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自分の逃げ道を塞いでやいないかい




もしも明日の朝、急に「今日は仕事に行きたくない」と思ってしまったら、上司にどんな言い訳をするでしょう?

突然ですがシンキングタイムスタート。








テンテンテテン、テンテンテテンテン、テンテンテテン、テンテンテテンテン、テンテンテテン、テンテンテテンテン、テンテンテテン、テンテンテテンテン、テンテンテテン、テンテンテテンテン、テンテンテテン、テンテンテテンテン、テンテンテテン、テンテンテテンテン。









さて、そろそろ「テ」と「ン」がゲシュタルト崩壊してきた頃でしょうか?


言い訳はサラリーマンの数だけあると思いますが、わたしだったら「急な腹痛で…」って言うつもりです。月並みですね。

でも「お腹が痛い」って、実はすごく万人に受け入れられやすい言い訳じゃないかなって思うんです。だって人間生きていれば一度や二度、人によっては三度、四度と経験するどうすることもできない痛み。物理的にトイレから出られないというおまけつきの、実はとんでもないやろーじゃないですか。

自分が経験している痛みは、それが他人の痛みにスライドしても想像しやすい。想像がしやすいことは、すんなりと受け入れやすい。

だから腹痛の痛みをいい感じにリアリティのある表現で伝えられれば(ここはわたしの腕の見せどころ)、きっと上司も「…じゃあ有給申請しておくよ」って言ってくれるはず。

だけどこの「急な腹痛で…」っていう言い訳の常套句を使えない人物は、わたしはひとりだけ知っている。それがUさんだ。




Uさんはわたしの務める会社の同僚で、とてもさっぱりとした性格の人。誰にでも気さくに声をかけられるし、たとえ相手が上司でも物怖じせずズバズバと思ったことを言えるタイプ。初対面から「わぁ、友達多そうな人だなあ」と思ったくらいだった。

だから基本的にはとても気のいい人なんだけど、時々胸にぐさりとくることを言う。


上司「事務のAさん、今日は休みだって」
Uさん「え、どうかしたんですか」
上司「なんか急な腹痛だって」
Uさん「腹痛って、お腹痛いってこと?なんか子供みたいですね」


そう言ってUさんは忙しそうにPCと睨み合っていた。



確かにそのやりとりがあったのは年に一度の繁忙期。やってもやっても終わらない業務に猫の手も借りたいほどだったから、正直一人でも抜けるのは痛かった。

だけど腹痛で休みをとったAさんは「今日はダルいから~」なんて会社を休むタイプじゃなくって、むしろ有給を使った次の日はみんなにお茶菓子を配るほどの気遣い屋さん。きっと本当にどうしようもなかったんだろうなぁと想像はつくし、自分自身も以前牡蠣にあたって生死をさまよった(くらい辛かった)経験があるから、わたしは何も言えなかった。




なんて書き方をするとUさんを責めるみたいになってしまうけど、ここで話したかったのはそういうことじゃない。むしろ「なんか子供みたいですね」と言ったUさんの、今後のことがちょっぴり心配だったのだ。

だって、もしもそれから数時間後にUさんがマジもんの腹痛に襲われたら、Uさんは素直に「すみません、腹痛で…」と言えるだろうか。人のことを「なんか子供みたいですね」と言ってしまった手前、言い出しづらくなってしまわないだろうか。

未来のことはわからない。極端な話、この記事を公開した一分後にわたしが腹痛でのたうち回っている可能性だって充分にある。腹痛とはそういうたぐいのものだ。


ついつい口から漏れ出てしまった言葉でも、「やっぱ今のなし!」なんて撤回することはできない。言葉はひらひらと人から人へ飛び移って、風のように消えたと思っても巻き上がった砂は肌に残ってしまうから。

特に自分の口から出た言葉は鮮明で、他人が全く気にしていなくても自分だけはいてもたってもいられないくらい気になってしまったりする。そうやっているうちに腹痛が痛みを増して、誰にも打ち明けられずに取り返しのつかないような自体になってしまわないか心配だった。

わたしも医療的な知識はまったくないけど、テレビ番組や人づてに「もっと早く病院にかかっていれば…」なんてはじまりのエピソードを聞いたことのある人も多いだろう。




逃げ道はひとつでも多いほうがいい。

「お腹が痛い」と言えるか言えないかの小さなことだけでなく、たとえばひとつの人間関係に疲れたとき、他にも心を落ち着けられる居場所があったら救われる。一本筋の通ったポリシーを掲げられる人は格好いいけれど、道を反れることを悪としてしまったら長い人生は辛いことのほうが多くなってしまう。

だからどうか健やかに、気兼ねなく、でも人も自分も傷つけることなく、自分というものを通していけたらいいな。







ちなみにわざわざシンキングタイムまでとって考えてもらった「会社を休むための言い訳」、みなさんの答えをガン無視したわけではありません。

いざとなったときにわたしが使いたいので、そのうちこっそり教えてください。





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