茶色い味噌味のおつゆおいしい。わたしも茶色いお肉おいしいです。もうほんとにやめなさいって。
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浜名湖の湖面を眺めながら、浜名湖と浜松の市街地はだいぶ離れているんだな、と思う。三島と沼津の倍くらい離れている。
わたしの頭の中の街のイメージと実際がずれていることはよくある。中心市街と有名観光地の距離がすごく離れているのは特にあるあるだし、他にも気候や雰囲気、規模などがわたしの思い込みと乖離していたことは何度もある。
そのたびに同行するたかやまさんやいちがやさんに迷惑をかけるのだが、内心では「そうそう、これこれ。こうでなくちゃ」と思っている。
全てが想定内で収まって成功する旅行もあるが、わたしの勝手な期待を上回ったり下回ったりされてこそ、旅行に出てきた甲斐があるのだ、と思わなくもない。
というようなことをぼんやり考えながら、いつか浜松近郊をのんびり旅行してみたいものだ、天浜線も遠鉄電車も乗ったことないし、と思う。思いながら、うとうとする。
聞き慣れないチャイムと、車内の乗客たちが支度をする音で目が覚めた。後ろの席を見るといちがやさんがたかやまさんの出したゴミをまとめているところだった。
名古屋、8時8分着。ホーム上は修学旅行に出る中学生であふれている。みんな女の子なので、女子校なのかもしれない。たかやまさんは大勢の女子中学生たちが目に入らないかのごとく、きしめんのお店まで直行する。
たかやまさんはみそ味の麺2倍、わたしは牛肉入り、いちがやさんは普通のきしめんの食券を買った。
店内を奥まで進むとカウンターがある。ごった返したホーム上とは異なって、客はわたしたち以外に3人しかいなかった。
たかやまさん
「きしめんって、きしめんだけ?」
たかやまさんが代表して3人分の食券を店員のおばちゃんに渡した後、ぽつりと言った。いちがやさんが頼んだ「きしめん」とだけ書かれた食券が気になったらしい。
いちがやさん
「かけうどんのきしめん版だよ」
たかやまさん
「私食べたことない」
ささづかまとめ
「わたしも麺類はついつい具入りを頼んでしまいますね」
たかやまさん
「うん、私もそう。いちがやさんって通みたい」
いちがやさん
「別に通じゃないよ。プレーン味が食べたいだけで」
たかやまさん
「私知らないラーメン屋さんでもいきなりチャーシューメン食べたい」
いちがやさん
「あー、たかやまさんはそうだよね」
ささづかまとめ
「普通のメニュー頼んでるの見たことないです」
たかやまさん
「なんかもったいない気がしてできない」
やがて提供されたきしめんを3人で啜る。
個人的には少し出汁が効いていないかな、と思わなくもなかったが、この少し物足りない味が、すんなり食べられる感じで逆にいいのかな、とも感じられた。
たかやまさんは顔にうっすらと汗をかきながら猛然と大量の麺を啜り、つゆまで飲み干した。わたしといちがやさんが一人前を食べ終わるよりも早く食べ終え、冷水機との間を2往復しながら一生懸命水を飲んでいる。たかやまさんのとなりに立っていたおじさんが珍しいものを見るような目でたかやまさんのことを一瞥していた。
もっとも、わたしもいちがやさんも慣れている。たかやまさんの食欲にも、どうしたってたかやまさんが目立ってしまうことにも。
お店を出ると大勢いた修学旅行生は姿を消していた。
お弁当ときしめんで膨らんだお腹を抱えて新幹線ホームから下りて、在来線の通路を歩き、近鉄の改札まで下りる。近鉄名古屋駅は地下にある。
券売機で四日市までの指定席券を買い、ホーム上のベンチで列車を待つ。
たかやまさん
「はあ。きしめん、やっぱりすごくよかった」
ささづかまとめ
「けっこうあっさり味に感じました」
たかやまさん
「あれは気遣いの味。これから電車乗ったり、移動したりする人の負担にならないように。たぶん」
ささづかまとめ
「そうかもしれませんね」
いちがやさん
「あれくらいが普通なんじゃないかなあ。さーさちゃんも普段からいろんなものにマキシマムとかかけすぎなんだと思うよ」
バレていた。しかし、お弁当ときしめんで胃の中でずっしりとしている。朝の8時台にこんなにお腹いっぱいの人が世の中にどれくらいいるだろうか。わたしはベンチにもたれながら、地下駅の生ぬるい空気をいささか苦しく吸い込んだ。
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