「虎に翼」の大演説を聞いて、「反逆の儀礼」を思い出した
NHKの朝ドラ「虎に翼」の第6週「女の一念、岩をも通す?」は、寅子の感動的な演説で幕を閉じた。それを受けた「あさイチ」で、博多華丸が「あの歌でパパはどこまで虐げられるんですか?」とコメントするのを聞いて、「反逆の儀礼」のことを思い出した。
「反逆の儀礼」は、アフリカの社会を研究した社会人類学者、マックス・グラックマンが提唱した考え方。国や社会というシステムに緊張が生まれると、ふだんは支配し、虐げる側にいる人間の立場を逆転させ、支配され、虐げられる側の立場に置く「儀式」を行うことで、システムの秩序を維持する機能を果たす。
システムがはらむ緊張状態の「ガス抜き」の儀式みたいなものだ。
「虎に翼」に登場する「パパとママの歌」は、日本では1931年に公開された映画「巴里っ子」の劇中歌、「モン・パパ」。かかあ天下をコミカル(ていうか、かなり過激)に描いたもので、宝塚少女歌劇団や喜劇王のエノケンが歌って評判になったとのこと。
「虎に翼」第1週には、兄の直道と親友の花江の結婚式で寅子がこれを歌う場面が出てくる。たしかに歌詞をみると、なかなかすごい状況が描かれている。
が、「虎に翼」の第2週以降に映し出される現実の夫と妻(男性と女性)の関係はその真逆にあって、その結果、いろんな人にさまざまな苦しみや悲しみが生まれてきていることが分かる。
そう考えると、この歌はグラックマンが説く「反逆の儀礼」の機能を果たしているように思える。当時の人たちが「モン・パパ」を楽しく口ずさみ、システムに生まれる緊張や対立がうまく「ガス抜き」されることで、いつも通りの「秩序」が維持されていたということになりそう。
しかし、第6週最後のエピソードの冒頭では、いろんなところでいろんな人に「すごいね!」と祝福されることに対して寅子が違和感を抱く。
口頭試験に合格し、念願の弁護士資格を得た寅子たちを「女性で1番」として持ち上げる「儀式」は、男性の世界に足を踏み入れた女性をその他の女性のカテゴリーから切り離し、ごく少数の例外を設けることによって、それ以外の人びとについてはこれまで通りの「秩序」を維持する「機能」のように思えてくる。
だから、寅子はそういう「機能」に対して心の底から腹を立てたのだと思う。
この大演説で語られる、「ですよね?」や「みんなでしませんか?」「しましょうよ!」という言葉が時を超えて現代にビシビシ響いてくるのがすばらしいし、何よりテレビドラマの中ではもっとも保守的なものだと思われているNHKの朝ドラで、こうした「反体制」な言葉が(でもエンタメの形はしっかり維持されたまま)を聞くのはなかなか感動的だった。