メモ 記事日本におけるネット世論操作

本稿は未完成であり、お見苦しい点があるかもしれませんが、ご容赦ください。

現在、日本で行われている主なネット世論操作を表にすると次の表のようになる。

日本のネット世論操作表

●ネット世論操作が定着した日本
・ボット、トロール、サイボーグの活用
『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書、2018年11月10日)では、下記の3つを紹介した。アメリカ同様、日本でもボットやトロール、サイボーグが利用されている。アメリカと異なるのは報道で取り上げられることや研究や調査がほとんど行われていないことである。真剣に取り込み、調査している人はごくわずかである。

 ・2017年11月4日、ドイツのエアランゲン=ニュルンベルク大学のシェーファー・ファビアン博士が2014年の衆議院選期間中におけるツイートの統計分析を行い、政治に関係あると考えられるキーワードを含むツイート83.2%が類似ツイートであるとしている。類似ツイートとは元のツイートとはじゃっかん表現を変えているもの(near-duplicates)のことである。この論文の特徴は言語解析を行い、完全一致ではなく類似のものも認識できるようにしている点だ。一連の分析からネット世論操作が行われていたとしている。

 ・筆者はSNS分析システムを提供しているMentionmapp社の協力を得て、日本国内のアカウントの分析を行った。活動的でフォロワーの多い右よりの政治家、小説家などのアカウント9個を対象に解析を行った結果、そのフォロワーの一部はボットもしくはサイボーグの可能性が高く、アカウントをまたがって重複しているものも多かった。相互にリツイートなどを繰り返し、右よりもアカウントとボットやサイボーグの拡散装置で独自のエコシステムができていた。

 ・クラウドワークス(後に禁止)やランサーズといったクラウドソーシングのサイトでトロールの募集を行っていたことがわかっている。ITmediaビジネス(クラウドワークス、「政治系ブログ記事」案件を非掲載に、ITmediaビジネス、2017年9月22日、https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1709/22/news098.html)にも取り上げられている。

その後、2018年9月に朝日新聞が沖縄知事選の際のSNSのデータをクリムゾン・ヘキサゴン社のソーシャルメディアネットワートワーク分析システムを用いて分析した結果、不自然な動きがあったことを確認している。

最近、ベータ版がリリースされたボット検知システムBotSight(https://download.botsight.nlok-research.me)で Mentionmapp社の解析の対象となったアカウントを解析してみると類似の傾向が見られたことから、今でもボットやサイボーグが存在している可能性が高い。

自民党公認のボランティア組織である自民党ネットサポーターズクラブもトロールとして活動している。

・大手メディアとジャーナリスト個人への攻撃
日本でもアメリカ同様に政権に批判的なメディアやジャーナリスト個人の攻撃が行なわれている。

有名なのは東京新聞の望月記者に対する攻撃で、経緯はご本人が『新聞記者』(角川新書、2017年10月12日)に書いている。記者会見の場での質問の打ち切りや無視、「主観的」など質問をそらす応答などが行われ、これに加えて産経新聞が官邸をフォローするような望月記者攻撃記事を掲載し、プロキシを巻き込んでの広がりとなった。望月記者への殺害予告を行う者まで現れる事態となった。
『安倍政治 100のファクトチェック』『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったか』(朝日新書、南彰、2019年6月13日)にも批判的なメディアに対する攻撃の詳細が描かれている。
たとえば2014年には朝日新聞の法的責任を問う集団訴訟がいくつか行われた。最初の訴訟は日本文化チャンネル桜(インターネット放送局、プロキシの項で説明)の社長が事務局長を務める「朝日新聞を糺す国民会議」によるもので、原告は2万5722人という人数になった(『 フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』大月書店、永田 浩三等、2018年6月18日)。結果として原告の申し立ては退けられた。

内閣情報調査室国内部門特命班のマスコミ担当が、対象を調査し、発見した弱点をつながりのある各メディアへの拡散し世論を誘導担当することもあるという(内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い、幻冬舎新書、今井良、2019年5月30日)。トランプ陣営の対批判者プロジェクトチームを彷彿させる体制である。

