言葉少ななマスクたち

人生でこれほど長い時間マスクを着用したことはなかった。

健康だけが取り柄だったから小学生の頃の「皆勤賞」は余裕で取れたし、病院で長い待ち時間に耐えたことも数えるほどしかない。

そんな人間が急にマスクをつけたらどうなると思う?








「喋らなくなる」


もうほんとびっくりするくらい口数が減る。もともと多くないリアルでの発声が更に3分の1くらいになって「あれ、どうやって声出してたっけ?」ってなるほど。

喋ることにはパワーがいる。そんなことはインドア派の自分には周知の事実だったけど、もうそんなんじゃ説明つかないくらいに話すのが億劫。息苦しくてしんどい。ずっとつけてると耳も痛いし。一周回ってエグい。

あの薄い布一枚にそうとう強めの防御壁が入ってる。入るものも出るものも全部その壁を通り抜けなくちゃいけないから一苦労。

おまけにこれからの季節には暑苦しさまでついてくるから、通ること自体を尻込みしちゃう。


根本的には好きなんですけどね、話すの。


だけど人間の習慣とは恐ろしいもので、毎日繰り返しているとわけなくできるのにやらなくなると途端に積み上げてきたものが少しずつ崩れていく。

喋ると息苦しい、うまく話せない、会話を続かせられない、いい感じのことが言えない。この「ない」が積み上げてきたものをクレーンゲームみたいに一個一個取り除いていってしまう。はい、はじめからですよ、ってね。

どうしよ、このまま喋れなかったら。誰にも彼にも口をきけなくなって、思ってることが言えなくなって、がんじがらめになっていきやしないかな。



そんなふうにひとりでずーんとしていたら、チャンネル登録しているユーチューバーさんが新たに公開した動画で言っていた。

「喋り方忘れちゃって困ってるんですよー」

えっ、忘れちゃったの喋り方。わたしと同じじゃん。

もちろん動画内では全然違和感なく喋れてるわけですが、その方が言うには普段のちょっとした店員さんとの会話、仕事先での雑談、そういうものが取り払われたらすっかり「喋り方忘れちゃった」。

えっ、喋るのがお仕事の方でも、そんなふうに思うんだ。


そっか。


久しぶりにZOOMで友達何人かにその話をしたら「わかるー!!!」と激しく同意してもらえた。

仕事が在宅になったAちゃんだけでなく、仕事上は特別変化がなかったというTさんも、みんなどこかで「人との会話の少なさ」を感じていた。

マスクの有無に関わらず公然で大きな声で話すのはご法度という空気があったから、日常のちょっとしたお喋りは減る一方。夏がくるからマスクは息苦しくなる一方。

みんな、おんなじように思ってたんだね。


そっか。そっか。


そりゃそうだよね。誰にとってもはじめての現象が起こってるんだもん、はじめての反応が起こってしまうのも無理はないよね。



状況は少しずつ変わってきている。外にも多少は出やすくなったけどマスクはやっぱり手放せない。みんなどこか息苦しい思いをしている。

だけどその息苦しさも、誰かと分かち合ったらちょっとはスッキリするのかも。

辛さや痛みを比べるのはナンセンスだけど、うまく共有してみるのは一個の知恵かもしれません。









それはそうと、マスクさん。なんやかんやといってごめんね。

いっつも君に守られてるよ、ありがとう。

これからもお世話になります、何卒よろしくね。









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