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#月刊撚り糸 2021年をささやかにプレイバックする。


 2021年1月からはじめたマガジン#月刊撚り糸 。皆様のおかげで無事に一年を終えることができました。その感謝を込めまして、ささやかですが参加してくださった方々の作品の中からひとつずつ、主催者が一番好きだと思ったものを改めて紹介しています。


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1、夕焼けに煙る

 絶対絶対絶対絶対もっと読まれるべきだ!!!と個人的に思ってる小説のひとつ。幼い日々の目線の低さ、見えない大人の仄暗さ、そして人と人との繋がりは温かいのだと教えてくれる距離感。そのすべてが絶妙に収まり、悲しい結末すらも胸の中を解いてくれる瞬間になる。
 月刊撚り糸をはじめて最初の月に、この小説を読めた時点で早くも「やって良かったな」と思った。つまりは愛してるということです。


2、今日のメインは

 もう私こういうの大大大好きなんですよね。自分ではあまり書けないけれど、周到に用意されたオチ、文体とのギャップ、読み終わった後にニヤニヤしちゃうこの感じ。
 やられた!と思いながらも、お笑いだって手品だって映画だって創作だって小説だって、それが楽しいんだよなぁ。


3、『みぞおち』

「日常を日常のままドラマにすることがいかに難しいか」という問題を軽々と飛び越えるような作品。これがねぇ、なかなかできない芸当だと思うのですよ。ついついあれこれ盛り込みたくなる中で、あえてふとしたワンシーンを切り取り、そして振りかけられたひと匙の彩り。寒い日のお鍋という感じがします。
 あとこれは完全に個人的趣味ですが、くっきりとした地の文に対して「んん。」とか「やだ」とか柔らかい相槌があるときゅんてしちゃう。


4、花曇

『桜は正直嫌いやな。咲いてる期間は短いし、青空が背景じゃないと色が映えん』この台詞にぐっと持っていかれるような心地がした。あけすけに「嫌い」を口にできる人はやっぱり独特の強さを持ってるなって思うし、それが自分にないものだと思えば思うほど惹かれるものですよね。
 そして最後に決断した主人公に尊敬というよりも愛おしさを感じてしまうのは、きっとすごく自分に近いからなのかな。等身大は見せかけでなく、瞬間瞬間に宿るもの。


5、拝啓、サンスベリア。

 やっぱり目を引くもの、ってあると思うんですよ。それがこの作品の冒頭部分に詰まっている気がする。何が起こるんだろうとわくわくする気持ちが、いつの間にかどうなるんだろうにすり替わっている。すごい。
 寂しさや不安感を埋めるものって数多あるはずなんだけど、一個のことにどっぷりハマって溺れてしまうのはなぜなんだろう。私も一度くらい植物に侵食される夜を体験してみたいと思うけど、もしかするとそのまま他の何もかもを捨ててしまったりするのかなぁと思うと少し怖い。でもそれがいい。
 あと単純に私の好みだけど高橋が好き。こういうキャラクターのアクの強さ、ツボです。


6、蒲公英の一輪挿し

 許されない恋に身を投じる男女の描写もさることながら、ふたりの関係を大きく左右した主人公と娘の会話に深く痺れた。女同士だか気づくこと、女同士だから理解できること、しかしその上には必ずしも「許し」が重なるわけではなく、同性であっても、血が繋がっていても、決定的に違う生き物だと突き付けられた気がした。これを思いつく深澤さんって一体何者?というのが私の素直な感想でした。
 ほんと良いの、このシーン。みんな読んだ方がいい。


7、蝉

 安易に共感という言葉を使いたくはないけれど、恋愛におけるほんの少しの痛みや、瞬間的で永久的な理解の温かさ。短い中にそれが詰まっているからすごい。
 片想いだって両想いだって、傷つく時はちゃんと傷つくし、幸せな時はちゃんと幸せで、それを繰り返していくうちにいつの間にかたった1人と添い遂げていたりするのかな、そうだったらいいなとも思う。あとになってもずっと覚えてる誰かとの会話って、たぶんそういうものたちの一部なんだろうなぁ。


8、見たことも聞いたこともないよ

 はじめにふたりの歳の差を感じさせておきながら、徐々に見えてくる対等な柔らかさのある会話。これはずるーい!と思ったのを覚えてる。どんなに年齢的なギャップがあったって、長く付き合うことで自然と縮まっていった距離がほどよく垣間見えてグッときちゃう。完全に歳の差萌え。
 あと個人的に旅野さんの小説はどれもきちんと登場人物に名前があって、そういう点も好き。なんにでもそうだけど、名付けって体力いるからさ……。


9、雨糸

 17歳の目から見た世界は確かにこんな風だったかもしれない、とドキッとした作品。恋愛、友情、羨望、嫉妬。感情のすべてがあの小さな箱庭に収まっていて、絶えず脈を打っているようなあの感じ。もう、そういうの堪らないんです!!!
 特に『ポニーテールの先は軽やかに揺れ、その上で陽が遊んだ。毛先まで彼女だった』の一文。こんなにも女の子の美しさと可愛らしさを表現できる言葉ってある?と思った。そしてそれを見てるのも同じ17歳だなんて、なんかもう本当に胸が痛い。好き。