・メディアの選別
日本政府は記者クラブなどを通じてメディアへ影響力を行使しており、その力は近年特に大きくなっている。具体的には取材機会(ぶら下がり取材)や記者会見での質問の制限などである。前掲の『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったか』にくわしい経緯が描かれている。前項のメディアやジャーナリスト個人への攻撃と対になっており、言わば飴と鞭を使いこなしている。

同書には安倍政権発足以来の首相単独インタビューの回数が記載されており、多いのはNHK20回、産経新聞13回、日本テレビ(BS、読売テレビ含む)11回である。産経新聞が多いのは、官邸に忖度あるいはアクセス稼ぎのための偏った記事で政権を支援したためと考えられる。『権力と新聞の大問題 』(集英社新書、望月衣塑子、マーティン・ファクラー、2018年11月6日)には産経新聞の記者がアクセスを稼ぐために記事を書いていた話が紹介されている。偏った記事については前項を参照、アクセス稼ぎはプロキシの項を参照いただきたい。こういったことから産経新聞はプロキシの役割を果たしていると言える。
個別のテレビ番組への出演ではNHK37回、フジテレビ(BS、関西テレビ含む)25回、日本テレビ(BS、読売テレビ含む)20回が際だって多い。

前掲の『権力と新聞の大問題 』では安倍政権のメディアコントロールは巧みで、都合のよいメディアを重用していると指摘している。名前を挙げられたメディアは、NHK、日テレ、フジテレビ、読売、産経であり、さきほどのインタビューや出演の回数と一致する。当初、協力的でなかったテレビ朝日は政権の飴と鞭で取り込まれたとしている。

・プロキシの活用
現在、日本には多数のプロキシが存在している。直接あるいは間接的に関係のあるものから、政権支持のエコシステムに意識せずに参加しているものもある。プロキシは必ずしも政権のコントロール下にあるわけではない。ただし、影響下にある。偏った主張を政権が許容する姿勢を見せることで「攻撃してもよい」雰囲気を作り出し、政権支持者のアクセスが集まるように仕向けるとアクセス増加目当ての個人や企業が政権の主張に沿った内容を発信するようになり、アクセスを稼ぎ、それを見た他の個人や企業も後に続くことで政権支持のエコシステムとなる(フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器、角川新書、2018年11月10日)。もちろん中には自らの信条がたまたま政権のエコシステムに合致していることもあるだろう。だが、結果としては同じである。
主な例を表にまとめたので参照いただくとイメージがつかめると思う。

日本のネット世論操作プロキシ

これはあくまで一部である。ネット上にはいくつものサイトやアカウントがプロキシとしてエコシステムの恩恵にあずかっている。

『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』(日経BP、2020年6月25日、藤代裕之他)によれば日本でネット上のニュースでよく読まれているのはヤフーニュース(政治・経済・社会のニュースの入手先55%)とライブドアニュース(政治・経済・社会のニュースの入手先30%)の2つである。
ヤフーニュースは多数の報道機関や個人からの記事などを配信している。SNSで情報が拡散すると、それがヤフーに記事を配信している報道機関や個人に取り上げられ、さらに拡散するメカニズムを藤代裕之はフェイクニュース・パイプラインと呼んだ(フェイクニュース生成過程におけるミドルメディアの役割、情報通信学会誌、藤代裕之、2019年10月29日、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicr/37/2/37_93/_article/-char/ja/)。もちろんこれはフェイクニュース以外でも起こり得る。政権支持のエコシステムではこのパイプラインを通しての拡散も起こりやすいと考えられる。
そしてエコシステムに入り込むのは比較的容易だ。その手順の一部は「大韓民国民間報道」というフェイクニュースだけを報じるサイトの運営者が赤裸々に語っていた(「ヘイト記事は拡散する」嫌韓デマサイト、運営者が語った手法、The BuzzFeed News、2017年1月26日、https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/korean-news-xyz-2)。なお、「フェイクニュースだけ」というのは運営者本人が語っていたことである。既存のエコシステムで影響力のある人物の目にとまってリツイートされるように仕組むことで多くのアクセスを稼ぐことができるエコシステムに組み込んでもらえる。

