん……僕もうダメかも」
おじいさん「……………………」
ナス「カボチャ君、諦めちゃダメだよ。とにかくまずは水を飲もう!」
その年の秋を迎える前にカボチャは枯れてしまいました。
そして……ナスも枯れてしまいました。
当たり前のことでしょう。隣に植わっているのですから……土を通してナスも除草剤を吸い続けていたのです。
人を呪わば穴二つ。
2021.10.9
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