偽・誤情報、デジタル影響工作と認知戦についてのメモ
作戦の戦術
偽・誤情報、デジタル影響工作、認知戦、誘導工作など情報を使って世論を操作、攪乱することの呼称はたくさんある。あくまで私見だが、その効果・影響は下記の3プラスおまけ1つになると思う。効果・影響は相手から見た場合は戦術となる。
1.既に存在している偏見、偽・誤情報、ナラティブを増強し加速する
たとえば既にテーゲット国の国内に存在している特定の人種、民族、職業などに対する偏見や陰謀論を増幅、拡散させ、より大きな社会的影響力を持つにように仕立てる。よく見かけるものの多くはこちらだろう。
2.混乱と分断を広げる
「1.」と重複することも多い。偽・誤情報についての過剰な政府やメディアの警告は警戒主義を広げており、混乱と分断のもとになっている。警戒主義は情報への不信と政権への不満を募らせる。偽・誤情報を識別することに焦点を当てたリテラシーやファクトチェックにも同様のマイナスの効果がある。オペレーション・オーバーロードなどのロシアの作戦はこれを狙ったものだ。
オペレーション・オーバーロード1 https://note.com/ichi_twnovel/n/nedebd72a73bf
オペレーション・オーバーロード2 https://inods.co.jp/news/3912/
ロシアの作戦 https://inods.co.jp/news/4161/
「1.」と異なり、問題が「既に存在」していようがいまいが、なんらかの方法で拡散することで、ターゲット国内で注目され、警戒主義を煽り、混乱と分断に結びつけることができるのが「2.」である。
3.軍事的優位を政治的勝利につなげる
中国における認知戦は、「軍事的優位を政治的勝利につなげる」こととする中国とアメリカの論文や記事は多い。それらによると、アメリカがベトナムやアフガニスタンで軍事的優位を持ちながらも政治的勝利をつかむことができなかった原因は相手を精神的に諦めさせることができなかったためである。核兵器を2発落として屈服させることができた時代と、いまは違う。ほんとうの意味で勝つには戦場の勝利だけではダメで認知的勝利も必要なのだ。逆に言うと、中国の認知戦では「軍事的優位」が前提になる。
中国の認知戦 https://note.com/ichi_twnovel/n/n1cfd32acb0f3
「1.」や「2.」と異なるのは、全領域の戦いであることの強調、正当性の必要性、軍事に先行して行われることなどがある。
4.上記以外
上記以外は、効果がないか、他の呼称を使い、他の方法で対処した方がよいものと言える。災害時の偽の救援支援やインプレッションゾンビの多くがこれに当たる。
本来、これらは攻撃主体が仕掛けているものではなく別物だが、ひとくくりに「偽・誤情報」や「フェイクニュース」と呼んで警告したり、報道することによって「2」を幅広い問題として認知させ、パーセプション・ハッキングや警戒主義を加速する影響が出る。
問題となる1,2、3は単独の戦術というよりは、ひとつの作戦で同時に複数の効果を狙うことができるのでやっかいだ。
「3.」については「軍事的優位」が前提にあることが重要だ。正確に言えば、もともと偽・誤情報、デジタル影響工作、認知戦は全領域での戦いの一部であり、総合的に計画されていなければいけない。当然軍事もそのひとつに含まれている。
日本(特に総務省)で議論されている偽・誤情報の多くは「4.」に当たる。つまり、ここの話をしても海外からの干渉の対策には役に立たない。共通する部分もあると考える人もいると思うが、「1.」,「2.」、「3.」は同時に複数にまたがった戦術となっていることが多い。
これに対して、「4.」はそうではないことも多い。単なるイタズラ、インプレッション稼ぎなどは、抑止することが容易だ。災害時のデマはそもそも災害時に信頼できる情報インフラを外国企業のサービスに頼っているのが誤りであり、国内で信頼できる情報インフラを構築すれば抑止できる。インプレッション稼ぎは経済的メリットを失わせれば抑止できる。
「1.」,「2.」、「3.」、たとえばロシアのドッペルゲンガー作戦は、ほぼパーセプション・ハッキング=つまり「1.」,「2.」を狙ったものであること判明しているので、せっせとドッペルゲンガーを暴露、報道、警告してきた政府やメディアはロシアの作戦の効果をあげるために協力してきたことになる。
防衛省などの行っている偽・誤情報のAI検知は単純に「2.」の効果をあげる結果しか生まないうえ、誤検知が多かった場合、さらに悪影響がある。
作戦の終了
作戦は戦術を実行して終わる。政治的勝利であり、相手国に対して強い政治的影響力を行使できる状態の実現と言える。現在においては軍事的勝利以上に政治的勝利が重要というのはアメリカの教訓からよくわかっている。ロシアも2014年の勝利を現在再現できていない。
「1.」,「2.」によって結束しての抵抗を困難にしつつ、攻撃の矛先を変え(自国の指導者など)、「3.」によって影響力を行使する。この状態を実現し、維持する。オンラインではないが、アメリカにとって日本は典型的(あるいは唯一?)な成功例だったと言ってもよいかもしれない。軍事的優位が政治的勝利をもたらし、以後も影響下におくことができた。
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