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目は旅をする・後藤繁雄による写真集セレクション

ヴィジュアルの旅は、大きな快楽を、与えてくれるし、時には長編小説以上に、人生についてのヒントを与えてくれます。 このマガジン「目は旅をする」は、長く写真家たちと仕事をして、写真…
後藤繁雄おすすめの写真集についての記事を月に2~3本ずつ投稿します。アーカイブも閲覧できるようにな…
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#現代アート

アイザック・チョン・ワイ『FALLING REVERSELY』/目は旅をする086(人間の秘密)

アイザック・チョン・ワイ『FALLING REVERSELY』(ziberman刊) 2024年のヴェネツィア・ビエンナーレのアルセナーレの会場は、3回ぐらい行き来して見直してみたけれど、一番印象的だったのは、パフォーマンス映像を複数の縦画面の大きなモニターで見せていた、香港とベルリンをベースに活動するアイザック・チョン・ワイの作品だった。

赤瀬川原平 『1985-1990赤瀬川原平のまなざしから』/目は旅をする086(幸福)

赤瀬川原平 『1985-1990赤瀬川原平のまなざしから』(りぼん舎)刊 コンテンポラリーにおけるアート思考は、アートの価値生成にまつわる要点だが、これは反芸術や非芸術による切断体験や、変成のプロセスが必須である。それは暴力的な「破壊」の場合もあれば、そうでない「脱構築(デコンストラクション)」の場合もあって、しかしいずれにせよ「破壊的創造(ディスラブション)であることには変わりない。 この「やり口」はマルセル・デュシャンの「レディメイド」という既製品をアートの言語に転用

横田大輔『matter/burn out』/目は旅をする062(東京で)

横田大輔『matter/burn out』 (artbeat publishers 刊) ベンヤミンは、ユートピアへの衝動に終生付きまとわれた。それは一種のメシアニズムであったのだろうが、過去をステップボードにして未来への跳躍を夢見る。しかし、都市の全ての事物はエントロピーを増大させ、瞬く間に廃墟につきすすんでいく。 誰もそれを止めることはできない、救世主を除いては。

ヴォルフガング・ティルマンス『To Look Without Fear』/目は旅をする059(地図のない旅/行先のない旅)

ヴォルフガング・ティルマンス『To Look Without Fear』(The Museum of Modern Art, New York刊) 僕はコンテンポラリーアートの中でも、ひときわ「写真」に取り憑かれ続けてきた。それは「写真」が、他のどんなアートフォーム以上に、時代の動因と深くリンクした複合体だからだ。 そしてそれが、単に、時代を記録するジャーナリズムを意味するだけではなく、時には予言的と言ってよいほどの表象を提出してくるからだ。 理由はもっとあるが、それは

カッセルでルアンルパの「戦略」について考える/一日一微発見338

今、このテキストをドクメンタ15が開催されているカッセルで書いている。 時は昼メシどきで、僕(と妻の渚)は、カッセル駅前からすぐのトルコ料理屋で、うまくてリーズナブルなケバブをくった後、すぐ隣にあるドクメンタのサテライト会場にもなっているバーとクラブが合体した店で、昼から一杯やっているのである。 今日は昨日までの寒さはやわらいで、晴天が広がっていて、ピースフルな雰囲気に街が包まれている。 今日はカッセル3日目(初日は深夜に着いたので、何もしていない)で、朝にカッセル駅にジ

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フィオナ・タン『Vox Populi Switzerland』/目は旅をする056(人間の秘密)

フィオナ・タン『Vox Populi Switzerland』(Aargauer Kunsthaus刊) スイスには僕のお気に入りの現代美術館がいくつかあって、そのうちの一つが、アーラウにあるAargauer Kunsthausアールガウアー美術館である。 この美術館はスイスの現代アーティストの膨大なコレクションで知られるが、2003年に建築家ヘルツォーク &ド・ムーロンが見事なリノベーションをはたして、小ぶりながら実に先見性のある施設とプログラムを提出してくれるのだ。

