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いちばんたいせつで失いたくなくて嫌われたくなくて妄想しては恐れているもの〜カウンセリングで脱水するほど泣かされるの巻
根本のじっちゃんのお弟子先輩のようこさんにオンラインセッションしてもらってきたよ。
「わたしはカウンセリングがしたいのです」っていうアツいアツいブログを書いてらして、つつつーっと引き込まれるように申し込みをしたのだ。
だからアツいオンナなんやと勝手に思っていた。
丁寧なカウンセリングシートも事前に送ってくださって、アツくてキチンとしたキャリアな女性を妄想していた。
画面の向こうにいるようこさんは、淡い色素をしたさらさらできれいなまっすぐな長い髪と、抜けるような透明感のある真っ白な肌と、笑うと綺麗な形に上がる官能的な口角の唇を持っていらした。
このひとを笑わせたらこの美しい唇をずっと見ていられるんだな〜
ああこのひととずっと笑っていたいな〜
頭の片隅でそんなことを思いながら、いつのまにかわたしは止まらない涙に困惑することとなる。
仕事のことで相談をしたつもりであったのだ。
疲れやすいこと。
多めに休みをとりながらもなかなか疲れが取れないこと。
もっと働きたいのだけど朝起きたらサボりたいと思うこと。
もう本当に恥ずかしく情けない話だけれど、たまに当日欠勤してしまうこと。
仕事を頑張ってお客さまにご指名をいただいて、よしもっとチャレンジしようと思った瞬間からイヤになってしまうこと。
そうしてお店からの評価が相反するものになってしまい、良くしてもらってはいるけれど、信頼度は低いのではないかと恐れていること。
ああ書いていて自分が嫌だ恥ずかしい。当欠しても許してとか思ってたんだわー。
どうして自分の決めたシフトを守れないのか。
信頼を裏切るようなことをしてしまうのか。
当日欠勤しても、「ああやってしまった」と心は休まらないのだ。
というより、休んでいても常に「あれをやらねば、これもやらねば」とぐるぐる考えすぎて動けなくなってしまう。
いつの間にかようこさんにやさしく引き出され、話題はいつしかわたしのちいさなころのことになっていった。
小2のわたし。
母は入院中。
父は仕事に看病に忙しい。
弟は保育園。
わたしは母のかわりになれないわたしをずっと責めていた。
ごはんを作れていなくて、父と弟とスーパーにお惣菜を買いに行く自分。
シンクに山積みのお皿を片付けずに寝てしまった自分。
洗濯物の山をぎりぎりまで放置する自分。
すべてを一挙に引き受けられない自分を憎んですらいた。
ようこさんは言った。
「ちっちゃかったんだもん」
あっ。
そうだ…。
わたしはちっちゃかった…。
道端で見かけるランドセルを背負った2年生の女の子。
あの子と同じだったあの頃のわたし。
こんな小さな子に、なんという重い要求をずっとしてきたのだろう。
ごはん、つくってたやん。
洗濯も洗い物もしてたやん。
給食当番のエプロンにアイロンかけてたやん。
体操服に名札も縫い付けた。
父も弟も家事をやっていた。
せめてじぶんのことはじぶんで。
余裕があればみんなのぶんも。
思い返せばこうやって協力して3人で生きてきていた。
できないひとを責めるひとなんていなかった。
それに、させられていたわけではない。自主的にやりたくてやった。
やらねばいけないことではあったけれど、母がいてくれたらやらなかったことではあったろうけど、お母さんのいる友達がうらやましくもあったけれど、いずれ自分で自分の家事をやるようになることはわかっていた。
わたしが自分で家事をすることを選んだのだ。
よくがんばったやんか、わたし。
この時はまだ、
「あはは、ようこさん、ティッシュいま貴重やのにこんなに泣かさないでよー」
なんて軽口を叩く余裕があったのだ。
そのあとの流れでようこさんが
「こどもたちはイチカさんを助けるために生まれてきたんだよー」
と言った瞬間、
わたしの目から滝のように涙があふれた。
こんなわたしが母で。
父や弟になにもしてあげられないまま体ばかり大人になってしまったわたしなんかが母で。
シンクがぐちゃぐちゃだとぎゃんぎゃん怒り出すようなこんなヒス女が母で。
かと思えばあほな動画をしつこく送りつけておもろいやろおもろいやろと感想を強要する知性のかけらもない女が母で。
勝手に離婚を決めるようなわがままな女が母で。
離婚したからって恋をするような身勝手な女が母で。
こんなわたしなんかがあなたたちを産んでしまってごめんね。
ずっとずっと、そう思ってきた。
でも、ちいさなわたしはどうやった?
ずっとずっと、おとうさんと弟の役に立ちたかったやろ?
おとうさんと弟が笑ってくれたらもうほんまにしあわせやったやろ?
わたしのこどもたちも、そうなの?
そうだよ、とようこさんは言う。
イチカさんが、こどもたちがいるからわたしは生きていけると思っているように、おとうさんも弟さんも、イチカさんがいるから生きていけたんだよ。
ようこさんのやさしい笑顔が涙でぼやけて見える。
わたしはちいさなころ、真っ暗な家に帰って電気をつけるのが悲しかった。それは母を喪ったゆえの行為であった。でもそれは同時に、家にあかりを灯して父と弟を迎えるという行為でもあった。
今は娘ちゃんがあかりを灯して待っていてくれる。
息子くんは塾のはなまるを持ってわたしの帰りを待ち構えている。
父と弟、娘と息子に許してほしかった。
許すもなにも、わたしは愛されていたし、愛をもって家族で暮らしていただけだった。
わたしがもっともっと愛したかった。
ただ、小さくて無力だっただけなのだ。
イチカさーん、お酒、ひとくちひとくち美味しい〜って味わってね〜。
こんな美味しいものを買って飲ませてくれるわたしって最高!って褒めてあげてね〜。
これを買える、稼げるわたし最高!って。
ようこさんはそんな言葉もくれた。
そのせいか、今朝はいつものように「ああ朝だ。嫌だな。またがんばらなきゃならんのか」と目覚め、「ああ朝だ。嫌やな。またがんばらなきゃならんのか、と思っとるなわたし」と自分を認識し、いつもより30分も早く支度も洗濯も終わった。
ようこさん、今日はなんかわりとすんなり行ったよ!とひとりごちて駅に向かって歩き出す。
カウンセリングしてもらって、なんかしらんけど大量に泣いて、背負っていた重たいもんがすっきりしたというお話。
お読みくださったあなたが、背負った荷物を解いて「ああ、こんなものもあったねえ。重たかったねえ。」などという時間を愉しまれますように。
ありがとうございました。
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