伴虚無蔵の教えとキャリア・デザインの陰と陽
NHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」もいよいよ大詰め。
あちこちに散らばっていたディテールの1つひとつがトランスフォーマーの変身シーンのようにバシバシつながって、100年の物語が大伽藍のように立ち上がる。
虚無蔵さんの言葉がさらに深みを増してくる。それにしてもこの虚無蔵さんの教え、文字になったものを目の当たりにすると、なんだかジワジワくるものがあるなあ。
なんてことを思っているうちに、これって金井壽宏「働くひとのためのキャリア・デザイン」に書かれていたこととガッツリ重なり合っているような気がしてきた。
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「働くひとのためのキャリア・デザイン」は、環境がすばやく大きく変わる中で、長い仕事生活をどう形づくっていくかを考える本。
ここで声を大にして語られているのは、節目に「自分を見つめ直し将来の方向性をじっくり考える」こと、つまりしっかりと舵を取ってキャリアを「デザイン」するのも大事だけど、ときには意識的に「流される」=「ドリフト」することも大事だよ、ということ。
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「流される」=「吹き寄せられて漂うもの」という意味合いで使われるドリフトとう表現に「前向きなものを感じるのは難しい」けど、その一方で、この言葉には「推進力や威力というパワーにかかわる意味や、『話の骨子・趣旨』という味わいのある意味もある」
たとえば、経理で働くことをいやがっていた人が、ムリヤリ経理部に異動になった結果、
なんてこともある。
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そういうわけで、VUCAの時代を生き抜くためのキャリア・デザインのコツは、「節目さえデザインしていれば、それ以外のときは、ドリフトしてもいい」ということ。
というか、節目以外の事細かなところをすべて思い通りに決めることはできないし、いつもフルパワーをふるっていたのでは「ここぞ!」というタイミングで力が出ないことにもなる。
キャリア・デザインというと、節目を自分でデザインするという部分にばかり光が当てられがちだけど、(いつ訪れるか分からない)いざというときに力を発揮するためには、それ以外のときは、ドリフトすることによって「行為や発想のレパートリーを豊か」にし、偶然を味方につけるための「陰」の部分を意識してつくることも大切。
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もちろん、ドリフトしてもいいということは、漫然と時をすごしていいという意味ではない。
強い希望、想いや夢、いまは分からないけどこの先にいいことがあるはずだという信念。
これを失わないようにする努力が、虚無蔵さんが説く「日々 鍛錬し、いつ来るとも分からぬ機会に備える」という気概であり行動なのだと思う。そうした取り組みを積み重ねることで、いつ来るとも分からない偶然を味方につけることができる。
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長い仕事生活を充実したものにするためのデザインとドリフト。それは、新社会人や、転職を考えている人にとっても同じこと。
「働くひとのためのキャリア・デザイン」はそう説いている。
「肩の力を抜く」とはいっても、すっかり脱力するというわけではなく、希望や夢、強い信念をいだき、日々の鍛錬をおこたることなく、でも、意識的に「流される」ことが大事。
それが虚無蔵さんの教えなんだと思う。
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長いことドリフト側にいたけど、ここぞのタイミングで立ち上がった虚無蔵さんがサニーサイドに立つ姿!
まことによろこばしい。