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目は旅をする・後藤繁雄による写真集セレクション

ヴィジュアルの旅は、大きな快楽を、与えてくれるし、時には長編小説以上に、人生についてのヒントを与えてくれます。 このマガジン「目は旅をする」は、長く写真家たちと仕事をして、写真…
後藤繁雄おすすめの写真集についての記事を月に2~3本ずつ投稿します。アーカイブも閲覧できるようにな…
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#後藤繁雄

サイ・トゥオンブリー 『Photographs 1951-2007』/目は旅をする040(魅力)

サイ・トゥオンブリー 『Photographs 1951-2007』Schirmer/Mosel刊 サイ・トゥオンブリーは、1928年生まれ、2011年に亡くなったアメリカのペインターである。ボストンやニューヨークで学び(ブラックマウンテンカレッジでもラウシェンバーグらからも学んだ)、1957年からはイタリアへ移住し制作を続け、80歳を過ぎても精力的に制作を続けた。 詩をキャンバスにドローイングしたり、アブストラクト絵画というカテゴリーでは括れない、独特な「絵画」を生み出

シャーロット・コットン 『The Photograph as Contemporary Art(現代写真論 増補改訂版)』/目は旅をする039(写真の未来形)

シャーロット・コットン 『The Photograph as Contemporary Art(現代写真論 増補改訂版)』 Thames & Hudson刊 今回は写真集ではなく、現代写真論の本を取り上げる。シャーロット・コットンの『現代写真論』(晶文社)をアップデートしたヴァージョンで、日本ではまだ増補改訂版は出版されていないものだ。 僕がシャーロット・コットンに初めて会い、インタビューしたのは、雑誌『エスクァイア日本版』でアメリカ写真特集号(「写真が語る、ニューヨーク

リチャード・アヴェドン&ジェームズ・ボールドウィン 『nothing personal』/目は旅をする012(人間の秘密)

リチャード・アヴェドン&ジェームズ・ボールドウィン 『nothing personal』A DELL BOOKS刊 これは1964年に出た写真家リチャード・アヴェドンと作家ジェームズ・ボールドウィンのコラボレーション作品だ。 2人はブロンクスのデウィット・クリントン高校の同級生の仲だった。この時2人は41歳。歴史の歯車が再会させた。 僕は80年代の終わりにニューヨークの行きつけの古本屋でこの『nothing personal』を見つけて買った。小型で、発色の良くない紙に

マリオ・ジャコメッリ 『Cose Mai Viste』/目は旅をする011(天国と地獄)

マリオ・ジャコメッリ『Cose Mai Viste』Photology FU刊 旅の途上で本と出会うのは何よりも楽しい。 偶然立ち寄ったボローニャの Artelibroの会場で、一冊の本が僕の心を捉える。それは、2000年に亡くなったイタリアの写真家、マリオ・ジャコッメリの小ぶりな、しかし400 ページ近くもある写真集だった。 画家のエンツォ・クッキが編集・構成していた。 ジャコメリのトレードマークとも言うべき神学生たちが表紙。日だまりで彼

上田義彦『at Home』/目は旅をする010(幸福)

上田義彦『at Home』 リトルモア刊 この写真集は出産から始まる。 妻、家族、微笑み、愛犬・愛猫との暮らし、そして死別。 何度かの引越しが物語を転調させる。季節はいくつも過ぎ、娘たちは、植物の芽が緑色の葉にかわるように、瞬く間に育つ。 写真家・上田義彦は、多くの仕事で体におぼえさせ続けてきた技術や写真感覚のすべてを、ファミリーフォトへ 捧げた。 いや妻や家族たち写真の共演者がいなければ、このような写真は生まれることはない。妻・桐島かれんと子どもを軸

レイナー・クローン 『スタンリー・キューブリック ドラマ&影:写真 1945-1950』/目は旅をする009(人間の秘密)

レイナー・クローン 『スタンリー・キューブリック ドラマ&影:写真 1945-1950』 ファイドン刊 以前、こんなことがあった。 予感というものは恐ろしい。家にいて、ふと思いついてスタンリー・キューブリック監督の『時計仕掛けのオレンジ』を見直したあとに、ふらりと本屋へ寄ったら、何とキューブリックが撮影した「写真集」が出ていて本当に驚い たのだった。

ヴォルフガング・ティルマンス『Conor Donlon』/目は旅をする008(幸福)

ヴォルフガング・ティルマンス『Conor Donlon』 Walther Konig刊 これはティルマンスが、長い時間にわたり1人の男性を撮り続けてまとめた写真集だ。 ドンロンは元はティルマンスのアシスタントであり、展覧会が世界巡回する時に同行する設営スタッフであり、しかしその一方で、ロンドンのクラブシーンには欠かせないレジェンドだった。 2人ともゲイだが、彼らがカップルかどうかは分からない。いや、写真から伝わるのは、そんなことより、その平等性と友情である。

長島有里枝『empty white room』/目は旅をする006(私と他者)

長島有里枝『empty white room』リトルモア刊 久しぶりに見る。出版されたのが1995年だから、四半世紀もたってしまっかと思うと驚く。 しかしその驚きは、時が経つのが早いという感慨ではなく、全く「今」の匂いがプンプンする写真の力に対してだ。

ダイアン・アーバス『MAGAZINE WORK』/目は旅をする005(人間の秘密)

ダイアン・アーバス『MAGAZINE WORK』 aperture刊 アーバスは、1923年に生まれ71年に、バスタブの中で両手首を切って自殺した。48歳だった。 彼女はリゼット・モデルとアレクセイ・ブドロヴィッチに写真を習い1940年代から写真を撮り始め「エスクァイア」「ハーパーズバザー」の雑誌で精力的に仕事をした。 彼女が撮った写真を一度でも見たら、誰もが忘れられないだろう。

塩田正幸『DOGOO HAIR』/目は旅をする004(東京で)

塩田正幸『DOGOO HAIR』 (アートビートパプリッシャーズ) もう何年も前の話だが、書いておきたい。 アーティストの五木田智央くんと吉祥寺の居酒屋・伊勢屋で飲んでいた。五木田くんは旧友である。僕らは、酔いがまわった勢いで、2人で写真家の塩田正幸に電話をした。一緒に飲みたいからだ。楽しいからだ。