記事一覧
小説/汐喰シーサイドホテル537号室
吹笛と共に飛び上がり、どんっと夜空に号砲を撃つ大きな雫のようにそれは起こって、わたしは遺灰を溢してしまった。でも自分が誰と衝突したかわからない。わたしは人の顔を見ないので。
人の顔を見ない理由はいくつかある。まず第一に人の顔を見ると悪玉菌が善玉菌を殺してお腹を壊し、それから鼻が曲がって目玉が飛び出て口は耳まで裂けて舌が耳殻をぺろぺろ撫でてぴちゃぴちゃという音が脳髄まで到達する前に足のつま先から
とてちてた(短編小説)
「ありがとうございました。
美味しく召し上がれますように」
という銀だこ店員さんのおまじないに里香は癒された。しかし今日はもっと癒されたいと思ったので里香は名護さんに会いに行くことにする。
「本日揚げ物をふたつ買うと百円びきです。
ごいっしょにいかがですか?」
と会って早々胃もたれしそうな提案を持ちかける名護さんに「いりません、たこやきを買ってきたので」と里香は胃を気遣ってにこりと答えた。
十二月(エッセイ) #シロクマ文芸部
十二月になった。だからといって例年ならばどうってこともないのだけど、ことしはいつもとすこしちがう。「十二月までながいなあ…」と待ち焦がれすぎて八月と十月に一度ずつしにかけた。というのは嘘で、でも楽しみだったのは本当。
そしてついにきのう(ここまでは12月2日に書いた)十二月がやってきたのだけど、なにがあったのかというと、ライブに行った。
………それだけ。
それだけではあるけど、チケットをと
回転木馬(短編小説)
たとえば目の前に一本のマッチ棒があるとする。
それを見てあなたは何を考える?
「マッチ棒かぁ……」
うーんと可愛く唸ったあと、彼女は鼻の頭を指で擦った。それから首をこてんと横に傾ける。
「マッチ棒さん、あなたは赤毛だから、エド・スミスね」
考え抜いて出した答えはそれらしい。
「さぁ、ギターを鳴らして永遠の愛を歌ってごらん」
なるほど。それはとんでもない皮肉だね、と言いたくなる気持ちをぐっ