ニュースに関心を持っているほど、政府やメディアの偽・誤情報脅威ナラティブにはまりやすい

最近の政府の省庁やメディアによる偽・誤情報脅威論の煽りには目を疑うものも多い。先日、ロイタージャーナリズム研究所が公開した「ロイター・デジタルニュースリポート2024」の偽・誤情報に関する部分について、NHK放送文化研究所ブログに解説記事https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/200/671694.html )が掲載されていた。

解釈が真逆だったNHK放送文化研究所ブログ

最近、フェイクニュースへの不安が高まっていることを「認識が高まった」と肯定的に評価し、ニュースや政治に関心があるほど、不安を持っているとなっていた。ニュースを「主体的に、批判的検証をしながら読み取っている」ことが反映されていると解説していた。ここまでの話をお読みになった方にはすぐにわかると思うが、ほぼ真逆の解釈も可能だ。

「メディアや政府の情報に多く接しているほど、実態と乖離した(実際には偽・誤情報の割合と影響力は低い)情報不信に陥り、警戒主義化している」

こちらの方が説得力がある。なぜならこれまで何度も書いたように偽・誤情報の脅威は検証されていないからだ。検証されていないものの脅威論はナラティブであり、それを組織的に拡散するのは「民主主義への脅威」に他ならない。
こうした例は枚挙に暇がない。

総務省委託のみずほ総研の意図的な誘導

総務省の委託でみずほリサーチ&テクノロジーズという会社が、「令和5年度 国内外における偽・誤情報に関する意識調査結果紹介」https://www.soumu.go.jp/main_content/000945550.pdf )という報告書を提出している。この中に「結果ありき」としか思えない質問があった。
「偽・誤情報を「週1回以上」(毎日、またはほぼ毎日+最低週1回)見かけた割合」、あるいは「直近の1ヶ月の間で、あなた自身が偽情報・誤情報※だと思う情報を、次に示すオンラインメディアの中でどの程度見かけましたか」といった質問がいくつもある。問題は偽・誤情報以外について質問していないことだ。そのため全体の中での割合がわからない。たとえばアメリカで実施されたいくつかの調査では正しい情報に比べて偽・誤情報の摂取は極めて少ないことがわかっている。

情報エコシステムの中での誤・偽情報の重要性を、2016年1月から3年間のメディア消費データから検証した論文、 https://note.com/ichi_twnovel/n/n45aedb12dedd

この質問が偽・誤情報の割合が低い結果になることを見越して、意図的に偽・誤情報があふれているかのような錯覚を与える結果に誘導しようとしていることは総務省の方針からみても明らかだ。当たり前だが、日本の省庁は金を払えば思った通りの調査結果を出してくれるシンクタンクをいくつも抱えているのだろう。

偽・誤情報陰謀論を流布する省庁とメディア

もちろん、偽・誤情報陰謀論を省庁が唱えるのは新しい予算確保や天下り先機関を作れるメリットだけではない。メディアも目新しいネタだから飛びついているだけでもない。

政府にとっては、やっかいな国内問題に市民の目が向くのを避けるためには、ロシアなどの脅威を持ち出して、安全保障問題にすり替えるのが楽だ。調査研究機関や専門家にとっても、偽・誤情報が大きくなるほど、新しい資金を得られる可能性が増えるので、あえてメディアや政府の方向性にしたがって資金をもらった方が利口だ。

以前に記事( https://note.com/ichi_twnovel/n/nce2f420dd2d7 )に書いたように、メディアにとって偽・誤情報問題は読者に受けがよく、クレームが少ない貴重なテーマなのだ。さらに、とりあえずSNSプラットフォーム企業を批判しておけば記事が成立する。そのせいで2015年から2023年の米主要紙の調査では偽・誤情報は3番目に多くより上げられていた。

今回のNHK文化研究ブログ記事は、おそらく全く悪意はないのだろうと思うが、メディアと政府が拡散した偽・誤情報陰謀論にメディア内部の方々もはまっているということなのだろう。

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