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素人が唐突に飲食店事業を始めてみた。

はじめに

 前段として、飲食店業界には暗黙のルールが多すぎる点をお伝えしておきたい。令和の情報収集において欠かせないインターネットが全く意味をなさない。足で稼がなければならない情報が震えるほどある。

 どんなに調べても様々な問題が解決せず、とにかく不安でたまらなかった開業前。筆者と同じような境遇の方の役に立てれば幸いである。

資格取得

 最初に飲食店を作ろうと思ったのは2021年の6月だった。インターネットを使い色々と調べてみたが、やることが多すぎたため、とりあえず目の前にあるものからさばいていくことにした。

 まずは飲食店の開業に必要な『食品衛生責任者』の資格取得。こちらは1日でとれる。自宅で料理をする人間なら大体は知識として備わっているような簡単な内容だ。

品衛生責任者養成講習会修了証  本名えぐくてすまんな!

 続いて、多数の人が利用する建物などの火災などによる被害を防止するため、防火管理上必要な業務(防火管理業務)を計画的におこなう責任者が取得すべき資格、『防火管理者』。

 難しい言葉を書き連ねたが、要は「火を使うなら責任者は持っておいてくださいね」というものである。こちらに関しては、千葉県の奥地で2days開催と身体的にハードだったが、やはり内容は教科書を読み上げるだけの簡単な講習であった。

物件取得

 次に物件の取得。条件はオーナーによって異なると思うが、筆者が優先した条件は自宅から徒歩圏内であること。田園都市線の二子新地駅・高津駅・溝の口駅あたりから探した。とにかくいい物件はすぐにとられるため、常にスピード勝負。内見は見つけたその瞬間に行かなくてはいけない。「今すぐ行けます!」と言ってその場で申し込みする、を3回くらいやった。毎度「2番手なのでダメでした」「飲食経験がないので難しいみたいです」と、言われた。

 近隣にお住いの方ならご存じかと思うが、溝の口は飲食店で溢れかえっている。緊急事態宣言のときに果敢にも政府に立ち向かい開けていた店は、常に満席だった。とにかく溝の口住民は酒が好きすぎる。飲食店を開くには非常に好立地だと考えられる。裏を返せば、激戦区。オーナーはみんな溝の口の飲食業界で勝負がしたいのである。

 さて、ようやく物件が取得できたのは、飲食店経営を思い立った日から1年4ヶ月ほど経過していた。当初持っていた希望は、物件を探していくうちに全てずり落ちていった。素人のボンヤリした希望よりも、空いている物件にこちらが合わせていくほうがはやいと考えた。 

物件取得時の凪咲屋。以前はFCのわらびもち屋だった。

 軌道に乗るまでの道のりとしてはまだまだ序盤だが、筆者は既にここで大きなミスを犯している。

内装・設備

 内装・設備に関しては、「内装屋 見積り」などで検索して出てきたサイトで一括で見積もりを請求した。

 しかし、ここで「地域の内装屋に頼んだ方が色々と利点があるのではないか」と考え、数年前に通っていた居酒屋のオーナーに連絡した。彼は既に廃業していたが、知り合いの伝手で地元の内装屋および電気屋を紹介してくれた。案の定、紹介して貰った内装屋の見積もりが一番安かった。

 後から知った話だが、検索サイトなどからいくと、遠方の業者が見積もりを取りに来て、更に地元の下請けに仕事を依頼するために費用が1.5倍~2倍ほど高くなるらしい。そんな情報インターネットに書いてなかった~~~~教えといて!!

内装のデザインは見本帳からひとつひとつ選んだ。

人材確保

 今となっては、「考えが甘すぎるわ!」と言いたくなるが、飲食事業スタート当初の筆者の構想は、「居酒屋のオーナーになって、行きつけの店にしちゃうぞ☆」だった。そのため、物件を取得した直後にスタッフを探し始めた。ところがだ。

 待てど暮らせどまともな人が来ない

 面接ブッチ、面接ため口、内定ブッチなどなど、本当に多岐に渡る人種を見た。間違いなくこれが最も大きなミスだったと言える。飲食店経営において、物件取得よりも先にやっておくべきことは、圧倒的に人材確保である。

 後から近隣の飲食店オーナーさんたちに聞いたところ、「インターネット経由の正社員の求人に応募する人は危険」が界隈の総意らしい。

 理由としては下記のようなもの。

・飲食業界は慢性的な人手不足
・界隈で誰からも声をかけられてないのはそもそもリスクが高い人間である可能性が高い
・人手不足なのに声をかけられない人間は、飛び癖がある、盗癖があるなどの問題を起こしていることが多い。
・ベストは知り合いに有能なスタッフを紹介してもらうこと。

 ということで、物件取得から1ヶ月、内装が完成する日も見えているのに、スタッフが揃っていない状況を迎えた。

 このときようやく「自分が立つしかない」に至った。しんどすぎて近所のイタリアンでワインを2本ガブ飲みした。また、このままでは一生オープンを迎えることができないと感じたために、ワインを片手に友人知人にプレオープン日程のお知らせを送りまくった。これでもう後戻りはできない……。

