走れ!初マラソン★20120603
いよいよ迎えた初マラソン大会当日。
昨晩は眠れそうにないと思っていたが、案外眠れたようだ。
支度をし、会場に向かう。
天気は晴れ。前日の予報では雨だったが、変わったようだ。そして暑くなるらしい。どうやら厳しい戦いになりそうだ。
会場に着き、集合時間になったのでスタート地点に整列する。
細かいブロック分けはなく、速い人が前、遅い人は後ろといった具合に各々なんとなく並ぶ。私は当然一番後ろの方だ。
スタートの合図を待っている間、実際には短い時間なのだろうが、今はとても長く感じる。
そして9時30分、ついにスタート!
荒川河川敷に用意されたマラソンゲートをくぐり、走り出す。
私の、マラソンランナーになるための闘いが始まった。
今大会、制限時間は6時間。
そして私の今回の最低限の目標は完走。
しかし私にはもっと高い目標がある。
それは「5時間以内でのゴール」である。
これまでの練習で、おそらく6時間は切れる自信はある。
ただ、できるとわかっていることをやったところで、あまりうれしさ、おもしろさはない。難しいと思われることに挑戦し、それを達成するところに意味があるのだ。
スタートして2時間15分経過。
あっという間に中間点、21キロ地点を通過。
ここまではなんとか順調。しかしだんだん暑さが気になってくる。梅雨入り前の東京。その暑さは真夏並みだ。
給水所に着くたびにその場は大混雑。水が飲めないのではないかと心配になる。しかし大丈夫、私には秘密兵器がある。それはウエストポーチに忍ばせた500mlのスポーツドリンクとゼリー飲料だ。正直、重さはかなり気になってはいたが、給水、エネルギー補給のためにはどうしても必要だ。これを少しずつ摂りながら前へ、前へと進む。
ついに30キロ地点を通過。
今までの練習で走った一番長い距離は30キロ。ここからは未知の世界となる。持ってきたスポーツドリンク、ゼリー飲料を飲み干し、ここでペースを上げる。
『勝負だ!残りはたった12キロだ。』
呼吸が荒くなる。
『大丈夫。今まで散々練習してきたじゃないか。』
前を走るランナーを一人、また一人と抜かしていく。
苦しい。
『いや、行ける。このままゴールまで・・・。』
『ダメだ、もう走れない。』
体が重い。
足が重い。
コース脇の距離表示を見る。
「32km」
ついに歩き出してしまう。
私の渾身のスパートはわずか2キロで終了してしまった。
残りはまだ10キロもある。
『しまった。スパートなんてするんじゃなかった。』
少し前の自分の決断を後悔しながら歩く。
容赦なく照りつける日差し。
河川敷に日陰なんてものは存在しない。
暑さに耐えながら黙々と前に進む。
ただし歩きで、だ。
ふとコース脇の土手を見上げる。
楽しそうに話しながら駅の方向に向かって歩いて行く人の姿が見える。
すでにゴールした人たちだ。
そうか、ゴールした人から順に解散で、帰れるんだ。思いもよらなかった。これまで学校のマラソン大会では、最後の人がゴールするまでみんなで待って、全員揃ってから解散だった。
大人のマラソン大会は、違うんだ。
まだ必死にゴールを目指している人がいる一方、楽しそうに帰っていく人たちがいる。
自分が落ちこぼれになったような感じがして、惨めな気持ちになる。
「東京喜多マラソンは人生の罰ゲーム。」
前回のレポにあった一文が何度も頭の中に浮かんでくる。
『何で自分はこんなことをしているんだろう・・・。』
そんな気持ちが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
何でこんなことをしているのか。
走り始めた時のこと。
走ろうと思った時のこと。
今までのことを思い返す。
『そうだ、マラソンをしたかったんだ。』
『何者でもない自分から、マラソンランナーになりたかったんだ。』
