あの世が見たい
私は常々、あの世が見たいと切望しております。
別に死にたいとかそんな大層なものではございません。自分の撮る写真に「あの世」が見えたら嬉しいな~と。
そんな私が切望するあの世が現世に薄っすらと重なる時間がございます。
そう、深まる夜と書いて "深夜" でございます。概ね人間時間で言うところの1~4時頃でしょうか。私はこの時間が大層好きです。元来夜型と言うのもございますが何より他人を見なくて良い。人間恐怖症の私はこれにつきます。
そんな私が最近ツイッターをはじめまして写真系の方々の投稿する写真を見る訳ですね。すると皆さんはキラキラしたポートレートやら可愛い猫ちゃんやら重機やら四季折々の名所やら内面を描くコンセプチュアルな物や意味不明の混沌の楽園とありとあらゆる工夫をして切り撮ってお届けして下さるのでございます。
そんな中で去年の秋は京都嵐山の写真に何度か心奪われました。
「うわ~、めっちゃ綺麗やなこれ…マジか~…ちょっと行きてえ…」
しかしこの「ちょっと行きてえ…」これは人間恐怖症の私にはですね大変、ハードルが高い!一般的なハードルに落とし込むとですね。およそ2メートル程はあるのではないでしょうか。まぁ、そんな高いハードルそもそもやらぬが吉でございます。ちょちょっと脳味噌の隅っこの引き出しに嵐山は大事にしまい込みました。
そんなこんなで結局、嵐山には行かず秋は過ぎ去り冬の1月末ですね。たまに脳味噌の引き出しを開けるわけです。パカーっと、そして閃いたのです。
「もうオフシーズンだし、深夜に行きゃ誰もいないだろ!行ってみるか!」
思い立ったのは日付が変わって深夜1時でございました。車を飛ばせば自宅から嵐山まで30分!早速撮影機材を準備致しまして意気揚々ドン・キホーテよろしく、私は車でエレファントカシマシの普通の日々を鼻歌交じりに嵐山へ向かったのです。ふつうの~ひ~びよ~ん…
「走行経路の四条河原町」
しかしですね、皆さん考えれば解るのです。私が憧れたのは"秋の紅葉に囲まれた美しい嵐山"であります。思い起こせば夜の、ましてや冬の嵐山(雪が積もっていれば別)の写真なんて見た事が無い気が…
だがその時、おつむ足りない私は考えも至らず。満を持して!ついに…ついに…念願の嵐山に降り立ったのです。
「寒ッ!暗ッ!怖ッ!帰ッ!」
そう思いました。車のドアを開けた刹那そう思いました。
しかしだ!逃げては駄目だ!逃げてはいつもの俺と同じぞ!あったか~い我が家に逃げ帰るのはまだ先だ!握れ!凍りつくような冷たさの三脚を!握れ!凍てついたカメラグリップを!そして写真を撮るのだ…!!
だが無情にもツイッターを見て憧れた紅葉は剥げ落ち白骨化し、嵐山の風物詩の屋形船は船舶型の霊柩車に見え、誰もいない閑散とした深夜の観光地は冷え込みを加速させ、おまけの鳥居が私と私の恐怖心だけを置き去りにしました。
「白骨化した紅葉、怖さ倍増鳥居添え」
「棺桶船舶」
「あれれー?なんか、想像してた景色と全然違うくなーい…あれれれー?なんかあの鳥居とか棺桶とか感じ悪くないー?ココヤダ!怖い!」
そんな思いを押し殺し私はひたすらシャッターを切りました。白骨紅葉と船舶型霊柩車をファインダーにおさめ入念に、確かめ合うようにシャッターを切りました。私の知ってるツイッターとかインスタのキラキラした嵐山とは似ても似つかない、なんか……死にかけの嵐山を…
その時!ファインダーの中に動く人影が…!!
誰ッ!?こんな深夜に!怖い!
観光客か!?
幽霊か!?
変質者か!?
ちがう!
赤い服を着た…
「 RUNNER 」
タッタッタッタッタッタッタッタッタ
赤いランナーはファインダーから外れ、あの世の闇へと消えていきました。
怖すぎる、もう言いませんあの世が見たいとか。
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