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目は旅をする・後藤繁雄による写真集セレクション

ヴィジュアルの旅は、大きな快楽を、与えてくれるし、時には長編小説以上に、人生についてのヒントを与えてくれます。 このマガジン「目は旅をする」は、長く写真家たちと仕事をして、写真…
後藤繁雄おすすめの写真集についての記事を月に2~3本ずつ投稿します。アーカイブも閲覧できるようにな…
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#コンテンポラリーアート

名和晃平写真集『moment photography』/目は旅をする044(写真の未来形)

名和晃平写真集『moment photography』 G/P+abp刊 「写真」は、驚くほどの速度で変成している。何をもって「写真」か?という定義をするよりもその変成する速度は速く、従来の「写真批評」はまるで追いついていけない。 まず新たな視点は、写真は今日、データであり、それをどのように視覚化するかというアルゴリズムそのものになったということだ。 データは目に見えないから、見えるようにしなければならない。 アルゴリズムを設計出来る人間ならばともかく、従来の「写真家」は

ホンマタカシ『CASA BRUTUS 特別編集 マガジンハウスムック TOKYO NEW SCAPES 2015-2021 ホンマタカシ』/目は旅をする043(TOKYO)

ホンマタカシ『CASA BRUTUS 特別編集 マガジンハウスムック TOKYO NEW SCAPES 2015-2021 ホンマタカシ』 マガジンハウス刊 都市と写真の「課題」は、まるで双子のように切っても切れないものとして続いてきた。それは矛盾をはらんだ「問題」を解くというより、いかにして相互的に働き合い「都市の肖像」(ベンヤミン )、つまりある時には、仮面をはぎ、またある時にはユートピックな演出を施すかという作業であったように思われる。 例えば我々は「都市」の名前を写

ルイス・ボルツ 『COMMON OBJECTS』/目は旅をする036(風景と人間)

Lewis Balts ルイス・ボルツ 『COMMON OBJECTS』STEIDL/LE BAL 刊 ルイス・ボルツは1945年にカリフォルニアで生まれ、2014年にパリで死んでしまった。まだ69歳だった。 彼はキャリアは長かったがまだ若かったし、いつかインタビューするだろうなと漠然と感じていたから残念に思った。 僕は2014年に、パリのLE BALでの個展を偶然見た。でもそれが、彼の生前最後の個展になるとは思わなかったが、今となってはその展覧会を見ることが出来て、縁を強

澤田知子『狐の嫁いり』/目は旅をする035(写真の未来形)

澤田知子 『狐の嫁いり』青玄舎/東京都写真美術館刊 2006年に、大阪の現代アートの拠点だったキリンプラザ大阪で澤田知子の写真展『MASQUERADE』をプロデュースした。それ以来、事あるごとに彼女の写真を興味深く見続けてきた。 彼女の作品は、まず1998年に大学の卒業制作として発表された『ID400』(写真集は2000)をあげなくてはならない。僕もその写真集で彼女を知ることになったのだが、これは今を持ってしても傑作だと思う。 『ID400』は実に新鮮で、それまでの「写

ブルース・チャトウィン『Far Journeys』/目は旅をする034(人間の秘密)

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赤石隆明『UNBROKEN ROOM』/目は旅をする033(写真の未来形)

赤石隆明『UNBROKEN ROOM』 artbeat publishers刊(2013) 3.11東日本震災から10年がたった2021年に、小さな展覧会をキュレーションした。 こんな10年後の世界を、誰も予想できなかったろう。covid-19と名づけられたウィルスの感染によって全世界が機能停止した真っ只中だったからだ。 延期された東京オリンピックは、もはや未来の象徴ではなくなってしまった。 ジェームズ・ラブロックの『ノヴァセン』やブルーノ・ラトゥールの『地球に降り立つ』

ヘルムート・ニュートン『Pola Woman』/目は旅をする032(もうひとつの人生)

ヘルムート・ニュートン『Pola Woman』 Schirmer Art Books刊 1992年 『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』(監督ゲロ・フォン・べーム)を見た。映画館で、ちょうど2020年は、ニュートンの生誕から100年がたっていたことに初めて気づいた。 ニュートンが死んだのは2004年1月だった。ハリウッドの常宿にしていたシャトー・マーモントホテルの駐車場で間違えてアクセルを踏んで事故って死んだと聞いた記憶がある。 マーモントには90年代にジャック・

ウィリアム・エグルストン『William Eggleston's Guide』/目は旅をする031(風景と人間)

ウィリアム・エグルストン『William Eggleston's Guide』 The Museum of Modern Art ,New York この写真集は初版は1974年、エグルストンが35歳の時のMOMAでの初個展の時に出たものだ。 キュレーションは写真部長のジョン・シャーカウスキーによる。 僕は90年代にメンフィスのエグルストンの家を訪問して以来、数回にわたり彼と対話を交わしてきた。彼はスティーブン・ショアと並んで僕に写真についての決定的ともいえる影響を与えて