わたし百景⑦ 最終バス
週に2回ほど、最終バスで帰宅する。
いつも乗った時は何人かお客さんがいて、
私が降りる時には運転手さん以外誰もいない。
運転手さんと私以外誰もいない空間は、
とても静かで、でもみえてくる景色は
キラキラしていて、まるで正反対のようだ。
景色はキラキラしていて、いまにも
人々の声が聞こえてきそうなのに、
車内は静かだ。
静かなのはどの時間帯でもそうではあるが、
希望、仕事の疲れ、日々の不満、嬉しかったこと、悲しかったこと…
人々の想いがどこか交錯している気がして、
どこか賑やかな気もする。
でも、運転手さん以外誰もいない車内は、
そんな賑やかささえもなく、
ほんとうに静かな空間だと思う。
この景色と中のギャップを感じることができるのは、
最終バスの特権であり、
最後のお客さんの特権でもある。
世界に引き込まれているうちに、
低く落ち着きのある声が、静寂を破る。
世界観を壊さないかのように。
最後まで目的地へ連れていってくれる運転手さん。
いつもありがとうございます。
ゆっくり休んでください。
そう願いながら
手短にお礼を伝え、バスをおりる。
目的地へ連れていってくれたお礼と、
最終バスの最後の客で、静かさを提供してくれたお礼。
そして、走り去って行くバスを見守り、
帰路に着く。
最終バスは私にとって、
少し特別なものになりつつある。
私は今週もまた
そのバスを求めて、いつものバス停に立つ。