10、秘密の夢

 1月からずっと連作で参加してくださってる七海さん。未読の方には是非最初から読んで欲しいけど、今回は私の1番好きなところを選びました。
 このお話が個人的に1番「蓮くんズルすぎ回」でした。だってもうそんなの誰が幸せになるんだ〜〜〜と思いつつも、なんとなく今までの彼の行動に納得がいったというか。いつも冷静でいる人ほど、本当は最も熱いものを抱えていると言いますか。突然そんな奥行きを見せて読者を撃ち抜いてきちゃうのが七海さんの作品のすごさだと思う。続きが楽しみです。


11、ずっと前から知っていました。

 人って思っている以上に些細なことでぐらついてしまうし、そういう自分を人には見せないように隠しながら生きてるんだと思う。
 朝起きると濡れていた枕、外に出る力がない自分。無意識の部分に狼狽えてしまう瞬間は、生活のどこかにひっそりと溶け込んでいる。そういう誰にでもあるけど、誰にも見せないようにしている瞬間を切り取ったこの作品が私は好き。でも本当に大事なのは、そうなってしまってもなお「次へ進むきっかけ」だけはちゃんと残ってる強さだなぁと思う。人に救われたっていいけど、自分に救われたっていいんだよねぇ。


12、あちらとこちら、夢のまた夢

 司名森さんの書くものにはいつも必ず「はっとする表現」がある。それは目新しさとか安易なオリジナリティではなく、「あ、確かにこう感じた瞬間が私にもあったな」としっくりくるような。『食べることにだけはやる気を見出せたから、その日も僕はずっと気になっていたお店に出向いた』の部分なんて、自分が無職時代に感じてた倦怠感と、言語化できない「やれることとやれないことの差」をまさに表現してるなって思った。
 それは『あちらに行かないで、ここに居て』と思う僕の気持ちにも言えることで、誰かを引き留めるということはおそらくとても視野が狭くなっていて、みっともなくて、でも必死だったなぁと思い出した。そういう思い出の切れ端をくれる鋭くも優しい作品。


13、異星人とペティナイフ

 自分の作品だと何を選んでも手前味噌にしかならなくて困ったんですが、適度な長さかつ気に入ってるものとしてこれを選びました。
 これを書いた時、私の中には兎にも角にも「”再生”が書きたい」という気持ちがありました。終わるってことはそう悪いことでもないはずなんだけど、直面している時は「そんなんクソくらえ」って思ってるものなんですよね。今苦しいんだから、あとのことなんて考えられない。
 でも人生はそこで終わりじゃないから、もう全部おしまいだって思っててもある日突然「大丈夫じゃん」って笑い飛ばせる瞬間が来る。それは夜の次は朝がとかそういうことではなく、もっと単純で、強かなものじゃないかな、とか考えていたのを思い出しました。


2022年1月のテーマ告知


12月のまとめでも書きましたが、せっかくなので再告知。

1月のテーマは『お元気ですか』です。

一緒に楽しめたら嬉しいです。

ご興味のある方はコメント欄、Twitterにてリプ・DMなどで教えて下さい*


書かれなかったあとがき


 はて、私ってどんな風にしゃべる人間だったっけ。

 長い休みが終わるとよく思う。会話の出だしはどうだっけ、さよならの時はなんて言ってたっけ。はて。思い出せん。

 それと同じで、最近めっきり小説以外の文章を書かなくなったもんだから、こういう場面でどう挨拶をしたら良いかわからない。せっかくの2021年をまとめた記事だというのに締まりがない。

 締まりがないついでに公開もギリギリで、今この挨拶を歳の最後の午後に書いているという体たらく。今年も相変わらずギリギリクイーンの名をほしいままにしてしまった。きっと来年もそうだろうと予感している。

 まぁ、それはそれとして、マガジンが一年を迎えました。

 正直に言うと、はじめた当初は「最初の三ヶ月、いや半年くらいは参加者は私ひとりかも」と思っていました。はじめるまで(たぶん)誰にも言わず、勢いだけで始めたマガジンでしたから、「こんなことをやってます」と知ってもらうまで時間がかかるだろうなぁと。

 ところがひとりではありませんでした。書きたいと言ってくれる人がいました。次も参加するよと言ってくれた人がいました。それから声をかけてくださる人が増えました。マガジンいいね、と言ってくださる人がいました。

 記事の収録数はむくむくと増えていきました。嬉しかった。わたしひとりではできなかったことです。絶対にできなかったことです。感謝しかありません。ありがとうございました。その思いで、ささやかではありますがこの記事を書きました。ギリギリでしたが笑

 今後月刊撚り糸がどうなっていくのか、特別決めていないし、私にもよくわかっていません。ですができるところまで、やっていこうと思います。お付き合い頂けたら嬉しいです。どうぞ宜しくお願い致します。

 それでは良いお年をお迎えください。




作品を閲覧していただき、ありがとうございました! サポートしていただいた分は活動費、もしくはチョコレート買います。