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IFCN 会員リストをもとに行ったファクトチェック関係者への国際調査でわかった実態 関係者必見!

「What Is the Problem with Misinformation? Fact-checking as a Sociotechnical and Problem-Solving Practice」(Oscar Westlund等、Department of Journalism and Media Studies, Oslo Metropolitan University、2024年6月9日、 https://doi.org/10.1080/1461670X.2024.2357316


2020年から2022年にかけて46人のファクトチェッ ク関係者への国際的な定性調査(ヒアリング調査)を実施した。インタビュー対象者は IFCN 会員リストから募集された。その内訳は下記。
・ファクトチェッカー21人、ジャーナリスト14人、ニュースルーム関係者11人。
・男性29人、女性17人。
・北米15人、ヨーロッパ26人、オセアニア1人、アジア2人、アフリカ2人。

●ファクトチェック関係者が考える誤情報

誤情報(misinformation)とは、事実に反するものや不正確な内容を含むもの、どこででも共有されるものを指すカジュアルな用語だが、ファクトチェッカーが注目するのはオンライン上の誤情報(misinformation)である。その中で、偽情報(disinformation)とは、悪意のある、または 故意に拡散する虚偽の情報、虚偽の発言、または虚偽の文脈で共有される画像を拡散するものである。誰かがナラティブを誤って広めようとしている時、そこに何らかの意図があるかどうかを判断できなければならない。

●5つの重要な課題

・デジタル技術の限界

デジタル技術とは、プラットフォームインフラストラクチャ(特にSNS)と、さまざまな技術システムとツールの両方を指している。
ファクトチェック関係者は、デジタル技術の限られたアフォーダンスに関する問題を指摘した。
ファクトチェック関係者は、SNSの説明責任と透明性の欠如の問題、メッセージング・アプリのような閉鎖的なものの問題が指摘された。
全体的に、ファクトチェック関係者は、現在のテクノロジ ーには大きな制限と制約があり、そのため彼らが直面している問題を解決することはできないと認識していた。自動的な真偽判定は不可能と断言する者もいた。

・プラットフォームインフラに関する限定的な権限

ファクトチェック関係者はSNSプラットフォームのデータに無制限にアクセスできるわけではなく、大きな制限があるなど、さまざまな制約を受けている。

・限られた専門知識と人的資源

ファクトチェック関係者は協力と知識の重要性を強調した。チェック対象の情報はどれも非常に特殊であり、チェックするための特定のルールや順序がない。しかし、ファクトチェックでは情報を検証する方法を見つけなければならない。
ファクトチェッカーは、経済的、技術的、人的資源の不足という組織的な問題に直面している。時にはある情報についてファクトチェックできる人物を捜す必要があるが、国や地域によって政治、文化、メディアシステムは異なり、その知見を持った人物を見つけるのが難しいこともある。

・ファクトチェックを行う人々に対する敵意

ファクトチェック関係者は、高いリスクにさらされている。ニュース出版社やジャーナリストが仕事を通
じて危険に直面しているのと同様、ファクトチェック関係者も、嫌がらせ、法的脅迫、さまざまな敵対者による命を脅かす攻撃など、さまざまな脅威にさらされている。

・ファクトチェックが誤情報を助長

ファクトチェック関係者は、誤情報の拡散を止めようとしているが、必ずしもそうはなっていないことがある。
ファクトチェックの結果を公表することが、誤情報の問題を悪化させる結果になる可能性があるという、本質的な矛盾を抱えている。少なくとも3つのリスクがある。

ファクトチェックを見た者が、逆に誤った信念を深める、「バックファイア効果」が引き起こされる可能性がある(これを否定する研究結果もあるが)。
ファクトチェック結果を公開するとむしろ誤情報の拡散が促進され、誤情報への注目と露出が高まる
公開されたファクトチェック結果を、異なる文脈で紹介し、誤情報の拡散に利用する。

