SAVE ME
背中を少し丸めて、エコバッグとケーキを抱えるわたしは怒っていた。
だからクリスマスなんて何もしなくていいって言ったのに。
娘は彼が迎えに来るから今日はご飯いらないし、多分泊まると思うからパパには上手く誤魔化してね!ってバレて叱られるのはワタシなのよ。ふざけんな!と言いたい気持ちを押し殺して「勝手になさい!」とだけ言って家を出た。
息子は結婚して初めてのクリスマス、嫁さんからしたらそんな日に夫の実家なんて行きたくないでしょうに。
なのにいつものようにクリスマスは家でしよう、息子夫婦も来るだろうとケーキとチキンを予約したぞと我が亭主。少しは考えなさいよ!ふざけんな!と言いたい気持ちを押し殺して「わかりました」とだけ言った。
予約した店にケーキを受け取りに行くと予想よりはるかに大きいケーキに目を見張っていると店員さんが気の毒そうに「持てます?」と既にパンパンのエコバッグを持つわたしを見て声を掛けてくれた。「大丈夫…かな」と言うわたしに奥から「落としたら大変だ、駅まで送りますよ」とオーナーが出てきた。
「いえいえお気遣いなく、男性にはモテませんが荷物は持てますから…アハハ」と笑って誤魔化してみたが「いつもご贔屓してもらってるお返しですよ!ケーキは作り終えたし駅までずいぶん歩くでしょう?店は彼女が居るので。さ、行きましょう」と歩きだしていく
家から電車で2駅のこの店は、家族の記念日に欠かさずケーキをお願いしている。今は私を送ると言う息子さんが店を継いでオーナーとなっている。家から駅は歩いて5分もかからないが、駅から店は10分は歩く。確かに荷物、しかもケーキの箱を持つには有難い申し出だったのでお願いすることにした。シートに腰をおろすとスマホが鳴る、我が亭主殿からだ
悪いな、ちょっと飲みに行くことになった。ケーキは子供たちと…そこまで聞いて通話を切った。
心配そうにオーナーがわたしを見る。
アハハ、こんなの慣れっこです。張り切って準備するといつもこうなんですよ、みんな自分勝手ばかり。あ、ケーキはご近所にお裾分けしていただきますね。ここの美味しいけどちょっと遠いってお隣が話してたからきっと喜びます。話ながら涙声になっていった。いっつもこんなだ…家族にとってわたしってなんなんだろう…
駅に着き、お礼を言って降りるわたしにオーナーが
奥さん、今日はケーキお裾分けしたらここの並木のイルミネーション観ませんか?綺麗ですよ。家族のためにいつも頑張ってるんだからたまにはいいでしょう?7時に待ってますから!絶対ですよ!
えーっと…何をおっしゃってます?頭がこんがらがってきた。家族が相手にしないオバサンからかってる?電車に揺られて考えてるうちに腹が立ってきた。
家に着いてケーキを切り分けようと箱を開けるとホールではなく色んな種類のショートケーキが丸い形になっている、へぇーこれなら好きなのを選べていいわねと見つめていると怒りは収まったが、イルミネーションどうしよう…。着ていく服もないしスルーしようか…でもそうしたらお店に行きにくいななどと考えてるうちに時間が近づいてきた。
イルミネーション観るだけ、それだけと思いながら結局15分遅れて駅に着いた…ら
あ、来た来た!ママ!こっち!
娘が手を振るのが見えた。隣でオーナーが笑って一緒に手を振っている。
驚いて娘のところに行くと
我が亭主殿が「遅かったねぇ、予約の時間おしてるから急ごう」
ちょっと待ってよ、どういうことなの?小走りになりながら夫に聞いても「良いから後で」というばかり。
レストランに着くと息子夫婦が待っていた。
作戦成功だね!イルミネーション綺麗でしょ?窓際の席取るの大変だったんだから。ね?とオーナーと笑い合う娘
彼ってオーナーだったのか…。
全部パパのアイデアなんだよ!作戦に乗ってくれなきゃどうしようかと思ってた。
その時はプランB発令だったなと夫がワインを飲みながら笑って言う。
息子夫婦に娘と彼、賑やかに食事をして煌びやかなイルミネーションの道を歩くと気持ちも華やいできた。
きれいねぇ…こんなの何年ぶりかしら。腹が立ったり泣いたり、忙しい1日だった。
息子夫婦と娘と駅で別れて、夫に熱燗でも飲むかと赤提灯に誘われた。
フフ、クリスマスとかサプライズとか身に過ぎたことしたら肩凝ったよ。
若いときは平気でやってたのにね。
熱燗が心地よく喉を通る。
さて、終電前に帰りますか!そうだ忘れちゃならないな、ほい、プレゼント。
娘と選んだというセーターとスカート。
今度はこれ着て映画でも行きましょう
並木道を歩きながら久しぶりに手を繋いだら不満とか愚痴も今宵だけはどこかに行ったみたいだ。
サンタクロースって案外近くに居るのね。と我が亭主のお腹をポンと叩いた。
★ギリギリ間に合ったかしら?
どこにでもいる主婦目線で作ってみました。