『ゴールして、マラソンを完走した証のメダルをもらうんだ。』
『自分を変えるんだ!』
自分を奮い立たせ、前へ進む。
走る体力はもう残っておらず、歩くのが精一杯。
『大丈夫だ。俺は初めての練習で42キロ歩いた男だ!』
『歩くのならまかせろ。絶対にゴールまで辿り着いてみせる!』
自分を励まし、前へ進む。
残りはあと5キロ。
コースは直線のため、ゴールのマラソンゲートは遠くからでも見えるはず。
『よし、このまま何とか歩いて進んで、マラソンゲートが見えたら最後は走ろう。』
そう心に決め、前に進み続ける。
やがて遠くに、黄色と青の門が見える。
『見えた!マラソンゲートだ!あそこがゴールだ!』
ゴールまで、もう少し。
体力の限界のため、途中からはずっと歩き。
でも記念すべき初マラソンで有終の美を飾りたい。
『よし、ここから最後のラストスパート・・・。』
のつもりだったが、走れない。
疲れはもちろんあったが、体のどこかが痛いわけでも、気分が悪いわけでもなかった。
走ろうと思えば走れる。
だから走るつもりなのだが、
走れない。
怖かったのだ。
『もし今走ったら、
ゴールにたどり着くまでに倒れてしまうんじゃないか。
ゴールできないんじゃないか。』
そう思ってしまい、怖くて走れなかった。
歩きながらゴールに向かう。
時間が気になる。
なんとか5時間を切りたい。
5時間を切ってゴールすることを目標にここまでがんばってきた。
思うような走りはできなかったけれど、
5時間を切る目標はなんとしてでも達成したい。
ギリギリだ。
時計を何度も確認する。
必死に前に進む。
マラソンゲートがもう目の前。
ゴールまで、あと少し。
せめて、最後くらい。
最後の力を振り絞って走り出す。
ゴールラインを通過する。
『やった、ゴールだ!!』
無事ゴールに到着。
時計を見ると、なんとか5時間も切れていた。
『よかった。間に合った。』
係員の指示に従い、そのまま歩いて少し離れたテントに向かう。
とにかくゴールできてよかったという安心感で胸はいっぱい。
スタート前は、
『マラソンを走ったら人生が変わるっていうけど、ゴールしたらどんな気持ちになるのかな?』
『もしかして泣いたりするのかな?』
なんて考えたりしていたけれど、
いざ実際ゴールしてみるとこんな感じなんだと、意外に冷静に自分の感情を分析する私。
テントで完走証を受け取る。
目標だった5時間を切れた喜びがじわじわとこみ上げてくる。
そして念願の、欲しくてたまらなかった完走メダルを受け取る。
『やった。メダルだ。
これか。これを手に入れるために今までがんばってきたんだな。』
自分はマラソンを完走できたんだという誇らしい気持ちになる。
スポーツは全くの苦手で、他にも何の取り柄のない私にとって、人生初めてのメダルだ。
バナナとドリンクを受け取り、少し離れた日陰の場所で横になる。
体力を使い果たし、動けなかった。
そのままそこで30分ほど休憩し、やっと起き上がる。
家に帰らなくちゃ。家に帰るまでがマラソン。
荷物を受け取り、駅に向かう。
駅まで距離はあるが、充実した気持ちでいっぱいだったのでそんなに気にならない。
途中、足の甲が痛いことに気付く。
どうやら靴紐を強く結びすぎていたらしい。できるだけ普段通りに、と思ってスタートするまで慎重に準備してきたが、スタート前、最後の最後で靴紐を結びなおしたのがいけなかったようだ。やはり不安と緊張があったんだろう。
足の痛さのため、駅の階段を降りるときには必死に手すりにつかまり、なんとか進む。
『これ!これ!』と少しうれしくなる。
マラソンを走った人が、ゴール後に辛そうに歩く姿に正直ちょっと憧れていたのだ。
そして、帰宅。
改めて完走メダルを手に取ってみる。
マラソンに挑戦することを決意してから3か月。
憧れのマラソンランナーになることができた証だ。
この大会の完走メダルは、私にとって大切な大切な宝物だ。