「What Is the Problem with Misinformation? Fact-checking as a Sociotechnical and Problem-Solving Practice」(Oscar Westlund等、Department of Journalism and Media Studies, Oslo Metropolitan University、2024年6月9日、 https://doi.org/10.1080/1461670X.2024.2357316 )

●ファクトチェックの対象の決め方

ファクトチェック関係者は、すべての「誤情報問題」に立ち向かうどころか、ファクトチェック行為特有の問題にもっとも懸念を持っていることがわかった。そして、膨大な量の誤情報の中から彼らが取り上げる価値があると認識された問題だけが取り上げられる。その基準はいくつかあるが、たとえば下記である。

・ファ クトチェッカーは、主に、チェック可能な情報をファクトチェックする

情報や画像の信憑性は重視されるが、拡散している組織や行動やネットワークにはあまり注意が払われない。

・ファ クトチェッカーは、社会的に緊急性と重要性のある問題と認識されている情報を優先する

・ファクトチェッカーは、効果によって情報を選んでいない

ファクトチェック関係者は、ファクトチェックによって拡散を抑制し、信じる人の数を減らせる可能性あるものを優先するような考慮はしていない。そもそも誤った情報にさらされた人々にアプローチし、彼らの認識を変えることは難しいとされているが、ファ クトチェック関係者は必ずしもこれを認識しているわけではない。ファクトチェック関係者は、誤情報の特定と検証を優先している。

・ファクトチェッカーは問題の優先度を資金提供者との関係やイデオロギーによって決めることがある

政治に関わる問題がファクトチェックでよく取り上げられるのは緊急性と重要性もあるが、政治的な話題を取り上げることがファクトチェッカーの指向に合っているためでもある。

●結論

問題の特定、リソースの優先順位付けなど問題解決のためのさまざまな行動には密接な関係がある。ファクトチェック活動は、公共の議論における誤情報への注目が高まる中で、広く認識されてきた。ファクトチェックが重要な仕事であることは明らかだ。しかし、ファクトチェックという形で提供される誤情報に対する「解決策」には限界がある。ここであげられた課題が解決されても誤情報は止まらない

このレポートでは、ファクトチェックを清掃会社にたとえている。ビルのオーナーから委託を受けてビルの掃除を請け負っている。さまざまなビルの清掃を行っているが、ビルによってはアクセスが制限されていたり、電源が不足しているなど、清掃できる区画や道具に違いがある。清掃会社は目につきやすい場所を優先して清掃する。
それぞれのビルのオーナーはビルの清掃対象区画と道具へのアクセスを管理し、清掃義務を果たしていると胸を張るが、実際の作業は清掃会社が責任を持っておこなっている。
このレポートには書いていなかったが、「解決策」には限界があるというのは、清掃会社がいくらがんばっても、ゴミの量が減ることはないということだろう。ゴミの量を減らすには、ビルのオーナーや自治体あるいは政府が規制しなければならない。しかも、ビルのゴミはゴミ問題全体からすると、大きな問題ではないのだ。ビルのオーナーや自治体や政府から見れば、清掃会社に注目が集まってくれることは、自分たちがゴミをなくすためにすべきことの目隠しになる。

●感想

私はファクトチェックは必要だが、誤・偽情報対策として扱うことには問題があると思っているので、このレポートの内容には、「そうだろうなあ」と感じた。しかし、調査の結果とはいえ、ここまでファクトチェックの実態がひどかったのだろうかと思うくらいに、ひどかった。

ファクトチェックは上から目線だし、扇情的なことも多く、嫌な感じがすると感じていたが、このレポートのこきおろしを見ると同情したくなる。
でも、日本には本気でファクトチェックが誤・偽情報対策に役立つと信じている人がいるので、これくらいの内容で目を覚ましてもらった方がよいのだろう。
なにしる堂々とファクトチェック団体に誤・偽情報を送りつけて、彼らがそれをファクトチェックして公開したことで拡散を加速することを狙う作戦だって起きているのだ。いまさらファクトチェックを誤・偽情報対策にかつぎだすのは危なすぎる。

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