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No.4 稲葉智子さん(3331 Arts Chiyoda アーツプロジェクト事業部 広報 セクションチーフ )

私はこれまでワークショップや展覧会などで、何度も「3331 Arts Chiyoda」に足を運んできましたが、行く度に変化するその自由で創造的な空間にいつも刺激を受け、かつ居心地の良さを感じています。稲葉さんはそんな素敵な「3331 Arts Chiyoda」の広報セクションチーフをされていますが、稲葉さんご自身が最初にアートの道に進まれたのはいつになりますか?

◇高校卒業後、アメリカに留学していたんです。文化人類学を学びたいと思って、アメリカの短大に入って、そこから4年生の大学に転入しようと思っていました。そのときに美術館やギャラリーに通うようになって、そこで初めてアートに触れたわけではないのですが、「アート=絵」みたいに思っていた地方出身の18才が、アメリカで「コンセプチャルアート」とか「現代アート」に初めて触れて、衝撃を受けたんです!

「アート」というのは、絵が上手い下手というだけの世界ではないということ、社会に対して何か訴えかけたいものが自分の中にあるかないかなんだということを、そこで初めて知って、「おもしろい!わたしはこれをやりたい!」と思いました。それで、ちゃんと勉強するためにイギリスに行きました。


◆そのときすでに、稲葉さんの中に社会に訴えかけたいものがあったのですか?

◇二十歳そこらの自分に何かあったかと言われると、社会に一石を投じたいと思うほどの何かはなかったと思います。笑 
イギリスのセントラル・セント・マーチンズという芸術大学に入って、1年目はまずデザイン、テキスタイル、ファインアートなど、全部を学ぶんですね。それで2年目で「では、どれを専攻しますか?」となるのですが、そのときに教授から「アートは社会に対して問いかけをする。デザインは社会からの問いかけに応えることなんだけど、君はどっちがしたいの?」と言われて、やっぱり、その時も自分は「アート」がしたい!と強く思い、ファインアート科に進みました。


◆ファインアート科ではどんな作品を作られていたのですか?

◇わたしは「パフォーマンスアート」というものを学んでいました。「パフォーマンスアート」というのは、自分の行為とか身体、相手との関係性や時間を作品とするんですね。モノというより、「ことをつくる」と言うんですかね。

例えば、当時制作した作品では公園の広場や駅などの公共の場所にある背もたれのないベンチに、背中に椅子の背もたれをプリントしたTシャツを着て座るんです。そうすると、自分がそのベンチの背もたれみたいになるので、そこで、「ベンチの背もたれになっているのですけど、一瞬もたれてみませんか?」と声をかけて、見知らぬ人にもたれかかってもらいました。大抵の人は興味を持ってもたれかかってくれて、その人たちと背中合わせで会話をしたりしました。その様子を動画や写真に撮ったり、会話を文章化したものを作品として発表しました。

私の作品の意図としては、【普通に生活している中で、他人の存在は、目にしたり、すれ違ったりはしているけれど、意識することは少ないですよね。でも、その行為を通して全く知らない人と背中と背中を合わせることで、その人の重さや温度を感じることで、「他者の存在」をすごく感じることができるんです。いつもすれ違っているだけの他人、存在を意識していないような存在がすごくリアルに迫ってくる。】そのためのアクションとして行ったパフォーマンスです。


◆今のお仕事もそうですが、学生のころから、稲葉さんは、自分が絵を描くとか、この材料からこれを作るというより、人との交流の中で生まれる何かを作られたいのですね!?

◇そうですね。学生時代に作っていた作品も、自分が何かをはたらきかけることによって生じる会話やその場にいる人たちとの一時的な関係、ストーリーが重要だったので、自分ひとりで完結するという作品作りは自分のやりたいことではなかったですね。
なので、今も3331で、展覧会やワークショップを企画したりすることが、すごく大変ですけど、本当に楽しいな!好きだな!と思いますね。

2021_疫病たいさ〜ん展2

  (写真) アーツ千代田 3331 特別企画展      
「疫病・たいさ〜ん!江戸の人々は病いとどう向き合ったか」
麦殿大明神呼び出しプロジェクト制作風景
(コーディネーター)


◆3331はまさに稲葉さんにピッタリな場所だったのですね!!

日常の中で文化的な活動に触れたり、携わったり、それがアーティストやアートというキーワードだけでなく、年齢や興味・関心も幅広い人が集まって一緒に何かを作れる場は必要だなと思っていたので、3331はまさにそういう場所でした。
3331の採用の際に、履歴書の志望動機に「ギャラリーでもなく美術館でもない、オープンで、誰でもアクセスしやすい、創作や活動を軸にした拠点。そういう空間がこれから必要になってくると信じています。」みたいなことを書いたのですが、それは今も変わらない思いですね。

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(写真)夏の3331こども芸術学校 presents     
「みる・描く・あそぶ!サマーアートラボ」会場風景
(企画、コーディネーター) 

          

◆これから作ってみたいこと、やってみたいことはありますか?

◇子どもたちのための、家でもない、学校でもない場所、ななめの関係を楽しめるクリエイティブな場所を小規模でいいからやってみたいという願望があります。
今も3331でイベントやワークショップに来てくれる子どもたちと関わることはできているのですが、日常的なそういう場所を将来的に作れたらいいなと思っています。


◆子どもたちの日常に、稲葉さんが学んでいらした「パフォーマンスアート」が組み込まれたら面白いですね!!

◇子どもがみんな集団生活が好きなわけではないじゃないですか。放課後は静かにゆっくり過ごしたい子もいるだろうし、みんなでいっしょにこれをやろう!ではなくて、自分がやりたいことをじっくりやりたい子だっていると思うのですよね。そういう子を見守ったり、サポートしたり、時には一緒にやってみたり、そういうことができる空間を作れたらいいなと思っています。アーティストのスタジオと子どもたちの居場所が共存しているような。子どもたちがそれぞれの芽を大切にしながら過ごせる、そういう環境を生活の中につくりたいと考えています。

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(写真)夏の3331こども芸術学校 presents     
「みる・描く・あそぶ!サマーアートラボ」会場風景
(企画、コーディネーター)         


◆稲葉さんが学んできた「パフォーマンスアート」と、稲葉さんの人生が重なり合ってきた感じですね。

◇そうですね。3331に勤め始めたときは独身で、そこから結婚して、子どもが生まれてということで、社会との関わりも変わったし、視点も変わってきて、自分が学んできたこと、やってきたこと、考えていることが、これからの子どもたちの場づくりに活かせたらなと思っています。

◆稲葉さんの「パフォーマンスアート」がこれからの日本の子どもたちの想像力や創造力を育てる礎になっていくことを期待していますし、わたしも超微力ながらお手伝いしたい!と思いました。
ありがとうございました。

2020サマーアートラボ

(写真)夏の3331こども芸術学校 presents     
「みる・描く・あそぶ!サマーアートラボ」会場風景
(企画、コーディネーター)          

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