資金調達

 当店は20坪、カウンター8席+テラス3席の小さなお店だ。開業資金は大体1000万くらい。会社の資金+自己資金で賄ったが、念のため運転資金を銀行から借りた。こちらに関しては会社や店の規模によるとしか言いようがないが、そのくらいあれば当店ほどのサイズ感なら出せる。 

各方面から決算報告書を要求された。

 ただし、この点においても「騙されてない?」「なんでそんないい厨房機材買っちゃったの…!?」「もっといい席のとり方あったよね??」等々多くのツッコミは受けたので、無駄金を使わないためにも出来るだけ先駆者に相談した方がいい。業者ではなく、信頼できる同業のオーナーが最もよいと思われる。今すぐ近隣の飲食店に相談に行ってほしい。

当店の規模に合わないとても高価なサラマンダー

 「そんな~! オープンもしてないのに知り合いのオーナーなんて作れないよ~!」と思った人もいるかもしれない。悪いことは言わない、飲食に向いてないからここで諦めた方がいい。

 そろそろ読者のみなさまもお気づきかと思うが、飲食業界はお客さん以外にもとにかく『人との繋がり』が最も大事である。

その他の細かい問題

 プレオープンを20日後に控えた頃、まだまだ問題は山済みだった。忙しすぎたせいであまり記憶にないが、ざっくりと覚えていた範囲で下記のようなものがあった。

・ゴミ収集の業者が決まっていない→ネットで検索した業者にいくら問い合わせをしても回答が来ない。
・酒屋が決まっていない→そもそも何を基準に探したらいいのかわからない。
・仕入れ先が決まっていない→仕入れの業者が高すぎてそれがあっているのかわからない。

 今書きだして見てもヤバすぎて引いている。猪突猛進系素人の恐ろしさ、ここに極まれりである。

価格設定

 溝の口は飲食店で溢れかえっている。中でも『たまい系列』と『木村屋系列』の『のくっちゃん系列』の繁盛っぷりは目を見張るものがある。価格の安さでは到底勝てるわけがない。人気店とターゲット層がかぶらないよう、全ての酒類の価格を100円~200円ほど高めに設定した。

こちらが当店のドリンクメニュー。

凪咲屋ドリンクメニュー表
凪咲屋ドリンクメニュー裏

 開店当初こそ「こんな高い店、溝の口では流行らない」と散々バカにされたが、すんなり黒字化したので「どこにでも酒に金をかける人種は住んでいる」が筆者の結論だ。異論は認める。

人を売るのか・物を売るのか

 当店『凪咲屋』は人を売る店になってしまった。しまった、というのは「そのつもりはなかった」ためだ。本当はオーナー以外の誰が立っていてもお客さんが来る美味しい料理を出す店を想定していた。だが、人員面の不安からそれは叶わなかった。

 結果、食事やドリンクを提供するだけでなく、人と人の繋がりや、イベント、オーナーとの絡みがメインのようなお店となった。既に常連のお客さんの言葉を借りると「ここに来るといつも誰かがいるから楽しい」ということらしい。

お客さんの誕生日会を毎月行っている

 そりゃそうだ。筆者もそのようなお店に通いたかった。誤算としてなぜか自分がスタッフであることを除けば、描いていた理想の飲食店はほぼ出来上がっている。

イベントは随時SNSで発信

走りながら進めていくしかない

 オープン当初から、メニューは20回くらい変わった。売れない商品を省き、売れそうな商品を出し、また、毎日おすすめのメニューを更新し続けた。看板のイラストを書き換え、季節に合わせてインテリアを変えた。

 凪咲屋以前の営業形態を丸パクして始めた昼間のわらびもちドリンク事業に関しては、2か月で撤退した。シンプルに売れなかったからだ。素人がFC事業をなめるなという話である。

開店当初の凪咲屋。現在は酒類がすべて撤去されておち。吊り棚が設置されている

 誰からも飽きられないように常に変化をしていかなければならないのは、エンターテイメント業界に近い部分があるように感じている。

飲食店経営のメリット・デメリット

 最後に、飲食店開業のメリットをデメリットをお伝えする。

メリット

・楽しい! とにかく楽しい!
・作った料理を褒められるのは超アドレナリンが出る!
・たくさんの人に出会える。立っているだけで、色んな業種の専門家が来る。話聞き放題、質問し放題! ※ただし嫌われないように気を付けて!
・性格が明るくなる。コロナ禍の3年半、家族以外に会わずにひたすらリモートワークをしていた筆者は、飲食店事業が始まった日から唐突に明るくなった。常に明るくふるまうことが癖づいたように思う。それはしんどいのでは?という人もいるかもしれないが、筋トレと同じようなもので続けていれば慣れる。

デメリット

・利益率が低い。これはもうどこもそうだと思うが、飲食店の利益率は非常に低い。仕入れ+家賃+諸々の雑費を計算すると、全然稼げる気がしない。→つまり常にリスクとの戦いである。

 今後は薄利多売の商品や店舗を増やし続けるなど、やはり走り続けながら選択していかなければならない。筆者が体力の限界を迎える前に、更なるアップデートが必要と考えている。

 以上、飲食事業スタートに伴った備忘録だ。 色々と忘れていることもあると思うので、思い出せば追記する。

 次回は、本当に迷惑だった出禁客および非常識スタッフについて書いていく。

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及川一乃
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