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The Next Right Thing 〜 水谷準のルーティンとアナ雪2「わたしにできること」のナラティブ

元プロ卓球選手の水谷準が説く、モチベーションを維持し、バーンアウトを乗り越えるためのルーティンは、アスリートだけの話じゃない。

それは、いわゆる「実存的不安」を乗り越えるために必要な意識と行動の切り替え方であって、アナ雪2の「わたしにできること」に歌われている、「目の前の道だけ見て歩いていく」ことで、「闇を抜ける」ための身のこなしだ。

バーンアウトを乗り越える:先のことではなく、目の前のことを考える

この記事には、水谷準が東京五輪前にどうやってモチベーションを維持したのか、また、どうすれば「燃え尽き症候群(バーンアウト)」を乗り越えることができるのかについての言葉が書かれている。

水谷さんがやっていたことは、先のことではなく、目の前のことだけを考えるというもの。

先のことを考えすぎると、その時間が長すぎて折れてしまう。スランプに陥った時は、今日何をした、いくら稼いだ……、とその日のことだけを考えるようにしていました。

遠い未来がやってくるまでにはずいぶん時間がかかる。すると、「先のこと」が実現するまでの間にいろんな疑念が生まれてしまう。

目を見た相手を石に変えるギリシャ神話のメデューサのように、遠い未来は、向けられたまなざしの中に不安をつくり出す

大事なのは、遠い先のことではなく、何をどうするかを自分で決められる「いま」に目を向けること。

金メダルが欲しいという願望を誰よりも持つ一方で、「自分なんかじゃ無理だ、取れないだろうな」という考えがよぎることもありました。

でも、「夢は基本的に叶わない、叶えるために努力することに意味があるんだ」と思い直すと、自然と「行動すること」に意識が向き、過度なプレッシャーを感じなくなるんです

「先のこと」にむけてモチベーションを高めようとしても、その時がやってくるまでにいろんな疑念がわき上がってしまう。

本当のところ、先のことなんてどうなるか分からないから

何がどうなるのか確実には分からないから不安が生まれる。だから、目先の「できること」、つまり確実に実現できる行動に意識を向ければ、遠い未来が生みだす不安から目をそらすことができる

こうした意識と行動の切り替えは、五輪をめざすトップアスリートがモチベーションを保ったり、バーンアウトを乗り越えるときだけの話じゃない。

VUCAの時代といわれるいまのご時世は未来への見通しがどんどん悪くなっているから、仕事や生活、人生のさまざまな局面でいろんな迷いから抜け出すときに、誰にとってもこうした身がまえが必要になってくるはずだ。

実存的不安と「叶えるために努力すること」

この先、何がどうなるのかが確実に分からないことから生まれる不安。

これ、哲学では「実存的不安」と呼ばれている。

ものすごく難解な言葉のように響くけど、ようするに確実な安心感が得られなくて不安になる、ということ。

「実存」は、「現実存在」の略。

現実のまっただ中に存在しているから、その場を離れ、うんと高いところから、状況の全体像やこれからのコトの成り行きを見下ろして、「いま何がどうなっていて、この先、どんなことが起きるのか」を見通すことができない。

だから不安になる。

これからの成り行きが見通せないので、先のことを考えると、「本当にそうなるのか?」「しくじったらどうなる?」という疑念がわき上がってくるのだ。

そこで大事になるのは、見通すことができる、小さな「未来」を自分の手でつくること。

いまできる「行動」に目を向け、やってみる。すると、いまとはちょっとだけ違った状況が生まれるかもしれない。

うんと先のことは見通せないし、うんと先の状況に影響を与えることはできないけど、いまできる行動に踏みだすことはできる。

行動に踏みだすことで、ほんの少しでも状況を変化させることができるなら、これをつづけていけば、うんと先の状況の変化に多少なりともつなげることができるかもしれない。

それが、「叶えるために努力することに意味がある」ということ。

ほんのすこしだけ先の「未来」を、自分の力で実現できるという感覚が小さな安心感を生む。見通すことができな遠い未来から生まれる「過度なプレッシャー」をはらいのけることができる。

アナ雪2「わたしにできること」に歌われている意識の変化

じつは、実存的不安などという難解な言葉を持ちださなくても、こうした意識の切り替え方がそのまんま歌になっている。

アナ雪2の「わたしにできること」だ。

「わたしにできること」は、映画の大団円のはじまりを告げる、とても重要な歌。

これまで自分を守ってくれていたエルサを失い、エルサの魔法が切れて、一緒にいたオラフもいなくなり、洞窟で一人ぼっちになったアナ。

真実を知ったアナは、これからやるべきことが何かは分かっている。でも、1人ではとうていやれそうな気がしない。もう無理だ。

「先のこと」を考えると不安がつのるばかり。

いつもそばにいたのに
あなたは
遠いどこかへ

もうつらい
すごく悲しい
もう無理だよ

その一方で、こんなことも考える。

何かが確実に実現できるからやるのではなく、実現するために何かしらのできることをやるのが大事なのだと。

でも聞こえる
心の声

どんな時も
進めと

そうよ
やろう
できることを


実現できる小さな未来をつくるナラティブ

いまの自分にできることはとても小さい。だからすぐに状況が変わるわけじゃない。でも、大事なのは、自分の力で実現できる「未来」を感じられるということ。

明日という「先のこと」を考えるのではなく、目の前の道だけを見て、いまできる小さな行動をつづける。小さな一歩から生まれる小さな安心感が、闇を抜けるまでの不安を和らげてくれる。

一歩ずつ
進もう
歩くことならできる
今の私でも

明日のことは
考えないわ
目の前の
道だけ見て
歩いていく

自分を信じて
進もう

闇を抜けて
光を目指して
やろう
できることを

来たのね
夜明けが
決めた
自分の心に従う

もう何も
悔いはない

やろう
今できることを

この歌の「できること」という歌詞、英語では “the next right thing” と表現されている。

「こうすればいい」「こうすれば遠い未来が確実に実現する」という行動(the right thing)が何なのかは分からない。

でも、「すぐ先の未来を実現させられる」行動、「最終的にぜったい確実なことが何かは分からなくても、とりあえずいま確実に実現できる」行動(the next right thing)は、自分の力で生みだすことができる。

曲の最後、「決めた 自分の心に従う」につづく部分は、英語でこう歌われている。

When it's clear that everything will never be the same again
Then I'll make the choice to hear that voice
And do the next right thing

この先、何もかもがこれまで通りにはいかなくなったら、(遠い未来ではなく)自分の心に目を向け、いま自分の力で確実に実現できる「未来」をつくるために、いまできることをつづけよう。

これ、「実存的不安」を乗り越えるナラティブそのものだ。

そういうわけで、「ニッチもサッチもいかんぞ!」「もうお手上げ!」「ぜったい無理!」と思えるときは、「わたしにできること」を聞いて、とりあえずいまできる行動に踏みだすことをルーティンにしたらいいと思う。

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