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EUの誤・偽情報対策の変化の兆し? EUvsDisinfoのAlicia Wanlessインタビュー

世界最初の国家的デジタル誤・偽情報対策組織であるEast Stratcom Task Forceが運営する誤・偽情報サイトEUvsDisinfoにAlicia Wanlessへのインタビューが掲載された。Alicia Wanlessは何度かこのnoteでも取り上げた、カーネギー国際平和財団の影響力対策パートナーシップのディレクターである。

“Disinformation is one problem among many in the information environment” – Interview with Alicia Wanless
By EUvsDisinfo | July 01, 2024
https://euvsdisinfo.eu/disinformation-is-one-problem-among-many-in-the-information-environment-interview-with-alicia-wanless/

Wanlessは現在の誤・偽情報対策が対症療法であり、問題の全体像をとらえていないという立場から批判していた。全体像を把握したアプローチで情報のエコシステム全体ととらえたうえで、戦略的に対処しなければならないと訴えていた。

偽情報やデジタル影響工作対策が空振りな理由をAlicia Wanlessが手短に解説
https://note.com/ichi_twnovel/n/n03b5dce3d823

●概要

まず、最初に申しあげておかなければならないのはEUvsDisinfoに書き起こしをまとめたものが掲載されているが、はっきりいってわかりにくく、抽象的であいまいだ。それに比べ、動画(同じページにリンクがある)の方は具体的でわかりやすい。なぜ、こうなっているのか理解に苦しむが、可能な限り、動画を観た方がよいと思う。

EUvsDisinfo in conversation with Alicia Wanless about the pollution of the information space
https://youtu.be/pbHu0u-Ai4M

インタビューの主な質問は5つ。

1.誤・偽情報対策のフレームワーク
情報環境における意図的な操作について語る場合、私たちは通常、誤・偽情報を話題にする。
この用語は私たちが直面している状況を表現するのに適切だと思うか、それとも、議論のフレームワークを変えたいと思うか?

2.情報エコロジー
情報エコロジーとは情報を物理空間や自然法則に似たものととらえるアプローチか?

3.マルチステークホルダー
マルチステークホルダーに長い経験をお持ちなので提言があるか?

4.民主主義の衰退
情報の消費が民主主義の衰退につながっているのだろうか?

5.海外からの干渉(FIMI)における最大の課題はなにか?

1.誤・偽情報対策のフレームワーク

書き起こしには書いていないが、動画では、はっきりと、フレームワークを変える必要がある、と断言し、誤・偽情報は情報環境における小さな側面であり、小さな問題にすぎないと言い切っている。他にもさまざまな要因が情報環境を汚染している以上、全体像を把握し、そのうえで誤・偽情報を評価しなければならない。
情報環境は、人々が意思決定を行う場であることから、民主主義の基盤に不可欠である。民主主義の正当性は、人々が自由かつ十分な情報に基づいて意思決定を行う能力に根ざしている。
自由で情報に基づいた意思決定を行えるよう確保することを目的としたものであっても、対策のために情報環境に介入するという行為そのものが、人々からその主体性を奪う可能性を秘めている。あるいは、そう受け取られる可能性がある。誤・偽情報の対策に伴う課題がこの問題を浮き彫りにしている。

なにがデマでなにが真実という議論は不毛である。真実という概念には根本的な問題があり、情報環境を管理しようとする際の基準としてはほぼ不可能である。科学が真実を決定できると私たちは考えたいかもしれないが、現実はもう少し複雑である。真実とは、科学や社会規範や意見によって形成されるだけでなく、情報を処理することによっても形成されるが、その行為はそれまでに起こったすべての出来事に影響される。コロナ禍においての当局や人々の判断の多様さがそれを裏付けている。
特に、2つの真実が互いに相容れないと認識されるような社会的に重要な問題については、2つのコミュニティが自分たちの世界観を社会全体に受け入れさせようとする争いにつながり、政治的な衝突となる可能性がある。これらのコミュニティの規模が社会的に大きなものである場合、政治家が問題を取り上げるようになる。
したがって、誤・偽情報のような概念を公共政策の枠組みに組み込むことは、むしろ燃えさかる炎にガソリンを注ぐようなものであり、特に社会が異質で多元的なものである場合、誤・偽情報が社会で深刻化させている際の民主的なアプローチとは言いがたい
そもそも誤・偽情報が問題となる頃には、それに対処するにはすでに手遅れになっている可能性が高い。偽情報は問題だが、今のような脅威に焦点を当てたアプローチから脱却することが唯一の解決策である。ある時点で、好ましくないものを排除することに焦点を当てるのをやめ、民主主義を育むのに最も適した情報エコシステムとはどのようなものかについて考えるべきなのだ。

2.情報エコロジー

Wanlessはもともとプロパガンダの研究を行っていた。ある時、個々の作戦を研究しても作戦の効果はわからないことに気がついた。なぜなら作戦が実施された情報環境によって効果は異なるからだ。つまり情報環境がわかっていなければ作戦の検証は不可能なのだ。
そこから関係するアクター、社会状況、市民など情報環境に関係するさまざまな要素を含んだ複雑なシステムとして研究を進めることになった。これは多様な関係する要因の全体像をとらえるエコロジーと同じアプローチだと気がついた。(このへんほとんど動画から)

3.マルチステークホルダー

現在のこの分野の研究の多くは紛争、選挙といったイベントに注目した事例研究が多く、特定の脅威、特定のアクターあるいは特定の技術(SNSやAIなど)に焦点があてられている。実験はごくわずかしか行われていない。
このようなアプローチでは全体でなにが起きており、この次になにが起こるのかといったことはわからない。一歩引いて全体像を見る必要がある。
しかし、政府、研究機関、NGO、市民、さまざまな組織や人々は特定のトピックに焦点をあてており、利害関係者全体、ましてや単一の利害関係者で、情報環境への介入のために必要な行動や選択肢の全体を把握している人はいないだろう。
たとえば、情報環境における危機に直面した際、民主社会がどのように対応すべきかを共有する計画を作成する必要がある。

4.民主主義の衰退

この質問に答えるのは難しく、そもそもなにをもって衰退というのかもわからない。ただ、言えるのはさまざまな脅威に直面しているということだ。気候変動、情報環境の汚染などさまざまなものがこの社会の脅威となっている。(このへん動画と描き起こすはかなり違う)
注意が必要なのは、現在行われている誤・偽情報対策のいくつかは権威主義国が行っているものと類似しており、それ自身が民主主義を毀損している可能性がある。

5.海外からの干渉(FIMI)における最大の課題はなにか?

そもそも海外からの干渉を考えるには、全体像を把握しなければ、その効果や対策もわからない。したがって、最大の課題はフレームワークを見直し、その中で戦略を立て、実施することであり、その前提として国民と政府の信頼、民主主義への信頼などを確立しなければならない。

●感想

EUvsDisinfoは、East Stratcom Task Forceが運営しており、East Stratcom Task Forceはヨーロッパ対外行動庁の組織(EEAS)である。ここにAlicia Wanlessが登場するということは誤・偽情報対策の潮目が変わってきたひとつの現れかもしれない。気になるのは起き起こしと、インタビューの動画の乖離が改竄かと思うほど食い違っていることだ。

個人的にはAlicia Wanlessの主張は、ほとんど私が言ってきたことと重なっており、対症療法から全体像を見ての戦略に切り替わっていくことを期待したい。

気になるのは日本ではAlicia Wanlessを始めとする全体像の見直しを主張する研究者たちの意見が全く採り上げられていない点だ。世界から取り残され、誤・偽情報対策でやっていることは中国と同じということにならないとよいのだが。

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