トランプ暗殺未遂事件の後の誤・偽情報騒動 規制すべきはマスメディアの報道だと思う

トランプ暗殺未遂事件の後の誤・偽情報騒動をアメリカ、日本で大手メディアが取り上げて、SNSが陰謀論であふれているかのように報じている。もちろん、そのような事実は確認されていない。そもそも大手メディアはこの事件に関連した発言の総数と、そこに占める誤・偽情報の割合を把握できるはずなのにその数値を公開していない。誤・偽情報があふれていないことがわかってしまうからだろう。


●海外からの干渉は確認されていない

こういう時に気になるのはロシアの動きだが、2024年7月18日付けでDFRLabに「How Russian propagandists spun the Trump assassination attempt」https://dfrlab.org/2024/07/18/russian-propaganda-trump-shooting/ )という記事が掲載されている。この記事ではロシア政府関係者や政府に近いブロガーや親ロシア派の動きを伝えているが、いささかフライングだった。なぜなら、はっきりと現時点ではロシアが関与した大規模な悪意ある活動は確認されていないと書いてあるのだ。記事ではこれからわかってくる、というニュアンスのことを言っていたが、果たしてどうだろう?
大手ニュースでもロシアが関与した動きがあることは報じているいるが、その規模を数値で確認できるものはない。

特に注意したいのは、中国、イラン、ロシアの動きを確認できるHamilton 2.0 Dashboardでも目立った動きはなかったことだ。大規模なキャンペーンの場合マルチプラットフォームで行うことが多いはずなので、Hamilton 2.0 Dashboardに大きな変化がないということは少なくとも大規模なキャンペーンはなさそうだ。あるとしても、もう少し経ってからだろう。

●数字を見る限りでは「あふれる」というほどではなさそう

事件後24時間「Trump」に言及したツイートは約600万件だった。「staged」(自作自演)、「Biden orders」(バイデンがやらせた)という陰謀論を示す言葉の利用も急増したが、全部足しても100万件に満たないようだ。6分の1というのは多いとは思うが、これらはキイワードで抽出しているので、陰謀論への注意喚起なども含まれるだろう。ちなみにデマ以上に、「○○というデマに注意」という発言がRTされ、閲覧されるのはよく起こることなので、実際にはもっと少ないだろう。
2024年7月19日のNewsGuard's Reality Checkによると、左派版のQAnonであるブルーアノンの発言を取り上げ3、4日間で1,200万回の閲覧、300万回の閲覧だと紹介している。しかし、以前の記事に書いたように2日間で億単位の閲覧になっている陰謀論や誤・偽情報ではない投稿も複数ある。1,200万回の閲覧、300万回の閲覧は多い方だと思うが、だからといってもっとも多く閲覧されているわけではないし、誤・偽情報や陰謀論の閲覧数が一般的な情報よりも多いわけでもない。もっともこの話題がじょじょに鎮静化するにつれ、残るのは陰謀論が多くなる可能性はあるが、それはまた別の話だ。

このへんのくわしい話は、筆者が参加している新領域安全保障研究所のUNVEILのニュースに書いた。数値の出典などもそちらに記載した。

トランプ暗殺未遂事件で陰謀論はどれくらい広がっているのか?https://inods.co.jp/news/3139/

トランプ暗殺未遂で広がる共和党と民主党の陰謀論と分断の構図、 https://inods.co.jp/news/3059/

●誤・偽情報そのものよりもマスメディアが煽ることの方が問題

また、誤・偽情報や陰謀論の影響については評価が分かれており、最近ではその影響は限定的で、むしろ対策や報道による悪影響の方が大きいという指摘が増えている。メディア報道がマイナスの影響を与えるという報告は増えている。
そもそもメディアやファクトチェック団体に自分たちがばらまいた誤・偽情報を送りつけて検証を依頼する作戦も行われ、成功している。メディアが依頼された検証を行い、結果を発表すると、それでさらに誤・偽情報は拡散するのだ。自分たちはよいことをやっているつもりなのかもしれないが、いいように利用されているのが実情だ。

ファクトチェックとメディアを誤・偽情報拡散に利用した「オペレーション・オーバーロード」の成功https://note.com/ichi_twnovel/n/nedebd72a73bf

マスメディアが根拠なく脅威を煽り、悪影響を撒き散らすのは害悪なので規制対象にすべきと思う。たとえば東京新聞に掲載された「トランプ氏銃撃で飛び交った「陰謀論」「偽情報」 歯止めをかける手だてはあるのか、考えてみた」https://www.tokyo-np.co.jp/article/340932 )という記事はものすごく話をふくらませている。暗殺未遂事件だけではなく、大統領選挙後に起こるかもしれない事件まで危惧している。大統領選挙後の騒動と今回のことは少しは関係あるがわざわざそこまで話を広げるのは脅威を煽る意図であるのは明らかだ。少し関係のある先のことまで考えるのなら、台湾有事だって取り上げててもおかしくない。

マスメディアが自分のビジネスのために誤・偽情報をことさらおおげさに扱っているというケンブリッジ大学刊行のレポートを紹介したことがあるが、やっぱりそうなんだろうなあと思ってしまう。

メディア報道が誤・偽情報についての誤った認識を刷り込み、メディアビジネスの利益につながったというケンブリッジ大学刊行レポートhttps://note.com/ichi_twnovel/n/nce2f420dd2d7

なお、今回に限らず、誤・偽情報に関するほとんどの報道が言及している悪影響には根拠がなく、逆効果の可能性の方が高いと思う。誤・偽情報をなくしたいとか、影響を抑えたいと考えているならもっとちゃんと検証するでしょ。

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