新月の夜は力が抜ける〜宮本朋世さんの朗読会にまた抗えずに行ってしまった、の巻。
はじめてその女の動く顔を見て話す声を聞いた夜、眠れなくなった。
泡盛呑んでも目が冴える。
余分な水分を溜め込んでだらけきった細胞が刺激を受けて、あらたな熱を抱えたよろこびに震えているようだった。
美しい女だった。
朗読会だからと口元だけを映し出す画面。
和服をまとった色艶に満ちた綺麗な女の赤い唇がうごめいて、幻想的なものがたりを読み上げていく新月の夜。
まっくらやみの、月がちょっとずつ姿を見せはじめる、そのはじまりの夜。
月は女なのだ。
簡単に全身をあらわにはしないくせに、満月ともなると昼のように光を放ち圧倒してくる。
眩しい。けれど目を逸せない。
太陽のように目を焼くこともなく、瞳孔を通して全身に浸透してくるようなその光。
ともちゃんの名前には、その月がふたつある。
「新月の夜の朗読会」の魅力に抗えず、またお邪魔してきた。
カウンセラーさんという生業のひとびとは、私の細胞を目覚めさせてくれるんだ。
またともちゃんの幻惑にやられて目覚めたいと申し込んだ2度目の朗読会。
ねえ。
あなたさま、あなたさま。
そう語りかけてくるともちゃんの心地好い声を、ただ、聞いていた。
目を閉じて、ああ、ありがとう。
私のそのまんまを見てくれて、ありがとう。
しあわせだなあ。
じんわりと幸福感を感じながら、体を丸めて聞いていた。
どれくらいそうしていただろう。
「布団で寝りや」
息子に声をかけられて気がついた。
いつの間にか、私は眠っていたのだ。
ものがたりに出てくる白い羽の生えた鹿の夢を見ていた。
前回はこの鹿に怒りを感じていたのだったわ。
私を利用するんじゃねえ、と。
今回はあらそう、しょうがないわよね、と少し苦笑した。
そうよねー。
髪をあげて薄水色の扇子を使っていたともちゃんが、そう相槌を打ちながらあおいでくれているような、やわらかく涼しい心地好さの中でうとうとしていた。
どこまでが夢で、うつつであるのか。
不思議に思いながら歯を磨く姿をともちゃんに見られた瞬間と、zoomを退出した瞬間が重なって。
恥ずかしい。
ああ、恥ずかしいって。
そんな感情。
久しぶり。
恋人に会いたいな。
なぜか、そう思った。
思い出す彼の顔が、10倍増して恰好良くなっていた。
偶然が重なり、翌日久しぶりに顔を見れた忙しい恋人の、揉むに心地いいお腹の脂肪がなくなっていた。
腹筋がある。
会えない間に、筋トレをしていたらしい。
なんでもいいんだけど、なんだってすきなんだけど、ちょっと違うと新鮮で興奮する。
ともちゃんは不思議。
私の恋人を恰好良くしてくれて、ありがとう。
なんやねんそれ、って、その唇で言って。
私はきっと、ともちゃんと直接対決したらぐずぐずに溶けてしまうのであろう。
その日が待ち遠しい。
誰か、私より先に挑んで溶けてしまってきて。
それをにやにやと眺めながら、口惜しいという感情を持ってみたい。
読んでくれてありがとう。
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