・ネット監視活動
2013年、自民党は電通およびIT企業を集め、ネット上で問題となる投稿を早期に発見し、サービス提供社に通報し、削除させる仕組みT2を作り上げた。メンバーは顧問弁護士2名、自民党メディア局約20名、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、ホット リンク( http://www.hottolink.co.jp/pr/press/4859 )、NTT コムオンライン・マーケティング・ソリューション(https://www.nttcoms.com/page.jsp?id=2032)、ガイアックス(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000060.000003955.html)、パースペクティブ・メディア(http://perspective-media.jp)である(前掲、フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器、角川新書、2018年11月10日)
通報するのは投稿の内容が法律あるいは規約に反する疑いのある場合に限られる。自民党以外の政党にはできない点が気になる。ネット上で政党や政治家を法律や規約を破って攻撃する行為を通報すること自体は問題ならば全般を取り締まればよい話である。自民党にだけ早期警戒システムがあるのは公平性を欠く。特にトロールやプロキシが法律や規約に反して敵対勢力を攻撃していても同種のシステムを持たない野党やメディアには対応しきれず、結果としてネットには自民党に敵対する勢力の過激な発言が放置されることになる。それができないのは自己責任と言い出すと、金と企業人脈がない者は政治をやるな、ということになってしまう。それはひとつの考え方であるが、日本が標榜している民主主義的価値観とは相容れない。

・デジタル・マーケティングの活用
2013年、自民党のT2に参加したパースペクティブ・メディアの代表自身が、著書の中で、どのようなマーケティング活動を行ったかを解説している(情報参謀、2016年7月20日、講談社現代新書、小口日出彦 )。詳細なデータの収集とそれを反映した活動の立案と実施などが詳細に描かれている。
ざっくり言うと、パースペクティブ・メディアはテレビの分析を担当し、もっとも取り上げられたトピックスを整理、分析し、同じくホットリンクという企業がネット上の書き込みを品詞単位に分解し、出現頻度を分析していた(デジタル・デモクラシーがやってくる。、谷口将紀、宍戸常寿他、中央公論新社、2020年3月6日)。


●アメリカと日本のネット世論操作の共通点
前回、今回で見たようにアメリカと日本のネット世論操作には下記の共通点がある。

 ・批判的なメディアやジャーナリスト個人への攻撃
 ・ボット、トロール、サイボーグの利用
 ・プロキシの利用
 ・デジタル・マーケティングの活用

また、ネット世論操作の手法とは異なるが、ネット企業が政権に協力的なのも共通している。アメリカではシリコンバレー・ナショナリズムという言葉が生まれたくらいだ(Silicon Valley Nationalism Technology is distorting reality and reshaping narratives.、Data&Society、2019年5月8日、https://points.datasociety.net/silicon-valley-nationalism-86eaf8461b97)。意外に聞こえるかもしれないが、シリコンバレーの起業家にはトランプ支持者が少なくない。2016年の大統領選では、フェイスブック、グーグル、ツイッターから派遣された社員がトランプ陣営のケンブリッジ・アナリティカチームにいた。
日本でもテレビ朝日とAbemaTVを立ち上げたサイバーエージェントや、自民党のT2に加わった各社など、自民党に協力的なネット企業は少なくない。その理由はいろいろ考えられるが、規制緩和や政権エコシステムの恩恵などは少なからずあるだろう。

違いの部分に関して言うと、ネット世論操作のシステムや手法に関してはアメリカに一日の長があるが、メディア支配においては日本はアメリカよりも進んでいる。

なお、筆者にはネット世論操作を否定したり、糾弾したりする意図はない(今のところは)。現在、ネット上で個々人の意識に影響を与えるために行われていることを整理することが主たる意図である。ただし、アメリカと日本は民主主義的価値観を標榜しているので、その点には留意した。
本稿に書かれている内容について多くの箇所で「こんなことが行われているのは問題だ」と感じるならば、それはあなたが民主主義的価値観に基づく考え方をしているためで、「なにも問題ない」と感じたら民主主義的価値観を持ち合わせていないためであろう。民主主義的価値観は絶対のものではないので、どちらの考え方もあり得る。
ただし、「反戦デモの参加者を監視するのは当たり前」(ニューズウィークの記事に対してこういう趣旨のご意見をいただいた)と言いながらも、民主主義的価値観を持っていると自認する方とは意思疎通が難しいかもしれない。


民主主義を知るための本 https://note.com/ichi_twnovel/n/n6651178d7522 

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