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一番星が考える正しい冷凍まぐろの楽しみ方:素材編
10年以上セリ人として冷凍まぐろに携わって来てたどり着いた答え
それは冷凍マグロの味を構成する3要素は
素材40%
解凍方法30%
食べ方30%
今日は40%を構成する素材の話をしていきたい。
たかが40%、されど40%。
もっとも重要な要素である。
そして一番の醍醐味であり面白い部分でもある。
持論から述べよう。
魚種の違いもあるが、それ以上にまぐろは1匹1匹全く違った特徴をもつ。同じまぐろには二度と出会うことのない一期一会の世界観。それを理解した上で自分の好みのまぐろを探し出すこと。これこそ、まぐろの最大の魅力である。
私が就職して間もない頃、当時の部長がこう話すのを聞いたことがある。「きはだが一番うめえよ。」スーパーで売られる一番安いまぐろのイメージしかなかった私は冗談かと思ったが、その言葉は衝撃的で鮮烈に記憶に残った。余談だが、その部長はバブルの頃いわゆる全盛期(マグロの上場数が今の4倍あった)に、みなみまぐろと本まぐろのセリをしていた人物で、社内でも伝説的な存在であった。それから月日が流れ、私は本まぐろのセリを担当するようになり、ある程度美味しいまぐろを食べてきたつもりでいたある時、宮崎県は油津で水揚げされた全身に脂が差したきはだまぐろを食べる機会があった。全身に衝撃が走った。水っぽさをまるで感じさせないモチモチとした食感。非常に香り高く、上品でフルーツを連想させるような質の良い脂。こんなに美味しいものが存在したのかと戸惑うと同時に、当時の部長の言葉を思い出したのである。どこかで本まぐろが一番美味しいと思っていた。本まぐろへの色眼鏡を外して純粋にまぐろを見る目を養おうとその時に思ったものである。
何まぐろが一番美味しいなんて無いのである。
それぞれの良さがある。
その良さを理解し、嗜むことが大事なのである。
そして自分の好みを見つける。しかしそのまぐろには二度と出会えない。
はかない。。。
なんて日本人的な情緒であろう。
では、まぐろを分類しながら見ていこう。
魚種
皆さんは何まぐろが好きですか?
「やっぱり本まぐろじゃないの?」
「そもそも、まぐろに種類なんかあるの?」
といったご意見が多いでしょうか。
静岡の人はみなみまぐろですかね。宮城の人はめばちが好きなのかな?
恥ずかしながら私も就職してまぐろを扱うまで、まぐろに種類があると知らなかった。
まぐろには一般的なものとして
・本まぐろ
私の専門分野。4種中、最大かつ最も味が濃厚な反面、細胞内の水分が多く酸味と独特のクセをもつ。脱水すればその味の濃さが際立つ。実にイジリ甲斐のあるまぐろ。脂の乗ったものは赤身にも脂が差す。特に高緯度の低温水域で獲れたものは身が締まり、赤身の美味しさは悶絶するほどうまい。酢飯や海苔との相性が抜群。海苔とは本まぐろのために存在するのではないかと勘違いさせてくれる。手巻き寿司がオススメ。
・みなみまぐろ(=いんどまぐろ)
腹側の皮目が真っ白なのが特徴。南半球で漁獲される。細胞内の水分量は少なく赤身は身の締まった物が多い。トロはフルーティで甘みの強い脂が特徴で濃厚かつ上品。鮮やかで目の覚めるようなルビーレッド。トロと赤身の境界がはっきりしているのも特徴。オールマイティでトロは刺身でも酢飯と丼にしても良い。赤身は刺身がオススメ。
・めばちまぐろ
関東では大衆向けまぐろとして知られ、いわゆるスーパーで見かける赤身である。細胞内の水分は多いが低水温帯の漁場で漁獲されたものは身が締まり、脂も乗って美味しい。特に秋口に塩釜などの近海で獲れるものは脂も乗り味も濃厚で美味。トロでもあっさりしているので刺身でバクバク食べられる。無論、刺身がオススメ。
・きはだまぐろ
こちらは関西地方の大衆まぐろで有名。もともと細胞内の水分は少なく身がもっちりしている。時期と漁場により、脂が乗るが、トロと赤身の区別がつかず全身に脂が回るのが最大の特徴。市場のプロ達はこぞってキハダが好きと言う。私も好き。冷凍だとアフリカ南部ナミビア沖、生鮮だと三重、千葉沖、特に宮崎沖で獲れるものは絶品。香り高く上品であっさりしてるので、朝から無限に刺身で食べられる。
