「関ジャム」の振付特集を見て、「ワークシフト」の予言を思い出した
「関ジャム」の振付特集、「売れっ子振付師の仕事術」が面白かった。
ゲストは、マドンナステージダンサーを務めたTAKAHIROと、優里の「ピーターパン」などのミュージックビデオに出演し振付師としても活躍するyurinasia。
福岡県水巻町在住のダンサー・振付師のyurinasiaは、2018年からinstagramへのダンス投稿を開始。2019年にinstagrameへのDMオファーがきっかけとなって、TENDREの「SIGN」MVに出演。
2020年には、世界的企業の広告映像を手がけるセルビア人のヨヴァン・トドロヴィッチ監督から、ある日とつぜんDMのオファーがきて、Vaudy「不可幸力」MVを制作することに。
ヘッダーの写真は、海外経験を尋ねられたyurinasiaが、20歳のときに2ヶ月ほどニューヨークを訪れたことがあるが、「いろんな人に会って話したりすることだったら、べつに日本にいても同じだと思った」と語るyurinasiaに対して、「じゃあ、2004年から7年間にわたる、ものすごくたいへんだったオレの在米生活は何だったんだ!」と叫んでいるところ。
これを見て、最近読んだリンダ・グラットン「ワーク・シフト」に書かれていた「予言」を思い出した。
「ワーク・シフト」は、1990年から2010年までの20年間にわたる環境・働き方・生き方の大きな変化を踏まえ、2025年の働き方の未来予想図を示したもの。
「ワーク・シフト」の「予言」から10年が経った2020年に、トドロヴィッチ監督からDMオファーがyurinasiaのもとに舞い込んできたことになる。
「ワーク・シフト」に描かれている働き方の未来図では、セルフマーケティングが不可欠になる。「同様の技能をもつほかの人たちから自分を差別化」し、「グローバルな人材市場の一員となり、そこから脱落しないために、そういう努力が欠かせない」ものになってくる。
さらに、不特定多数に向けたセルフマーケティングでは、「プッシュ」ではなく「プル」が大事。
新たなグループにみずから入っていく「プッシュ」だけでなく、「自分の魅力を高めて、ほかの人たちがあなたのグループに自分を適応させたり、あなたと偶然出くわすことを期待したりするよう促す」ことが、ますます重要になってくる。
ケビン・サイストロムとマイク・クリーガーがiOSでInstagramのサービスをはじめたのは2010年の10月。「ワーク・シフト」の原著、The Shift: The Future of Work is Already Here が出版されたのは2011年5月なので、この本の出版時点でリンダ・グラットンはInstagramのことを知っていたかもしれない。
でも、10年後にグローバルな人材市場のセルフマーケティングツールの揺るぎない地位を築いていようとは想像もしなかっただろう。
面白いのが、「ワーク・シフト」が、2025年の働き方においては、性格の異なる2つのネットワークをつくり、維持していく必要があるといっていること。
1つは、長い時間をかけてつくりあげる、互いに信頼する技能を持った少人数の仲間のネットワーク。もう1つは、ネットを介して広がる、多様性を持った不特定多数の人びとからなるネットワーク。
質の高い仕事をチームで遂行するためには気心の知れたプロフェッショナルなネットワークが必要になるが、新たな視点からのイノベーションを生み出すためには、多様性に富む多くの人のアイデアが必要だから。
ところが、トドロヴィッチ監督からyurinasiaに届いたDMは、質の高い仕事を遂行するためのネットワークとイノベーションを生み出すネットワークが、2つの別々のネットワークではなく、Instagramという1つのネットワーク上につくられているということ。
自分で振り付けたダンスを自分で踊った動画を見れば、(言葉の壁もないから)その人がどれくらいの専門的技能を身につけているのかを判断できる。だから、長い時間をかけて、暗黙知を共有する気心の知れた仲間のネットワークをつくらなくてもいい、ということなのかも。
これを裏がえすと、信頼される技能を持ったメンバーになることが容易であると同時に、グローバルな人材市場の他のメンバーにいつ取って代わられるかわからないという緊張感も秘めている(なかなか大変だぞ)。
それに、振付やダンスにかぎらず、動画を見れば専門的技能のレベルが判断できるタイプの仕事をしている人たちは、こうしたグローバルな人材市場に身を置く(置かざるをえない?)ことになるのかも。
2つの異なるネットワークをつくり、維持していくのもたいへんそうだけど、1つのネットワークになれば万々歳だというわけでもない。「未来」はなかなか厄介だ。
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