黒井文太郎『プーチンの正体』には日本で語られてこなかったことが満載
『プーチンの正体』(黒井文太郎、宝島新書、2022年5月27日)拝読した。
・本書の内容
プーチンという人物の過去から現在まで豊富な情報をもとに紐解き、歴史上稀にみる危険人物であることを明らかにしている。プーチンという人間と彼を支える組織を知るためには好適の本と言える。
1章の「ウクライナ侵攻の全内幕」ではまるで戦記もののように臨場感ある解説でどきどきした。
2章「21正規最悪の大虐殺者」でプーチンが主導したウクライナやシリアなどさまざまな虐殺を紹介し、3章「黒い独裁者の正体」でプーチンが現在の立場に上り詰めるまでを細かく追っている。プーチンは元から危険な人物であり、活動が活発になったのはアメリカが世界の警察であることやめたせいなのだ。
4章「プーチンの暗殺部隊」では、これまでプーチンが暗殺したとされた事例を整理し、実行部隊などを特定している。ベリングキャットが多数の事件でニューズメディアと協力して、犯人の特定を行っていることがくわしく紹介されている。ベリングキャットそのもの紹介記事や書籍もあるが、プーチンという文脈でみると違って見えてくる。
5章「フェイクニュースで世界を分断」ではロシアが世界で展開するネット世論操作について触れている。アメリカ大統領選挙からコロナにまつわる陰謀論やQAnonまで網羅している。
最後の6章「北方領土問題でプーチンに翻弄された日本」ではもともとロシアは北方領土を返す気がなかったことがくわしく解説されている。
・感想
プーチンおよびそれを支える組織を知るうえで貴重な資料だった。新書の中にコンパクトに豊富な情報が詰め込まれていて大変参考になった。
フェイクニュース、ネット世論操作についてはあっさりしていたと感じるのは私がそちらに関心を持っているせいかもしれない。
最後の「北方領土問題でプーチンに翻弄された日本」はほんとに著者の指摘している通りで、なぜ政治家から大手メディアや一般市民まで北方領土が戻ってくると考えていたのかほとうに不思議だ。いまだにこの謎は解けていない。
正直、ウクライナ侵攻にあたってのネット世論操作が詳述されているかもしれないと思っていたのだが、それはなかったので安心した。<自分の本『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社)がもうすぐ発売のため。