民主主義の現在 アジアのネット世論操作の現状 モンゴル編 Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases
Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases(Asia Democracy Research Network=ADRN、2020年10月)
http://www.adrnresearch.org/publications/list.php?at=view&idx=118
Asia Democracy Research Network(ADRN)がまとめた報告書でアジア14カ国におけるネット世論操作のケースタスディがまとめられている。取り上げられている国は、日本、モンゴル、韓国、台湾、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタン、スリランカである。全体で300ページの大作だ。
日本の事例研究(https://note.com/ichi_twnovel/n/n74ff650210ab)についてはすでに紹介した。今回はモンゴルである。
モンゴルというと相撲とチンギス・ハーンくらいしか頭に浮かばない人も少なくないかもしれない。現在、同国は中国の一帯一路の中で重要な位置を占めており、経済発展著しく、インフラの整備も進んでいる。これに伴い日本のメーカーが同国に進出している。また、北朝鮮は発展途上の世界各国に労働者を派遣して収入を得ており、モンゴルもそのひとつとなっている。思ったほど遠い国ではないのである。
ちなみに、北朝鮮が自由主義国の手のおよばない国々に国民を派遣し、給与を受けとっている。中心となっている組織は「office39」と呼ばれ推定年間5億ドルを北朝鮮にもたらしているという。この20年で急速に規模が拡大したと言われている。
North Korea’s Secret Money(アルジャジーラ、2019年1月19日)
https://www.aljazeera.com/program/episode/2019/1/17/north-koreas-secret-money
モンゴルのネット世論操作については、オクスフォード大学The Computational Propaganda Projectのレポートには記載がなく、ざっと検索してもあまりこれといった資料は見当たらなかったので、今回のレポートは貴重な情報と言えるだろう。
*文中の数値は原則としてこのレポートに記載されていたものをそのまま用いています。
モンゴルの人口構成というのが日本とはだいぶ異なるので、まずそれをご紹介したい。14歳以下の人口が27%、15歳から24歳が20%、人口のほぼ半分が24歳以下となっており、60%は35歳未満である。つまり多くの国民は物心ついた時に、ネットとスマホがあった世代となる。
モンゴルでは急速にネットが普及しており、特にモバイルの普及が著しい。ただ、利用者は86.7%がウランバートルに集中している。IMD World Digital Competitiveness Ranking 2019によればモンゴルのスマホ保有率は世界第3位、通信への投資では世界6位となっている。
SNSはよく使われており、特にフェイスブックおよびメッセンジャーの利用が多い。急速なネットの普及と、それに追いついていないリテラシーや教育のギャップはネット世論操作を仕掛けやすい状況を作っている。地元のMEC Politbarometer projectはフェイスブックを利用して各候補者の選挙結果を79%の精度で予測している。
また、2020年の選挙の際には与党候補者に対する2つのスキャンダルが流布された(いずれもデマ)。
ネット世論操作、フェイクニュースを規制する法律は存在するが、どちらかというと市民やメディアの活動を抑制するために使われている。
Sinophobia(中国恐怖症)は少なからず存在し、これがネット世論操作の際の道具になる。たとえば30万人のフォロワーを持つフェイスブックページDMNNはよく相手を攻撃する際に、相手を中国人で中国のスパイだと言っている。また、モンゴルの野党政治かが口にしていたスローガン“Mongolia will win”は、“M. Enkhbold(与党候補) is Chinese and a genuine Mongolian should be elected”という意味であった。
なお、このレポートには明示されていなかったが、急速な発展の裏には中国のバックアップがあり、中国資本と中国人が大量に流入して社会に影響を与えているであろうことが読み取れる。