【書評】高村光太郎 智恵子抄
「智恵子は東京には空が無いと言ふ」
こちらのフレーズは有名であろう。
たった一行で、心にずしんと響く。
読む前からなんとなく知っている詩はあったり、智恵子が精神を病んでしまい、そのまま亡くなったことは知っていた。ただ、なかなか読む機会はなかった。
きっかけはなんだったか忘れたが、高村光太郎及び智恵子のWikipediaを読んだ。
そして、智恵子抄を読むことを決意した。
智恵子が精神が病んでしまった原因を知ったからだ。
女子大を出るほど優秀で絵画に確かな才能がありながらも、なかなか人に認められない。
家庭生活と自身の創作活動の両立に苦心する。依るべき実家は頼れなくなる。
大正時代の話とは思えないほど、現代でも苦しさがリアルにわかる。
自分にも大いに共感できることが多く、Wikipediaを読んだだけでも胸が痛んだ。
智恵子の人生をもっと知ってみたいと思ったのだ。
高村光太郎 「智恵子抄」
光太郎が紡いだ詩や随筆は、智恵子への愛が溢れている。
そして、どんどん病んでいく智恵子の描写が哀しい。人間から離れていくという旨の表現もつらい。
また、草野心平から見た高村夫妻の様子も読んでて心に迫る。
病む前の智恵子の様子の描写もたくさんあった。
わたしが読んだ新潮文庫版には、晩年の智恵子が作ったたくさんの切り絵の写真が冒頭に載せてあった。
夫に見せるためだけに、ひたむきに作ったのであろう、素晴らしい作品。
やはり最後まで、芸術を愛していたのだと思う。
調べたら、品川の大井町に智恵子の記念碑があるらしい。
そして、そこにはいつも檸檬が備えてあるとも。
亡くなる数時間前に、最期に檸檬を齧った智恵子。
没して90年近くになるが、人々の心からは消えていないのだと感じた。
切なく辛くなる文章でもあったが、ひたむきな愛に溢れた一冊であった。