俺様は猫である 第6話【時間の無駄づかいをやめる】
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「自分の幸せや理想の人生について考える」というお題をもらってから2日が経ったけれど、未だ私の理想を定まっていない。
頭の片隅にはあったものの、ここ2日間は仕事が忙しくてゆっくりとそれについて考える時間がなかったからだ。
「ただいま~」
仕事終わりに同僚から飲んで帰ろうと誘われて、気付けば0時近くになっていた。
一人暮らしだから時間の融通は利くし、誘われる飲み会はほぼ参加している。気乗りしない時もあるけど、まぁ親睦を深めるためにも必要かなって思うし。
「酒くせぇ」
ほろ酔い気分の私を出迎えたのは、最近我が家に住みついている黒猫のノーブル。
ひょんなことから“幸せになる方法”を教えてもらえることになり、私はただいま修行中の身なのです。
毒舌でドSな俺様猫だけど、ノーブルの教えは目から鱗のものばかり。
小さな歩みではあるけれど、私は一歩一歩幸せに近づくための思考を学んでいるところだ。
ちなみに、ノーブルから「今日と昨日の晩ごはんはいらない」と言われたので、帰りがつい遅くなってしまったのもある。
私が会社に行っているときは何してるのか知らないけど、ノーブルにも何か用事(仕事?)があるみたい。
「酒臭いって女の子に向かって何よー」
そんな言うほど飲んでないと思うけど、“酒臭い”ってよっぽどだな。
……やっぱり、私、飲みすぎてるのかもしれない。
かばんを椅子にどさっと置き、コートとジャケットを脱いだ私は、冷蔵庫にあるミネラルウォーターを取り出した。
「お前昨日も飲んで帰ってきてただろ。また今日もか?」
「だって、よく誘われるんだよー。断る理由も特にないし」
彼氏がいる時もしょちゅう会える訳じゃないから、基本的に平日の夜は一人でご飯を食べていた。
それが少し淋しかったのもあって、飲みの誘いは“誘われれば参加する”というのがもう習慣みたいになっている。
「……ったく、お前が幸せになれない理由がよく分かるぜ」
「何よ、別にいいじゃないお酒ぐらいー」
お馴染の呆れ顔でこちらを見てくるノーブルに、私は頬を膨らませた。
「断る理由がないから参加する?それでダラダラ時間を消費するなんて、時間の無駄遣いもいいとこだ。お前は時間の価値ってもんが全然分かってねぇようだな」
「時間の無駄遣いって……」
キッと目の色を変えてこちらを見てくる黒猫様。
ああ、ノーブルのお説教タイムが幕を開けてしまった。
「時間は無限にある訳じゃない。有限だぞ?それをどう使うかで、人生ってのは大きく変わっちまうもんだ。人は往々にして自分の人生の残り時間がいつまでも続くもんだと思いがちだが、考えてみろ。突然の事故や病気で明日死ぬ可能性だってあるんだぜ?それなのに、ただ何となくって理由で飲み会に参加して、その貴重な時間を使っていいのかよ」
うう、またしても耳が痛いお言葉。
ノーブルってどうしてこう、的を得た正論ばかり……。
いや、まぁだからこそ先生な訳だけど。
「何かそう言われると、もったいない気もする……」
「昨日も言ったが、それが“自分はこうしたい”という能動的なものなら問題ない。でも、”何となく”とか”みんながそうだから”って理由で飲み会に行くなら、その時間の使い方は考え直した方がいいぜ。幸せになりたいなら、自分のやりたいことをやる人生にする。逆にいえば、心から“やりたい”と思っていない時間は、生活からどんどん省いていく必要があるだろ?その時間が増えれば、自分がやりたいと思うことに時間が費やせるようになる。だから、時間の無駄づかいを減らすのが重要なんだよ」
“幸せになりたいなら、自分のやりたいことをやる人生に”かぁ……。
「時間だけは誰にでも平等に24時間与えられているものだ。それを活かすも殺すも、自分次第。ただぼんやりとテレビを眺める。携帯をイジる。興味のない飲み会に参加する。この時間を集めたら、どれだけ自分の為に使える時間が出来ると思ってんだ。やりたいことをやらない理由に、“時間がない”なんて言う奴がいるが、それはただの言い訳にすぎない。時間は自分でつくるものなんだよ」
「確かに、おっしゃる通りです」
もう、これしか言えないわ。
言われてみれば、私の時間に対しての意識はかなり低かったと思う。
日々のルーチンワークをこなすだけで、流されるように時間を浪費してきた。その生活に、何の疑問も感じずに。
別にちゃんと観てる訳じゃないけど、家に帰ったらテレビをつけるのが癖になっていて、ご飯を食べながらとか、ベッドに入りながらダラダラ観てしまう。
スマホも気がつけば、ずっと触ってるかも。
誰かからLINEが頻繁にくる訳じゃないけど、ツイッターとかインスタ見たり、色々なサイト巡って記事読み漁ったり……。
それで夜更かししちゃうことなんか、しょっちゅうだけど、あれってかなり時間浪費してるよね。
「ああ、反省点がめっちゃある……」
この前ノーブルに「自分の理想の人生を明確にしてみろ」って言われたばっかりなのに、それをじっくり考える時間も持たないまま2日が過ぎている。
こんな事をしていては、自分の人生を変えることなんていつまで経っても出来ないはずだ。
私は幸せな人生を生きたいんだ!
その為には、もっと時間の使い方についても考えなくちゃいけないな。
でも……
「とりあえず、化粧落としてきまぁ~す」
いいお話をしてもらったけど、今の私は疲れていてとても眠い。
何はともあれ、明日も早い。
明日の朝、シャワーするとして、今日はもう寝支度をしよう。
洗面所にふらふらと向かう私を見て、ノーブルは大きな溜息をついていた。
ここに来てから一体何回目の溜息なんだろう。