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ひろがるスカイをキラキラ反射するフレッシュな背脂ラーメンはデリシャスでわんだふるでした!

さすがに背脂ラーメンにトロピカル要素とかヒーリング要素とかは見い出せなかったです。

前回までのまとめ

新宿三丁目で開催されている『わんだふるぷりきゅあ!』のポップアップショップを見に行こう、とささづかまとめに提案したたかやまさん。しかし集合場所はなぜか明治神宮外苑。散歩をしていたらお昼になったので、国立競技場の空の杜から見えたラーメン屋さんに向かうことにしました。

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本文です

小雨が降り出す中、仙寿院の交差点を足早に渡り、外苑西通りを少し北に向かう。ホープ軒はちょうどお昼ということもあって、店先に置かれた券売機に数人の列ができている。

たかやまさん
「私はチャーシューメン大盛りにするけど、さーさちゃんはどうする?」

ささづかまとめ
「普通のラーメンにします」

たかやまさん
「ん」

クレジットカード専用の券売機でたかやまさんがわたしの分もまとめて注文してくれる。呼び出し番号の書かれたレシートを持っていると店員のおじさまが声をかけてきて、2階にどうぞ、と案内してくれる。窮屈な階段を上ると、細長いスペースの両脇にカウンターがある。厨房に面したほうと外苑西通りに面したほう。通りに面したほうにふたりで座る。

席に座ると店員のお兄さんが来る。大盛りチャーシューメンとラーメンですね、と口頭で確認される。はい! とたかやまさんは元気に返事をする。わたしはコップに卓上のポットに入っているお茶を注ぐ。黄色いお茶だ。

たかやまさん
「この薄いジャスミン茶でさえずーっと提供してると名物になる。継続するってすごい」

たかやまさんがわたしからお茶を受けとりながら言う。

ささづかまとめ
「これも名物なんですね」

たかやまさん
「でも正直言えば普通の水でいい。水道水で」

ささづかまとめ
「ですね」


たかやまさん
「ラーメン、一回外で食べてみたい」

薄汚れた窓越しに国立競技場を眺めながら、たかやまさんが言った。

ささづかまとめ
「屋台ってことですか?」

たかやまさん
「そういうんじゃなくて。店先とかでもなくてね」

ささづかまとめ
「ええっと、つまり、キャンプごはんみたいな?」

たかやまさん
「ううん、お店のラーメン。お店のラーメンを外で食べたい。土手とか河川敷とかで

ささづかまとめ
「はあ、ちょっとシチュエーションが想像しにくいですね」

たかやまさん
「そういうお店があったら流行ると思わない? みんなで土手で並んでラーメンを食べる」

ささづかまとめ
「でも、どんぶりが熱いですよね」

たかやまさん
「別にテーブルはあってもいい」

ささづかまとめ
「京都の鴨川の等間隔みたいに座って食べるのかなって思いました」

たかやまさん
神宮球場のデッキシートみたいな感じでいいよ。カウンター席」

ささづかまとめ
「土手にカウンター席ですかあ」

たかやまさんはうなずいた。

たかやまさん
「川流れてるの見ながら食べたい。今わたしたちの目の前にも渋谷川が流れてるはずなんだけど」

ささづかまとめ
「暗渠になっちゃってますね」

たかやまさん
「ここは鎌倉古道も通ってたんだよ。街道沿いにラーメン屋さんを作って、席を川べりに用意してさ。旅人たちには受けそうだよね。いかにも写真映えしそうだし」

ささづかまとめ
時代がすごいことになってますけど

たかやまさん
「川も古道ももうなくなってて、お寺の下にトンネルまで掘っちゃってるのに、今さら木切るなって言うのも変」

ささづかまとめ
「なにがなんでもその話に持っていきますね」

たかやまさん
「だってそういう回だから…」

ささづかまとめ
「だからちがうんですって」


やがてラーメンが運ばれてきた。チャーシューとメンマともやし。背脂の浮いたスープ。おいしそうだ。

たかやまさん
「はあ、いい。余計なものが入ってない。お肉と麺とスープが食べたいんだから。ふふふ…」

たかやまさんがわたしに言っているのか微妙な音量のセリフを吐きながら割り箸を割る。

たかやまさん
「さーさちゃん、一般的にはネギを入れたほうがおいしいと言われてるよ。入れ放題だから」

カウンターの上に小口切りにしたネギが盛られたザルが置かれている。

ささづかまとめ
「たかやまさんは入れないんですか?」

たかやまさん
「うん、入れない。じゃ、いただきます」

たかやまさんはわたしの質問に間髪入れずに答えて両手を合わせ、箸でチャーシューをつかんでスープにくぐらせ、すぐに引き上げて口に運ぶ。一枚丸ごと小さな口に半ば無理やり押しこむ。たかやまさんはほふぅ、と息を吐きながらそれを咀嚼し、箸先はすでに2枚目のチャーシューを折り畳むようにしてつかんでいる。なんだかすごい画だな、と思う。