の4種類ある。
厳密に言えば本まぐろ(クロマグロ)にはタイヘイヨウクロマグロとタイセイヨウクロマグロの2種類、生物学上分かれるが今回その説明は割愛する。
それぞれが特徴をもつ。
ここで注目したいのは、細胞内の水分量(完全に自論なので間違ってたらごめんなさい笑)。本まぐろとめばちまぐろは多め。みなみまぐろときはだまぐろは少なめ。水分が多いと水っぽなり、少ないと身が締まる。生物学的に元々持っている性質なのだろう。
豊洲移転前はまぐろを選別するのに”切り替えし”というものをまぐろに作っていた。冷凍まぐろの尻尾の方をほんの少しだけ解かしてそれを包丁で切り返す。もちろんまだ凍っているため硬い。脂の乗ったまぐろはまだマシだが、”ガリ”という全く脂のないまぐろがいて、それはそれは石のようである。その切り返しを作る専門のおじさんがいたのである。私が若かりし頃、彼らがよく言っていたのが「同じガリでもインド(みなみ)とキハダは特に硬え。」その時はよく解らなかったが、思い返すと水分量との因果関係であったと理解している。身の締まったまぐろは硬いのだ。
↑切り返しの一例
以上のように魚種によって特徴が違う。その特徴を知ることはまぐろを知る近道かもしれない。大事なことは魚種に序列を付けずに全てのまぐろを愛することである。
脂
市場において、まぐろの値段は 脂×鮮度 で決まる。
想像はつくと思うが、脂の乗った方が値段が高いのである。
先ほど触れたガリという概念。体脂肪率ほぼ0%。
このガリが世界で水揚げされるまぐろ類の90%ぐらいを占めるだろうか。
それ故、一般的には赤身が多いと認識されている。
しかし、トロと赤身とはただの部位の名称である。
実は1匹のまぐろから赤身は30%しか取れない。
ほとんどはトロなのであるが、そこに本来あるべきはずの脂が全くない状態をガリと呼ぶ。
これが90%を占めるとなるとトロは貴重と言える。
しかし、
脂が乗っている≠美味しい
なところが、まぐろの面白さである。
脂にも質の違いがある。
まぐろに限らず、魚の質は漁場により違う。
漁場のエサと水温。
低水温の水域の方が脂は乗りやすい。
やはりまぐろの旬は冬場なのである。
ただし例外として、産卵前の初夏はエサを大量に食べるため脂が乗る。
そして脂の質、つまり旨味に大きく影響するのがエサ。
何を食べてきたかが重要である。
まぐろの場合、イカや甲殻類が良質で甘みのある豊潤な脂を作り出す。
そうしたエサが豊富にいる漁場が好漁場と言える。
これらのことから、青魚をエサとする養殖まぐろとイカや甲殻類をエサとする天然まぐろの味に違いが生じる。
ぜひ天然にこだわって食べていただきたい。
鮮度
市場において、まぐろの値段は 脂×鮮度 で決まる。
特に東京では鮮度感が重視される傾向にある。
解凍編でも述べたが、
鮮度が良い≠美味しい
ではあるが、大切なのは高鮮度を保つための努力をすること。
まぐろは漁において、弱り始めた瞬間から鮮度が劣化していく。
その瞬間から体温は上がり始め、自らの血や内臓の温度により肉の質を悪くしていく。
身は次第に黒ずみ水分を多く含み、いずれバサバサに弱く崩れる。これを我々は”ヤケ”と呼ぶ。鮮度落ちの最終地点である。
これを防ぐため、漁師たちは死に物狂いで血抜き、神経抜きなどを行う。
生産現場は時間との闘い。迅速な処理が必要なのである。
↑写真はモロッコ定置網、生産現場で血抜きをしている様子。最前で血抜きをしているのが私であるが、200kgを超える本まぐろを相手にまさに死闘であった。尻尾で叩かれようものなら、ブルーベリー色のアザができ時には骨折することもあるそうだ。多い時には1日延々と250匹、無心で血抜きをしたこともあった。辛かったが良き思い出である。このような生産現場に立ち会えたからこそ、生命の尊さを肌で感じられ、資源を大切にしなければいけないと心から思うことができたのである。そのためにも美味しく頂くということが大切なのである。
少し話は逸れたが、生産現場で鮮度を保つのに命を懸ける人たちがいて初めて我々は新鮮なまぐろを享受できるのである。