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誤・偽情報対策の根本的な疑問に関する論文

Journal of Media Lawに、現在の誤・偽情報対策の根本的な疑問に関する論文が掲載された。

Foundational questions for the regulation of digital disinformation
https://doi.org/10.1080/17577632.2024.2362484

●概要

最初に、この論文について言っておくと、このnoteをご覧いただいている方には、かなりわかっていることではある。特に目新しいことはない。問題は、こうした論文や記事が増えている。やはり潮目が変わっているのだと思う。

この論文では、主として下記が書かれている。

・ネット上の誤・偽情報は公共の議論として重要度を増している。
・しかし、それ以外の脅威はあまり取り上げられていない。
・誤・偽情報の定義や基準、判別方法は明確なものがない。時として党派的に用いられてている。
・誤・偽情報がもたらす影響とその範囲についての調査研究は驚くほど少ない。また、数少ない調査研究ではその影響は少ないことがわかっている。つまり、誤・偽情報を脅威とする根拠はない。
・実態が明らかではないが、海外からの干渉や下層の国民からの誤・偽情報の脅威が大きく取り上げられている。
・規制の行き過ぎや、過剰な警告が情報全般に対する不信感を生み、メディアやジャーナリストへの信頼を失わせることにつながっている。意図的にメディアやジャーナリストの信用を貶めるために用いている場合もある。
・誤・偽情報の研究者の中には脅威を煽ることで知名度を高め、自身の研究の重要性をアピールしている者もいる。
・これらから為政者に都合よく使われる可能性も高い。

●感想

誤・偽情報の脅威が過剰になっていったことには、ロシアが意図的に仕向けた可能性も高い。たとえば誤・偽情報への過剰な評価と警告主義を招くように、パーセプション・ハッキングを仕掛けていたと考えられる。数多くの誤・偽情報関連の研究機関の中で唯一、Metaだけが繰り返し、ロシアからのパーセプション・ハッキングを指摘していた。

ようやく欧米でこうした発言をする関係者が増えてきたことはよい兆しだ。
もっとも日本は2週遅れくらいで、方向転換しはじめた欧米の対策を追随している。欧米が方向転換した後で、曲がりきれずに突っ込んで大惨事になりかねない。
でもきっと日本の安全保障関係者はこのへんの動きは理解しないんだろうなあ。

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