総選挙、この「失われた30年」、自民党政治の是非を問う~論点は、アベノミクス、少子化と地方創生、政治不信を生んだ選挙制度~


衆議院議員総選挙が10月27日に投開票される。今回の総選挙は1870(明治23)年の議会開設による第1回総選挙から数えて50回目にあたる。
今回の総選挙は、この2年間に相次いで自民党を襲ったスキャンダルによる政治的混迷の打開策として実施される。2022(令和4)年7月、参議院議員選挙で遊説中の安倍晋三元首相が奈良県の大和西大寺で銃撃され亡くなった。この事件後、旧統一教会の政治介入が明るみに出て〝戦後の闇〟ともいえる自民党の暗部が暴き出された。追い打ちをかけるように同年11月、「しんぶん赤旗」日曜版が「派閥の政治資金パーティー大量不記載」をスクープし、神戸学院大学の上脇博之教授が調査に乗り出して刑事告発した。
今年1月、東京地検特捜部は自民党の国会議員1人と秘書を逮捕し、別の国会議員や派閥の会計責任者ら8人を政治資金規正法(虚偽記載)の罪で在宅起訴や略式起訴した。岸田文雄首相(当時)は派閥解消を宣言し、裏金問題関係議員の処分をした。しかし、国民の「政治不信」は収まらず、4月の3つの衆議院議員補欠選挙は2選挙区で候補者擁立すら出来ず全敗した。その後も内閣支持率は20%前後を低迷、不支持率は60%を超え、8月には首相退陣の表明に追い込まれた。
バブル崩壊から30年。この間、一時期を除き、ほぼ自民党が国政を担ってきた。しかし「失われた10年」が「20年」となり、「30年」になった。国際比較を見ると、名目GDP(USドル)は1994年の2位から4位になり、1人当たりの名目GDP(同)は3位から32位に後退、G7で最上位から最下位に転落した。とくに2012年に自民党が政権に返り咲いてからの凋落が著しい。
2012年に再登板した安部元首相は低迷する経済の活性策として「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という「三本の矢」を打ち出し、日本銀行による国債の大量買い入れやマイナス金利政策を進めた。しかし、経済成長率は「名目3%」に届かず、株価だけが急騰した。先進国の1人あたり実質賃金の推移を見ると、1991年から2019年にかけて、英国は1.48倍、米国は1.41倍、フランスとドイツは1.34倍に上昇しているのに対して、日本は1.05倍にとどまる。
今回の総選挙では与野党で次の3つの課題に大いに論議を深めて欲しい。一つ目は石破首相の新著「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)の中で書かれている「『アベノミクス』とは一体何だったのか、その功罪についてきちんと評価すべき時期が来たのではないでしょうか」である。
日本銀行の元政策委員会審議委員で野村総研の木内登英氏は「安倍政権を引き継いだ菅政権、岸田政権ともに、アベノミクスの明確な評価は避けてきた。一時的な役割を担うべき金融緩和、財政出動が、経常的な政策として長く実施され・・・過度な金融緩和、財政出動がもたらした問題については、しっかりと総括する必要がある」と指摘している。
2つ目は石破首相のテーマとも言える「地方創生」だ。石破首相は折に触れて少子化を「静かな有事」と表現している。9月10日に発表した総裁選の公約でも「もう一度、地方創生の原点に立ち返る」と決意を語った。「地方創生」では、地域経済活性化、少子化対策、東京一極集中是正という3つがポイントとなる。
3番目は「政治不信」だ。石破首相は裏金問題について、政治資金の透明性と罰則強化の必要性を再三強調してきた。また、旧統一教会の問題でも説明責任を果たしていくと述べている。石破首相は当選2回生の若いころから「政治とカネ」に取り組み、94年の政治改革では小選挙区比例代表並立制の導入の旗を振った。最近は見直しも含めて「中選挙区連記制」に言及している。小選挙区制が導入されて初めての選挙(1996年)から今回はちょうど10回目の節目でもある。なぜ「政治とカネ」にまつわる不祥事が繰り返されるのか、選挙制度にさかのぼって議論が必要だ。選挙制度審議会の設置を期待したい。

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