レンゲでスープを一口飲んでみる。熱々だ。見た目より脂っぽさは感じない。複合的にいろんな味を感じるが、どれも控えめで上品な味だ。構成要素のどれかが突出するとイロモノになってしまうのだろう。長くやっているお店の味だ。背脂のまろやかな味が、わたしに新潟を旅行したときの記憶を思い出させる。

ネギをたっぷりと投入して、スープに隠れていた麺をすすろうとする。うまくすすれないが(麺をすするのがきわめて下手)、もちもちとして食べ応えがある。ネギの浮かんだスープを口に含むと、スープのある意味ぼんやりした平凡な味が引き締まっている。このラーメンにネギは必要な要素らしい。

となりのたかやまさんを見ると、7枚くらいあったはずのチャーシューを食べ終わっていて、麺にとりかかっている。なにも気にせず大きな音を立てて大量の麺をすする。たかやまさんは食事する様子がいつも豪快で、ついつい見つめてしまう。

わたしはしっかりとした食感のチャーシューをかみしめ、具とともに麺を食べ、ある程度までスープも飲んだ。まだ肌寒い春の雨に冷やされていた身体はすっかり温まり、髪の生え際に汗をかいていた。いかにもエネルギーを摂取したというこの感じがラーメンのよさなのかも、と思う。でも、ひとりでお店に入る気はなかなか起きない。こうやってたかやまさんが注文してくれてとなりの席で無我夢中で食べてくれると、だいぶ気楽だ。

たかやまさんはスープも残さず胃に収め、ジャスミン茶を3杯飲んで、満足そうだ。

ささづかまとめ
「おいしかったです」

たかやまさん
「いつも負けた試合の後に悲しい気持ちで食べてたから誤解してたかもしれない。なかなかよかった」

球場外でもやけ食いしてるのかと思ったが、たかやまさんには必要なことなのだろう。


ホープ軒の目の前にある明治公園前バス停から早大正門行きの都営バスに乗る。普段なら新宿三丁目くらいまでなら歩いて向かうところだが、小雨が降り続いているし、今日は二人とも傘を忘れてしまった。

バスは東京体育館の前で左に曲がって千駄ケ谷の駅前へ。駅前から東に向かうと見せかけてループ状の道路を下りながら反転し、再び外苑西通りに戻って北上する。新宿御苑の東側の緩やかな坂を上って、わたしの印象に強く残っている四谷四丁目の交差点を右折する。あるときこの交差点を自転車で四ツ谷駅方面から新宿駅方面に直進しようとして、自動車専用の新宿御苑トンネルに勢いよく入りかけたことがある。あのときはだいぶ、ひやっとした。

四谷三丁目でバスを下りる。バスはこの後防衛省の西を走って河田町方面に折れ、夏目坂経由で早稲田大学に向かう。外苑西通りが計画通りに整備されていればそこを走りたいのにしかたないなあ、という不満が経路から感じとれる。

妙に外国人客がたくさん乗っている丸の内線に乗り換えて、新宿三丁目で下りる。今日の本来の目的地である『わんだふるぷりきゅあ!』のポップアップショップが開催されている新宿マルイアネックスへ。雨は止んできていた。


キュアワンダフル(左から2番目)がたかやまさんの推しキャラ

開催期間が終わりに近づいているので人気(ひとけ)は少なく、わたしたちのほかには一眼レフでキャラクターのスタンディを撮っているお兄さんがいるくらいで、グッズも売り切れているものが多かったが、たかやまさんはあまり気にしていないようだ。自分がもはやプリキュアの対象年齢ではないことを受け入れているらしい。

でも記念にと、アクリルでできたバッジを買う。ブラインド商品で「ご購入はレジで店員にお申し付けください」と書かれている。

ささづかまとめ
「もうサーチ行為は完全にできなくなってるんですね」

たかやまさん
「うん。最近はだいたいどこもこんな感じ」

数百円のグッズを買う客にもエポスカードの入会案内をしなければならないマルイの店員さんは大変だなと思いながら、丁重に断っているたかやまさんの後ろ姿を遠くから眺めた。

そのあとは1階のゴジラストアで、ふたりしてちびギドラのソフビに心を奪われたり、外に出て追分だんごの七味団子を食べたり、伊勢丹の地下を冷やかしたり、紀伊國屋書店で新刊本のフロアを眺めたりして、気温が上がって少し生ぬるい空気の新宿を歩いた。でもこのへんはわたしたちにとって日常なので、割愛。

わたしの部屋に戻って、たかやまさんがいそいそと開封したアクリルバッジはキュアフレンディだった。たかやまさんは早速お気に入りのポシェットにつけていた。たかやまさんのただでさえドリーミーな見た目のポシェットの女児の持ち物化が進行したが、まあ、いいか。


(おわり)

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