ストーリーとナラティブについて考える:その2 「ストーリーがある」とは、何があることなのか?
ストーリーとナラティブを例にして、カタカナで表現される専門語用語について考えています。
前回は、ストーリーやナラティブの分かりにくさがどのように生まれてくるのかについて考えました。
一般的な話としては、「ストーリーとは?」「ナラティブとは?」と、それぞれの要素をバラバラに考えることもできるけど、具体的な話になれば、2つの要素はつねに物語の全体と深く結びついている。
だから、ストーリーを考えるにせよ、ナラティブを考えるにせよ、つねにさまざまな要素で成り立つ、「システム」としての物語全体との関連でとらえる必要がある。
さらに、ビジネスやマネジメントの分野で、ストーリーやナラティブという言葉がひんぱんに使われるようになった背景には、これまでのように部分に分けられた機能の集まりとしての組織運営がむずかしくなってきた状況がある、という話をしていました。
今回は、物語の全体像とストーリーの結びつき、そしてストーリーを前に進める力の性質に目を向けることで、「ストーリーとしての競争戦略」に述べられている、「ストーリーがある」とはどのような意味なのかについて考えていきます。
物語の全体像とストーリーのつながり
では、じっさいの物語を例にして、まずは物語のさまざまな構成要素とストーリーの結びつきをみてみましょう。
題材にするのは、2021年11月に放送がはじまったNHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」第1週のメインストーリー(の1部)です。
「カムカムエヴリバディ」は、朝ドラ史上、例をみないくらいの猛スピードでストーリーが進んでいるので、すでに第1週のストーリーは大昔のことになってます。
しかし、どんな話であれ、さまざまな要素が「システム」としての物語をつくり上げる様子を知るのに都合がいいのは、冒頭のストーリーの流れなんですね。
というわけで、第1週のストーリーの骨子はこんな感じ。
「カムカムエヴリバディ」という物語のストーリーは、「安子が生まれる」「稔るが岡山に帰省する」「2人が出会う」のように、どういう順番で何が起きるか(出来事の連なり)によってつくられています。
このあらすじから分かるように、出来事の連なりは、どのような物語の状況設定(時・場所・背景)のもとで、どんな背景・性格を持つキャラクターがどのような行動を取るかという細部を通してあらわれてきます。
このように、具体的なストーリーを成り立たせる出来事の連なりは、設定やキャラクターといった物語の構成要素と深く結びついているんですね。
また、後々の話の展開から振りかえると分かるように、冒頭部の設定にあらわれるモチーフが、その後のテーマをつくり上げることになります。
たとえば、よろこぶ相手の顔を思い浮かべながらつくる和菓子の温かさや甘さ、ふだんは使わない英語という言葉にこめられた、自由や未来への希望といった意味合いが、その後のストーリーの中でさまざまな意味を重ね合わせていくわけです。
こんな具合に、「カムカムエヴリバディ」という具体的な(つまり、材料を列挙したレシピではなく、料理としてでき上がった)物語の味わいや、この物語が持つ力をしっかりととらえようとすれば、構成要素をバラバラに吟味するのではなく、ぜんぶが足し合わさった全体像との関連でとらえていく必要があるんですね。
出来事をつなぎ、ストーリーを前に進める力はどこから生まれるのか?
では、この物語のストーリーを前に進める力は、どこから・どのように生まれてくるのでしょうか?
登場人物の行動を太字で示してみると分かるように、新しい出来事は基本的に登場人物の行動がきっかけとなって生まれてきます。
では、きっかけとなる行動は何を生み出すことになるのか?
このように、きっかけとなる新たな行動は、状況や登場人物の心情の変化を引き起こします。ストーリーをつくりあげる出来事とは、「新たな行動」と「状況・心情の変化」を足しあわせたものなんですね。
出来事を、新たな行動をきっかけにして状況や心情に生まれる変化としてとらえると、ストーリーを前に進める力の正体がよく分かります。
行動が状況や心情の変化を生み出す。そこに生まれた状況・心情の変化がつぎの行動をうながし、その行動がさらに状況や心情の変化を引き起こし… という出来事のつながり具合が、ストーリーを前に進める力の源泉なんですね。
物語の全体像と出来事のつながり具合のバリエーション
出来事のつながり具合には、さまざまなバリエーションがあるでしょう。
前の出来事がスンナリと後の出来事につながる場合もあれば、予想もしないタイミングで新たな行動に出会うことで、状況や心情に変化が生まれ、それがつぎの行動につながる、というパターンもある。
また、新たな行動は、つねに登場人物が引き起こすというわけでもありません。
「カムカムエヴリバディ」のその後のストーリーに出てくる「戦争」という出来事は、この物語の時代背景のもとで、「国」(あるいは「国どうし」)の行動がきっかけとなって生まれてくるものです。
この場合でも、「開戦」という新たな行動が、状況や登場人物の心情を変化させ、そこに生まれた変化が、さらなる行動を引き起こすというストーリーの流れがつくられています。
このように、ストーリーを前に進める力について考えるにあたっては、「どういう順番で何が起きるか」だけではなく、設定やキャラクター、テーマといったさまざまな要素からなる物語の全体像との関連で、出来事のつながり具合をとらえることが大事なんですね。
「ストーリーがある」とは、何があることなのか?
ストーリーを成り立たせる出来事の連なりと、ストーリーを前に進める力としての出来事のつながり具合。
これは、楠木健「ストーリーとしての競争戦略」が「ストーリーがある競争戦略が大事」と語るときの、「ストーリーがある」とはどういうことなのかを明らかにしてくれます。
この本が声を大にして主張しているのは、競争戦略は「項目ごとのアクションリスト」ではないということ。
競争戦略をアクションリストとしてとらえる、つまり、「どういう順番で何が起きるか」を構成する、バラバラな行動の集まりとして理解すると、戦略の全体像を感覚的にとらえることがむずかしくなる、ということです。
競争戦略を考えるにあたって、1つひとつのアクション(=行動)が、どうつながり合っているのかを理解しなければ、「戦略を構成する要素がかみあって、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが動画のように見えて」こない。
これを逆にいうと、競争戦略において、ある行動とその後の行動のつながり具合(ある行動がどのような状況が生まれ、それがどのようにつぎの行動をうながすのか)を明らかにできれば、競争戦略という物語の全体像を感覚的に(「動画のように」)理解できるようになる、ということです。
つまり、「ストーリーがある」とは、メンバーの1人ひとりがさまざまな行動のつながり具合を実感できる状況が生まれること。
競争戦略に「ストーリーがある」ためには、「戦略を構成するさまざまな打ち手がストーリーとして自然につながり、流れ、動かなければ」ならない。
そして、1つひとつの行動が「つながり、組み合わさり、相互作用する」プロセスを、「その結果として生まれる利益に向かって駆動していく」物語の全体像との関係の中で実感できなくてはいけない(センゲ「学習する組織」が語る「より大きな全体とつながっている感覚」)、とうことなんですね。
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今回は、じっさいの物語を例にして、物語の全体像とストーリーがどのように結びつき、ストーリーを前に進める力がどのように生まれるのかを考えることを通じて、ビジネスやマネジメントで使われる「ストーリーがある」という言葉の意味を明らかにしました。
次回は、「ストーリーがない」戦略が生まれる背景を検討し、ストーリーとナラティブとの間にどのような関係が成り立っているのかについて考えていきたいと思います。
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