スタン・ダグラス『STAN DOUGLAS』/目は旅をする055(アナザーワールド)

スタン・ダグラス『STAN DOUGLAS』 STEIDEL/SCOTIABANK PHOTOGRAPHWY AWARD刊 「アーティストは、基本的に世界のバージョン、現実のバージョンを提示することができ、他の人々が検討できるように提案することができるのです。存在しないかもしれない世界についての考え方を提案することができるのです。他の方法では想像できないようなことを想像させることができるのです」 スタン・ダグラスは、そう語る。 1960年生まれでカナダのバンクーバーを拠点

アレック・ソス『Gathered Leaves Annotated』/目は旅をする054(地図のない旅/行先のない旅)

アレック・ソス『Gathered Leaves Annotated』 MACK刊 アレック・ソスは、極めて今日的であり、かつ特異な写真家だと思う。 彼の写真には、「風景」や「人」といった抽象的なものはない。「風景」や「人」というコトバで括れない具体的なもので出来ている。結論めいたものもない。朝起きると太陽が昇り一日が始まることが繰り返されるように、終わりもない。 『Gathered Leaves Annotated』と題されたザラ紙に印刷された720ページにもおよぶ「写真

澤田知子『狐の嫁いり』/目は旅をする035(写真の未来形)

澤田知子 『狐の嫁いり』青玄舎/東京都写真美術館刊 2006年に、大阪の現代アートの拠点だったキリンプラザ大阪で澤田知子の写真展『MASQUERADE』をプロデュースした。それ以来、事あるごとに彼女の写真を興味深く見続けてきた。 彼女の作品は、まず1998年に大学の卒業制作として発表された『ID400』(写真集は2000)をあげなくてはならない。僕もその写真集で彼女を知ることになったのだが、これは今を持ってしても傑作だと思う。 『ID400』は実に新鮮で、それまでの「写

ブルース・チャトウィン『Far Journeys』/目は旅をする034(人間の秘密)

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赤石隆明『UNBROKEN ROOM』/目は旅をする033(写真の未来形)

赤石隆明『UNBROKEN ROOM』 artbeat publishers刊(2013) 3.11東日本震災から10年がたった2021年に、小さな展覧会をキュレーションした。 こんな10年後の世界を、誰も予想できなかったろう。covid-19と名づけられたウィルスの感染によって全世界が機能停止した真っ只中だったからだ。 延期された東京オリンピックは、もはや未来の象徴ではなくなってしまった。 ジェームズ・ラブロックの『ノヴァセン』やブルーノ・ラトゥールの『地球に降り立つ』

ヘルムート・ニュートン『Pola Woman』/目は旅をする032(もうひとつの人生)

ヘルムート・ニュートン『Pola Woman』 Schirmer Art Books刊 1992年 『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』(監督ゲロ・フォン・べーム)を見た。映画館で、ちょうど2020年は、ニュートンの生誕から100年がたっていたことに初めて気づいた。 ニュートンが死んだのは2004年1月だった。ハリウッドの常宿にしていたシャトー・マーモントホテルの駐車場で間違えてアクセルを踏んで事故って死んだと聞いた記憶がある。 マーモントには90年代にジャック・

ウィリアム・エグルストン『William Eggleston's Guide』/目は旅をする031(風景と人間)

ウィリアム・エグルストン『William Eggleston's Guide』 The Museum of Modern Art ,New York この写真集は初版は1974年、エグルストンが35歳の時のMOMAでの初個展の時に出たものだ。 キュレーションは写真部長のジョン・シャーカウスキーによる。 僕は90年代にメンフィスのエグルストンの家を訪問して以来、数回にわたり彼と対話を交わしてきた。彼はスティーブン・ショアと並んで僕に写真についての決定的ともいえる影響を与えて