市松

とある刀剣愛好家のエッセイ置き場です。

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最近の記事

神奈川沖浪裏の刃文

神 奈 川 沖 浪 裏 の 刃 文 「大船を荒海に漕ぎ出や船たけ我が見し子らがまみはしるしも」――詠み人知らず 【序】  私があの刀と出会ったのは、まだ美術館・博物館での刀剣鑑賞をし始めたばかりの頃である十九の時だった。 華やかな刃文が一際目を引くその刀の名は「今荒波(いまあらなみ)」。号である「今荒波」という名の由来は、その名の通り、荒波のように華やかな刃文だ。  私は東京国立博物館で出会ったこの刀を甚く気に入り、展示されていることを知り、何度も会いに行った。今回は

    • 【刀剣エッセイ】三十六歌仙の刀

      三 十 六 歌 仙 の 刀 「をとめらが袖ふる山の瑞垣の久しき時ゆ思ひき我は」――柿本人麻呂 【序】  私がその刀の存在を知ったのは、まだ十代の頃だった。幼い頃から日本刀が好きだった私は、ある日、戦国時代の武将・細川忠興公の愛刀の名を知った。その名は「歌仙兼定」。名の由来は忠興公の息子・忠利の家臣を「輔佐ぶりが悪い」と三十六人(一説では六人とも)手討ちにしたこと、その人数と和歌の名人の総称である三十六歌仙(または六歌仙)を掛けて、だそうだ。  その逸話を知った時、私は「忠