欧州委員会がまとめた行政のコミュニケーションに関するレポートは誤・偽情報対応の指針を示していた
欧州委員会の共同研究センター(Joint Research Centre、 JRC)は、2024年6月13日に、「Trustworthy Public Communication: HOW PUBLIC COMMUNICATORS CAN STRENGTHEN OUR DEMOCRACIES」( https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC137725 )を公開した。
●概要
行政コミュニケーションは広範である。プレスリリース、Webサイト、官報、SNS、講演、メールニュース、公聴会、公共広告、緊急事態や最新情報のSMS、出版物、小冊子、ガイド、論説や記事、式典や公開イベント、パレード、パブリックアートやインスタレーション、教育プログラムなどなど。
さらに、ホットラインやヘルプデスク、モバイルアプリ、ダイレクトメッセージやメール、罰金などの通知、フォームや申請書を介した国民の声の受信、アンケートや世論調査も該当する。
このレポートでは行政への国民の信頼の重要性を強調し、誤報や偽情報はこうした不信感と結びついていると指摘している。そして、行政を信用しない人は、行政の行動や意図に関する誤報をより容易に信じてしまうとしている。
ただし、国民が盲目的になんでも追従するようにすべきと言っているのではない。そんなことになれば行政が正当な責任を問われなくなる可能性がある。行政が国民の期待通りの行動を取った時に限って信頼すべきと書いている。信頼と不信を4象限に分けたチャートはわかりやすい。
誤・偽情報対策の基盤としての行政への信頼、それを実現し、支えるためのコミュニケーションの推奨事項を10あげている。推奨事項は非常に具体的な内容に踏み込んでおり、実践的なガイドになっている。
なお、このレポートは定量調査、定性調査ならびに専門家へのヒアリングを実施した結果を踏まえたものとなっている。
推奨事項は下記の10。
1.常に信頼できる存在であることを通じて、国民の信頼を確立し、維持することが、主な目標である。
2.行政と民主主義への信頼を高めるために、国民の声に耳を傾ける効果的な方法に投資する。
3.情報提供から行動の変化に至るまで、コミュニケーションの目標は事前に決定され、透明性をもって行う。
4.行動変容がコミュニケーションの目標である場合、行動科学の知見を利用すべき。
5.「万人に当てはまる」コミュニケーションはない。
6.さまざまなコミュニケーションの目標に合わせた調査手法を選択する。
7.コミュニケーションのために個人プロファイルを利用すべきではない。代わりに、価値観を細分化し、社会のあらゆる部分に共鳴するメッセージを提供する。
8.広報担当者は政策が策定される前に、国民の懸念を事前に把握する。これには誤報や偽情報に対抗する戦略が含まれる。
9.広報担当者はコミュニケーションの評価を行い、より効果的になるようにする。
10.新たな課題には、専門家を支援するための新たなスキル、能力、専門知識センターが必要である。
個々の推奨事項について、考えの基礎となフレームワークと手法などが整理されていて便利だ。たとえば下記のような整理が随所にある。
●感想
私は日本の行政のコミュニケーションにこういう定期的に更新されているガイドラインがあるのか知らないが、なんとなくなさそうな気がする。
ここに書かれていることには誤・偽情報対策も含まれているが、日本のようにファクトチェックや検知などには触れていない。より根本的な信頼確立による解決を訴えている。これは誤・偽情報対策のチャートの基礎的対策に当たるものであり、これなしには日本の行政が推進しようとしている3次や2次の対策は失敗し、逆効果になる。
行政の役割を考えるうえで、とても参考になった。
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